親友との再会


 戦死した兵士達の火葬が終わった次の日、予定通りアスラント同盟国の首都から救援部隊が赴く。

 首都の救援部隊も各地の部隊同様に、若者が多く当用されていた。


 到着し行軍している部隊を遠巻きに見ていたエリク達は、首都の部隊も各地と同じ状況なのだと思う。

 しかしそうした中に、奇妙なモノがある事にマギルスが気付いた。


「――……ねぇねぇ。アレ、なんだろ?」


「ん? ……なんだ、あれ?」


「鉄の、荷車か?」


「でも、馬や牛で引いてないよ?」


「確かに……」


「……大砲が、前に付いているような気がするが……?」


 エリク達は行軍する兵士達の列に、荷馬車以外の物が加わっている事に気付く。

 それは鉄製の外装に覆われた荷車であり、馬や牛に引かれていないにもかかわらず自力で動いていた。


 複数の車輪で動いているかと思えば、その車輪に凹凸のある鉄板が覆うように嵌め込まれ、それが回転しながら地に足を着けている。

 そして前方には細長い砲身が取り付けられており、エリクは国の外壁や船に取り付けられていた砲身に似ていると察した。


 エリク達が奇妙な目を隠さないまま、首都の部隊を見ている。

 それに気付き横で控えていた部隊長が、エリク達に見ている兵器を説明した。


「あれは、戦車ですね」


「せんしゃ?」


「同盟国で開発した陸上兵器です。海上用で兵器として用いられる戦艦同様、あの中に兵士が搭乗して、戦車を操作しています」


「ふーん。強いの?」


「我々が保有する陸上兵器の中では、最も頼もしく頑丈です。銃弾程度であれば鉄の表面で弾きますし、ある程度の爆風にも耐えられます」


「……今回の戦いで、あの戦車は港にあったのか?」


「複数ありましたが、全て破壊されていました。恐らく、敵魔導人形ゴーレムが搭乗前の戦車を真っ先に狙ったんでしょう。人が乗らなければ、ただの置物に過ぎませんから」


「そうか」


「それと、戦車自体の数も少ないと聞きます。各防衛部隊に二機ずつ配置されているそうなので、ほとんどが都市防衛用に用いられています」


「……なら、あれは首都の?」


「首都の兵力を、かなり振り分けてくれたのでしょう。……それだけ、この港都市の防衛は重要だったのですが……」


 部隊長は渋い表情を俯かせ、港都市の方を見る。


 各地に分散している同盟国の民衆にとって、この港都市は水産物の供給できる場所として有用だった。

 それが魔導国の兵器によって奇襲を受け、港としての都市機能が完全に失われてしまう。


 大陸の西側にある港都市と首都の位置関係からしても、奇襲を受けてから三日後に救援部隊を届けるのはかなり早い事を、実際に首都から港都市の道を通ったエリク達は知っていた。

 しかし遅すぎた部隊と新兵器の来援は、生き残った者達に哀愁を漂わせる。


 その哀愁を敢えて封じた部隊長は、敬礼しながらエリク達に告げた。


「私は、来援した部隊を指揮する方と話をしてきます。どうぞ、こちらでお待ちください」


「分かった」


 部隊長はそう伝え、駆けながら到着した部隊に向かう。

 そして十数分後に、部隊長と共に一人の兵士が戻って来た。


 その兵士もエリク達に敬礼を向けると、部隊長が兵士の素性を伝える。


「来援して来た首都防衛分隊の、副官殿です」


「初めまして。皆様が港都市の防衛に助力を頂いた事は、伝え聞いています。分隊長に代わり、御礼を申し上げます」


「いや……」


 助力に関する礼を述べられながらも、エリクは渋い表情を見せながら首を横に振る。

 死んでいった者達の事を思い浮かべるエリクの悲痛な内心を他所に、副官は言葉を続けた。 


「分隊長ですが、別の用件を済ませています。もし宜しければ、分隊長がいる場所まで赴いて頂けると……」


「……お前達が、首都に俺達を?」


「はい。ダニアス議長より、貴方達を首都まで護衛し同行するように命令を受けています」


「そうか。……分かった、会おう」


「ありがとうございます。……それでは、我々が護衛を引き継ぎます」


「頼みます。……それでは皆様、御武運を」


 礼を述べながら敬礼する副官は、海軍上陸部隊の部隊長に引き継ぎを伝えて敬礼する。

 それに応じるように部隊長が敬礼すると、エリク達にも別れの挨拶を向けて自身の部隊へ戻った。


「それでは、こちらへ」

 

 それを見送る一同を、副官が案内するように導く。

 エリク達は港都市の外側に仮設営されていた救援部隊の天幕テントが密集している場所まで赴いた。

 そしてある天幕テントの前で止まった副官は振り返り、エリク達に伝える。


「――……ここに、分隊長がいらっしゃいます」


「そうか。……中に、二人いるな」


「少し、お待ちください。まだ面会中のようで……」


「面会?」


「実は、分隊長の息子さんが港都市で新兵の訓練教官を務めておりまして。その息子さんと、面会を……」


「そうか。その息子は、無事だったのか?」


「はい。……それと、分隊長はエリク殿とも面識があると伺っています」


「俺と?」


「なんでも、エリク殿とは皇国時代の親友だったと。……お心当たりは?」


「……まさか……?」


 エリクは副官の言葉を聞き、記憶を手繰り寄せながら一つの答えに辿り着く。

 そんな時、天幕テントの中から低い男の声が届いた。


「――……おい、連れてきたのか!」


「はい、分隊長!」


「そうか、中に入れてくれ!」


「宜しいのですか?」


「ああ!」


 分隊長の声に反応した副官が、その呼び掛けに答える。

 そして分隊長の声に聞き覚えを抱いたエリクは、補佐官に導かれる前に天幕テントの入り口を潜り入った。


 そこには、二人の男がいた。


 一人にはエリクも見覚えがあり、三十代半ばで軍服を着た黒髪の男が立っている。

 その男性はエリクが港都市に降りた際、襲われているところを助けた兵士の一人だった。


 そしてもう一人、白髪混じりに野生的な黒髭と黒髪を生やした老兵が、椅子代わりにした木箱の上に座っている。

 その老兵はエリクより小柄ながらも逞しく、身体の各所にある傷と筋骨逞しい肉体が多くの戦歴を物語っていた。


 老兵の顔を見たエリクは、今まで影を含んだ表情を僅かに緩ませて口元を微笑ませる。

 その老兵もまた、エリクの顔を見て口元を大きく微笑ませながら立ち上がった。


「よう、エリク! 久し振りだな!」


「……ああ。久し振りだ、グラド」


 二人は互いに知る名を呼び合い、歩きながら近付いて握手を交わす。


 アスラント同盟国軍で、首都防衛の分隊長を務める老兵。

 彼は三十年前のルクソード皇国でエリクと出会い、事件を通じて短くも交流を深めたグラドだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る