救助活動
場面は、ランヴァルディアとアリアが皇都で相見える前に戻る。
皇都へ向かう途中のマギルスとエリクは、全速力で駆けながらもランヴァルディアに追い付けない。
時刻は既に夜へと入り、数時間を走り続ける魔人の二人でも疲弊が見える。
そんな時、二人は背後から凄まじい気配を感じた。
立ち止まった二人は背後を見て、気配を感じる上空を見る。
すると白い光が上空を凄まじい速度で飛びながら皇都へと向かう姿を確認する事が出来た。
しかもその光に紛れるのは、白銀の翼を六枚背負い羽ばたかせる人影も見える。
遠目にそれを見たエリクより先に、マギルスがその正体を呟いた。
「――……アリアお姉さんだ」
「なに……!?」
「マシラでエリクおじさんが暴走した時に戦ったアリアお姉さんの姿だよ、あれ。……って、覚えてないんだっけ?」
「俺と……!?」
「アリアお姉さん、目を覚ましたんだ。おーい!」
エリクがマシラで暴走した際にアリアと戦った事を初めて報せれ驚く中で、マギルスが上空のアリアを呼ぶ為に叫ぶ。
しかしそれに気付かれる様子も無く、アリアは凄まじい速度で通り過ぎて皇都へと向かった。
「ちぇっ、ダメだ。聞こえてないや」
「……急ぐぞ」
「そうだね、急ごうか。このままだとアリアお姉さんに遊び相手を取られそうだし!」
互いに別の理由を持ちながら、アリアを追う為に二人は地面や岩場を蹴り上げて駆け抜ける。
それから十数分程ほど経つと、別の気配が近付いているのをマギルスは感じた。
それが何かを知っていたかのように、マギルスは後ろを振り返って声を掛けた。
「来た来た、僕の馬!」
「!」
皇国騎士団のいる仮設拠点に『赤』の七大聖人シルエスカを送り届けた青馬が、主人であるマギルスに追い付いた。
そしてマギルスは横並びになり軽く跳躍して青馬に乗り込むと、後方を走るエリクに顔を向ける。
「エリクおじさん! 僕、先に行くね!」
「ああ。……アリアを頼む」
「うん、分かった!」
エリクの頼みにマギルスは素直に応じる。
そして半精神生命体の青馬が生み出した魔力の手綱をマギルスは掴み、自身の数倍以上の速力で大地を走り抜けた。
あっという間にアリアとマギルスに距離的にも速力的にも大差をつけられたエリクは、肉体の疲労と共に漏れる汗を掻きながらも、大剣を手に持ち走り続ける。
そしてアリアとランヴァルディアの戦闘が開始され、少し遅れて到着したマギルスは結界が喪失した外壁を大鎌で刺しながら跳躍して登り、二人が戦う夜空を見てタイミングを見計らいながら参入する機会を待った。
そして、マギルスが二人の戦いに加わって数十分後。
遅れたエリクも皇都へ到着し大きく乱れた息を吐き出しながら、皇都の上空で戦う二つの光と暗く見え難いマギルスの人影を確認する。
「空の戦いか……」
マギルスのように
それでも何か出来ないかと三人の戦いに最も近い場所を探るエリクは、皇都正面の壁門へ向かう。
壁門は開け放たれており、負傷した兵士や流民街の人々が門を潜り避難する光景を目にしたエリクは、それ等の垣根を飛び越えて皇都内に入る。
そして皇都内部の惨状を見て、エリクは表情を強張らせた。
「……これは……!?」
エリクが見たのは、張られていたガラスがほぼ全て割れ砕ける建物と、全体が崩れ落ちて倒れる建築物の数々。
中には崩れた家から火が出て燃えている場所もある。
エリク達が皇都に訪れた時に見た事がある建物も存在していたが、ほぼ全てが破壊され原型を留めていない。
結界を破壊する為にランヴァルディアの放ったオーラの光球の衝撃を殺しきれず、皇都内の地面と建物が崩壊に至っていた。
エリクは驚きながらも崩壊した皇都内を歩く。
流民街に滞在していた旅人や商人達などが怪我をして建物の外に避難しており、逆に建物内に取り残されている者達を助けようと動く兵士や住民達の姿も見えた。
「……ッ」
エリクはそれを見た時、無意識に体が動く。
崩れた建物内部に取り残されている者達を助ける為に動く兵士や住民達がいる場所に行くと、エリクは呼び掛けた。
「そこに、誰か残っているのか?」
「あ、あぁ! 何人か、まだ中に……」
「それを
「そ、そうだが。重くて動かないんだ……」
男達が数人掛かりで動かそうとする崩れた建物は重く、更に散乱した足場で力が入り難い。
それを確認したエリクは辺りを見て確認すると、崩れた建物の残骸を手で持ち除け始めた。
男手複数で運搬が必要な瓦礫の山をたった一人で除けていくエリクに驚く者達だったが、エリクが退ける場所を問い掛けると救助作業に戻った。
エリクの手によって瓦礫が除けられ、崩れた建物に残された者達が救出されていく。
救助される中には老人や子供なども多く、突如として建物が崩壊した為に外に居た者達以外で自力で脱出できていたのは僅かのみ。
そうした者達を掻き集めて崩壊した建物から出る火の燃え広がりを妨ぎ、エリクを中心に出来る限りの救助が行われた。
エリクは救助活動に置いて多大に貢献しながらも、救い出せなかった者達も多くいる。
完全に瓦礫に押し潰されて絶命している者や、火事で燃え息を出来ずに絶命した者もいる。
救助する者達は、生き残った者達だけは辛うじて助け出していった。
「――……ありがとう、本当にありがとう!」
「アンタが助けてくれなかったら、俺も燃えちまってた……ッ」
「いや……」
エリクは崩壊に巻き込まれた人々を助け出し、それぞれが言葉を交えて感謝していく。
それを軽く流すエリクだったが、近くで避難誘導をする兵士達の話が耳に届いた。
「市民街西地区の避難が遅れているらしいぞ……」
「なんだと……!?」
「例の光の弾が直撃した時、それが雨みたいに撒き散らされただろ? 西地区の方にかなり降り注いだらしくて、建物が崩れて道が塞がってるらしい。それに火の手も回ってるせいで、救助が――……」
市民街にある西地区の被害を聞いたエリクは、そこに住んでいたグラドの家族を思い出す。
エリクは市民街へ通じる壁門へと走り跳び、辿り着きながらも市民街から来る避難民達の波がエリクの行く手を阻んだ。
思考するエリクは壁門から離れ、市民街を囲む壁を見る。
そして崩れかけている壁を見つけると、壁に張り付いて内壁近くに人の気配や声が無い事を確認して大剣を構えて、壁に何度も大剣を叩き付けた。
エリクの怪力と大剣の硬度が壁を突き破り、そこから市民街へ入る。
そして西地区へ向かったエリクは、崩壊した市民街の中を走りながらグラドの家があった場所へ向かった。
西地区の多くは火の手が回り、高い建物から低い建物まで崩れて道を塞ぐ。
不自然に空いている穴は降り注いだ光球の欠片であり、それが原因で多くの被害を及ぼしていた。
それでもエリクはグラドの家に辿り着き、その惨状を確認する。
「――……ッ」
エリクが見たのは、火の手が回り燃え広がり始めているグラドの家。
二階は完全に潰れて崩れ、入り口だった扉も崩壊と共に原型を留めていなかった。
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