魂の進化
エリクの
強い思いで拮抗し始めたエリクは、互角の打ち合いを見せていた。
エリクが穿つ拳や蹴りが鬼神の揺らし、逆に放たれる拳や蹴りを辛うじて耐えている。
フォウルもエリクが放つ同じ攻撃を交互に撃ち、その中で口元に僅かの青い血を流す姿を見せた。
『……互角? ううん、エリクが押し始めてる……!!』
それを遠巻きに見ていたアリアが、戦況の変化を視覚的に察する。
互いに互いの攻撃を受けながら踏み止まっていた情勢が、少しずつエリクの優勢に傾き始めていた。
傷付いて見えるエリクの拳や蹴りの威力と速度が増し、フォウルの攻撃に揺らぐ挙動が少なくなっている。
それに対してフォウルの攻撃速度も威力も変わらず、逆に重くなり始めたエリクの攻撃に揺らぎを強くさせていた。
しかし、必死のエリクに対してフォウルは鬼気とした笑みを強めている。
その様子をエリクもアリアも互いに認識し、まだフォウルに余裕がある事を感じざるを得なかった。
そうした中で、右頬を殴られたフォウルが動きを止める。
突如として止まったフォウルに、二人は怪訝な表情を見せた。
しかし逸らした顔を戻してエリクを見たフォウルが、口から流れる青い血を拭いながら喋り始める。
『――……軟弱な人間が、よくここまで追い付いた』
「!」
『遊びは、そろそろ止めだ』
「……遊びだと?」
『テメェに合わせて
「次……?」
『
「!」
フォウルがそう言い放った途端、今まで見せていなかった赤い魔力を体中から放出し始める。
その重圧と重なるように放たれる殺意が、エリクの精神に突き刺さるように感じられた。
そして一歩下がりながら腰を低く右拳を引きながら構えたフォウルが、ニヤけた表情から真剣な面持ちに変える。
『――……行くぜ』
「!!」
『!』
そう呟いたフォウルは、次の瞬間に捉え切れない速度で赤い魔力を纏わせた右拳を放つ。
僅かな
今までと違い、その巨大な赤い拳を受けたエリクが防御の上から吹き飛ばされる。
しかし十数メートル程の後退をしながらも、エリクは辛うじて踏み止まった。
『よく耐えた』
「!?」
『だが耐えるばかりじゃ、俺には勝てんぞ』
そう言い放つフォウルが構えると同時に、その巨体を跳躍させてエリクに左拳を放つ。
エリクは再び感覚でそれを横に飛びながら紙一重で回避したが、その場で左足のみを着地したフォウルが右足を跳ね上がて蹴りを放った。
「ガッ、ハ……!!」
『逃げないんじゃなかったか、おいッ!!』
突如として決闘方式から戦い方を変えたフォウルは、赤い魔力を纏わせた殴打をエリクに撃ち始める。
それを回避しようとすれば罵声と共に次の攻撃が繰り出され、防戦一方の状態へエリクは追い込まれた。
その戦い方に、思わずアリアが怒鳴りながら口を挟む。
『ちょ、ちょっと! 決闘のやり方でやるって――……』
『言ったろうが!
『ズルいわよ!』
『どんな戦いにも、ズルなんてあるもんかよ!』
『!!』
『年齢!』
「グァッ!!」
『性別!』
「ガ……ッ!!」
『
「ゥ、グォ……!!」
『種族差!』
「ォ、アァ……ッ!」
『魔力!』
「グ、フゥ……ッ!」
『
「ァ、ォオオッ!!」
『技術!』
「ブハ……ッ!!」
『情報!』
「ア、ガ……ッ!!」
『武具! そして兵器!』
「ハゥ、ァア!!」
『
「――……グァアアッ!!」
『そして精神! ――……自分が持ち得る手段を全て駆使して相手に挑むのが、本当の戦いってもんだろうがよッ!!』
『……!!』
そう言い放ちながらエリクに殴打を浴びせ続けるフォウルに、アリアは歯痒い表情を浮かべながらも口を閉じる。
フォウルが述べている事は、戦いの本質として正しいとアリアは理解できてしまう。
戦いとは、互いの生死を賭けた闘争であり死力を尽くす行動。
だからこそ互いに用いる全てを使い、目の前の相手と対峙する。
そして同じ魂の中に存在しながらも、エリクとフォウルもまた別の『個』を持つ存在。
互いに強い意思を持ち対峙すれば、互いの全てを用いて戦うのは必然だった。
むしろ今まで、エリクが拮抗できる
それを止めて本気で戦うという事は、フォウルが持つ全てを駆使してエリクの
『そぉらッ! ちっとは反撃しろや!!』
「グッ、ガアォォ!!」
フォウルは絶え間のない殴打を繰り広げながら、エリクにそう煽る。
それにエリクは強い意思で耐え抜き、幾度か攻撃を加えようと手足を動かした。
しかしそれを先読みするように、フォウルの攻撃がエリクに襲い掛かる。
反撃する隙を与えられず、また避ければ自身の意思を否定され、エリクは防戦一方へ陥った。
『どうした! テメェの全てを見せてみろ!!』
「が、は……っ!!」
『テメェが今まで得たモンは、意思は、そんなもんかよッ!!』
「ぁ、ぅがぁあ!!」
フォウルの殴打を浴びながら吹き飛ばされ、その都度に間合いを詰められて別の攻撃がエリクを襲う。
その中で浴びせられる挑発の言葉と攻撃に、エリクは歯を剥き出しにしながら抗おうとした。
しかしその全てが、フォウルに圧倒され圧し潰される。
精神で拮抗し始めていたエリクに再び敗北と死の思いが強まり、それがエリクの
『ハッ! やっぱテメェは、その程度か!!』
「ッ!!」
『所詮、テメェは自分の命が惜しいだけの
「……ッ!!」
『誰かを守るだの、俺に負けないだの、自分の命も守れねぇ軟弱野郎が
殴打を繰り広げながら常に接近して攻撃と罵声を浴びせ続けるフォウルに、エリクは防戦一方で反論できない。
それでもフォウルの言葉がエリクの弱まり始めた
「……俺は……ウガッ!!」
『あぁ!?』
「……俺は、負けない……ッ!!」
『その
「俺は――……ッ!!」
防戦の中でエリクが呟く言葉に、フォウルは煽りと共に蹴り上げた足で防御している腕を弾き飛ばす。
それと同時に隙が出来たエリクに正面に、フォウルは赤い魔力を纏わせた右拳を躊躇せず放った。
顔面に迫るフォウルの巨大な右拳に、エリクは自分の死を否応なく感じさせる。
しかし同時に、エリクの中に強く思う生きる事への執着と意思が、急激に
「――……お前にだけは、負けたくないッ!!」
『!』
『あれは、まさか……!?』
まさに眼前に迫る
その輝きがフォウルの赤い魔力同様に精神を纏い、白い光がエリクの身を包み込んだ。
そして拳が直撃する寸前、エリクは顎を引いて額でフォウルの拳を受け止める。
赤い魔力を纏うフォウルの拳と、白い光を纏うエリクの頭突きがぶつかり合い互いに踏み止まりながら、その場に凄まじい余波を生み出した。
その余波を受けてよろめくアリアは、エリクから放たれる白い光の正体に気付く。
『……あの膨大な光は、エリクの
『――……ハッ、ようやく辿り着いたか』
『まさか、この短期間で……エリクの魂が進化した……!?』
アリアがエリクの魂が進化し、強い
対するフォウルもそれに気付いた節をニヤけた口元に浮かべ、呟くように目を笑わせた。
「……俺は、お前に勝つ!!」
『やってみろ、小僧がッ!!』
身に纏う
それに相対するフォウルは鬼気とした笑みを浮かべ、赤い魔力を更に迸らせながら同じように飛び掛かった。
二人が撃ち放った拳が擦れ違い、互いの左顔面へ直撃する。
そして直撃した二人は互いに吹き飛ばされ、同時に身を捻りながら素早く起き上がった。
『……まさか、あいつ……。
今まで防戦一方だったエリクが、形なりにもフォウルと再び拮抗した戦いをし始める。
それを見たアリアは、初めてフォウルが何をしたいのかに気付き始めた。
『鬼神』と呼ばれた【
そして魂が進化し、強い
二人の魂から放たれる咆哮は、互いに反発しながらも引き上げられながら強まっていた。
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