第六感


 各自の目標を各々が再認識した後、昼食後にアリアは『黒』の七大聖人セブンスワンクロエは向かい合う。


 向かい合う理由は、以前に交渉した『空間魔法』や『時空間魔法』のこと。

 極一部の人間や魔族が使える魔法技術を、アリアは教えられていた。


「――……人間にしろ魔族にしろ、『魂』にはそれぞれ特質を持ちます。その特性の基礎を『火』『水』『風』『土』の四属性、そして特殊特性として『雷』『光』『闇』の三属性の知識が、魔法という形で人間大陸には広められました」


「そこは知ってるわ」


「しかし一つ、例外の特性があります。それが最後の八つ目、『時』の属性。空間や時空間に作用できるこの特性は、技術的なものより感性に近い感覚で行います。簡単に言えば、五感には無い認識能力とも言うべきでしょうか」


「認識能力……?」


「指や足を動かすように、極自然に扱う技術ということです。現代に普及している魔法は、魔法陣内に構築式を刻む事で魔力を取り込み、魔法として魔力を操作します。しかし『空間魔法』や『時空間魔法』は、それとは異なる方法を起点にします。これは個人の資質次第で、生まれながらに使える人もいますが、一生涯で使えない人が遥かに多い。一人で使える人もいれば、百人を超える集団でやっと使える人達もいますね」


「各国が所有してる『転移』の魔法陣のことね。あれは通常の魔法師が数十人単位で使用するから。……逆に個人で『空間魔法』や『時空間魔法』が使えるガンダルフやミネルヴァみたいな七大聖人セブンスワンは、資質の高い人間ってことね」


「はい。そして私の魂と肉体も『時』に特化した資質を持ちます。そうした資質がある者は、私のように特別な能力を生まれながらに持つ人もいますね。……アリアさんの資質次第では、私のように『時』属性の魔法は上手くは扱えません。それを承知した上で、まずは私からアリアさんの資質がどの程度のものかを確認させて頂きます」


「ええ、分かったわ」


「それじゃあ、まずはこれを。アリアさん、目を閉じてください」


 クロエはアリアの資質を確認する為に、再び時空間からトランプの束を取り出す。

 そして目を閉じたアリアの目の前にトランプを伏せ置き、十枚のトランプがアリアの目の前に並んだ。


「では、目を開けてください」


「……トランプ?」


「これは資質を確認する簡単な方法であり、選別です。今から私が指定するカードの柄と数字を、ここから引き当てて下さい。それを十回連続で成功させる事が、『時』属性魔法を扱える資質の最低条件です」


「!?」


「認識能力の高い人間は、視覚を始めとした五感以外の情報で物事を認識します。昔はそれを六つ目の感性、『第六感シックスセンス』とも呼んでいました。アリアさんには自分自身の認識能力を把握してもらった上で、しばらくこの訓練をしてもらいます」


「……これを出来ないと、空間魔法や時空間魔法を教えないってこと?」


「というより、これが出来なければ教えても無駄と言うべきでしょうか」


「!」


「『時』属性の魔法を扱える資質は、それほど希少なんです。数億という生命の中に一つか二つ存在すればかなり良い方だと言えます。ただの天才程度では、初歩すら学ぶ事も叶いません」


「……分かったわ。やってみましょう」


 クロエの指示する方法に従うアリアは、目の前に伏せられたカードに目を向ける。

 それを微笑みながら確認したクロエは、伏せたカードを指示していった。


「まずは、スペードの五を」


「……」


「次は、ハートの十を」


「……ッ」


「次は――……」


 クロエは次々と伏せたカードの銘柄と数字を述べ、アリアはそれだと思う物を手に取り見せる。

 結果として、十枚を開き二枚しかアリアはカードを当てる事が出来なかった。


「二枚だけ、ですね」


「……不合格?」


「はい。少なくとも十枚全てを的中できることが、最低条件ですから」


「……ッ」


「これはあくまで、資質を確認し開花させる為の簡単な訓練です。運頼みや五感を使って当てても意味はありません。直感と呼ぶべき第六感シックスセンスのみで当てないと、資質を鍛える訓練にはなりませんよ」


「直感のみで……」


「さぁ、どんどんやりましょう。今日中に十回連続で五枚を的中できるようになれば、順調な方です」


 微笑みながらトランプを山札に戻したクロエは、カードを混ぜ新たな十枚を場に伏せる。

 そして指示される柄と数字のトランプをアリアは何度も捲り、直感のみで当てさせられた。


 この時、クロエは場に伏せたカードを一度も見ていない。

 にも関わらず、暴かれたカード全てがクロエの指示した種類が必ず在った。

 この時点でクロエの直感はアリアより遥かに優れている事が証明され、それを理解するアリアは文句も述べられずにカードを捲り続ける。

 

 そんな様子を見ていたマギルスが興味を示し、クロエとアリアに近付いて来た。


「ねぇねぇ。それ、僕もやりたい!」


「いいよ。マギルスもやってみようか」


「わーい!」


 アリアが悩む横でマギルスにも十枚のトランプが配られ、クロエが指示する種類を捲り当てる。 

 その結果、マギルスは一度目で六枚を引き当てた。


「六枚だ。これって良いの?」


「うん。マギルスは、アリアさんより直感が優れてるね」


「わーい! アリアお姉さんより僕の方が上だぁ!」


「グ……ッ。ちょっと、もう一回よ! もう一回!」


「僕も、もう一回やるー!」 


 アリアが横で煽るマギルスに感化され、躍起になってトランプ当てを続行する。

 そしてマギルスも勝利できた事で調子付き、再び配られたトランプを捲った。


 一見すれば三人が遊んでいるような光景を見て、ケイルは呆れながら食事後の片付けを行い、エリクはそれを手伝った後に馬車に背中を預けて瞑想を始める。

 しかしマギルスは五枚以上を的確に当て、五枚以下しか当てられないアリアが意固地になってしまった。


 結局その日は、その場で野営が行われ寝泊りをする事になる。

 そして子供達とケイルが寝てエリクが周囲の見張りをする中で、アリアは一人で黙々とトランプを当てる作業を行い続けた。


 それから数日間、アリアは五枚以上のカードを当てられずに過ごす事となる。

 クロエに予告した通りには行かず、アリアは港町に着くまで安定して五枚以上のカードを的中させる事が出来なかった。


 余談ではあるが、エリクとケイルもそれを行っている。

 そして五回中五回で五枚以上のカードを当てるという結果を見たアリアが、更に意固地になってしまったことは言うまでもない。

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