夜の皇都
場面は、エリクがアリア達と宿で別れた時間に戻る。
アリアとケイルは共に宿を抜け出し夜の皇都に出た瞬間、アリアの偽装魔法で姿を変えていた。
夜の皇都で女の姿は何かと厄介事になると思い、互いに男の姿へ偽装していた。
「便利なもんだな、魔法ってのは。こんな
「見た目が変わっても、その人間の本質や中身が変わるわけじゃないけどね」
「そりゃあそうだ」
「それで、これから情報屋を探すのよね。何処か当てはあるんでしょ?」
「まぁな。ただ、相手と接触する際はアタシの偽装だけ解く。あの手の奴等は見ない顔の奴を煙たがるし、信用しないからな」
「ケイルの顔なら、顔が効くってこと?」
「昔の伝手でな」
「……そう」
そんな話をしながら二人は皇都を歩き続ける。
夜ながらも明るく賑わいが残る表通りから裏通りに入ると、都心の灯りが離れ暗い街並みが見え始める。
そうした通りを歩くと、静かな空間ながらも肌に刺さるピリピリとした空気を察し、アリアが呟いた。
「……見られてる?」
「流石にお前でも分かるか。……裏道に入った瞬間から、アタシ等は見られてるぜ」
「!」
「お前は皇都の表の部分を随分と知ってるみたいだが、裏の部分は知らないだろ。……ここが、明るく華やかに見える皇都の裏側ってやつだ」
ケイルはそう言いながら歩みを止めず進み続ける。
皇都の表側とは違う裏側の空気に触れたアリアは、不快感を感じながらもケイルの後ろを付いて行く。
しばらく裏通りを歩くと、再び明るい区画に出た。
しかしその街並みは表通りとは違っていた。
「……ここは……」
「夜の
「……」
「嫌そうな顔すんなよ。表に集まる情報なんてのは国に選別されたもんばっかだ。裏の情報を知りたいなら、こうした場所にこそ集まるんだぜ」
「……分かってるわ」
「嫌なら宿に戻れよ。諦めてマギルス探しだけをやるしかないけどな」
「分かってるったら」
明らかに嫌そうな顔を見せるアリアに、ケイルは溜息を吐き出す。
男女が混同しながら如何わしい様子を見せる街の風景や、声を掛けて来る店の勧誘はアリアの表情を更に渋くさせるが、ケイルは平然とした様子で軽くあしらいながら通りを歩き続けた。
そんなケイルの様子を見ながら、アリアは尋ねた。
「こういう場所、慣れてるの?」
「……どういう意味で言ってるか知らないが、こんなのにイチイチ反応するのが面倒臭いだけだ。お前、傍から見たらこういうのに慣れてないカモに見えるんだよ。もっと堂々としてろ」
「だって……」
「だってもヘッタクレもねぇ。……お前もさっき言ったことだけどな。どんな姿になったとしても、そいつの中身が伴ってなきゃ何をやっても意味なんて無いんだ」
「……そうね。貴方を見習って、少しは堂々として見せましょうか」
嫌な表情を見せていたアリアだったが、ケイルの罵倒にも似た助言で覚悟を決め、その後は勧誘を軽く受け流す。
次第に夜の街並みに慣れたアリアを連れたケイルは、路地裏にあるとある怪しげな店で立ち止まった。
「ここ?」
「ああ。ここで欲しい
「この間も、この場所で情報屋の事を聞いたの?」
「ああ。店の中に入るけど、付いてくるか?」
「ええ」
そう小声で話し二人で店に入る。
外観こそ古い建物ながら、中は小綺麗に整えられた酒屋。
普通の酒屋と違う点は、瓶詰めにされた様々な食べ物や生き物を酒漬けにして商品として飾る光景だった。
「……果物だけじゃない。
「アタシは気味悪くて飲んだことねぇけど、一部の奴等には人気の酒らしいぞ」
「……悪趣味ね。絶対に飲みたくない」
「ゲテモノ食いにはたまらないんだろ。それより行くぞ」
気味悪がりながらも物珍しく見るアリアに声を掛け、ケイルは店の奥へ足を進めて行く。
そして店の奥で座り蛇酒を飲む剛毛な中年男性の姿を確認すると、ケイルは魔石を外套に収めて偽装を解除して話し掛けた。
「よぉ」
「……なんだ、ケイティルじゃねぇか。今日はまたどうした?」
「欲しい情報があってな。情報屋を紹介してほしい」
「……後ろの奴は?」
「アタシの舎弟だ。こういう場所に慣れてないらしいから、ついでに慣らす為に連れて来た」
「……そうか。どんな情報だ?」
「数日前に子供の借金奴隷を連れ去った盗人の情報。そして七大聖人シルエスカの動向に関する情報」
「……なるほど。お前が連れてたガキが奴隷を盗んだってのは本当だったか。だが、シルエスカの動向ってのはどういう……?」
「色は付ける。情報は?」
「……知ってそうな奴に心当たりはある。ちょいと待ってろ」
店主は椅子から立ち店の奥へ入ると、数分後に戻ってきて一枚の紙をケイルに渡した。
「そこに書いてある酒場で、お前が知りたい情報を持ってる奴が夜は飲んでる。交渉はそっちでやれ」
「ああ」
ケイルは懐から小さな袋を取り出し、店主に投げ渡す。
受け取った店主は袋を開けると、中にある金貨十数枚を見て確認した。
「十年と少し前には右も左も分からねぇような小娘だったのが、随分と羽振りが良くなったな」
「それじゃあ、アタシは行くぜ」
「ああ」
そうして簡素な別れを告げたケイルはアリアを連れて店を出る。
店主は蛇種の酒をグラスに注ぎ、一気に飲み干した。
「……悪いな。これも仕事だ」
店主は小声でそう漏らし、再び注いだ蛇酒で飲み込んで身体の奥へ流す。
その一方で、店を出たケイルは紙を見て情報屋の居る酒場へ向かった。
「この先にある酒場に、情報屋がいるらしい」
「あの人、信用は出来るの?」
「さぁな」
「さぁなって……」
「違ったり騙されたんなら後で文句でも言いに行けばいい。信用できるか出来ないかなんて、些細な問題だ」
「……そうね。そういうモノなのかしらね」
「ほら、行くぞ」
釈然としない気持ちを抱きながらも、再び魔石を握り偽装魔法を施したケイルの後をアリアは追う。
そして十数分後。
アリアとケイルは情報屋が居るという酒場まで辿り着いた。
「ここだな」
「……他の店と違って、馬鹿騒ぎが聞こえないわね」
「とりあえず入ってみよう。情報屋がいるかいないか、確認しなきゃ話にならない」
「ええ」
今まで通った酒場の喧騒が無い様子に、アリアは怪訝に思いながらもケイルと共に酒場に入る。
外見は簡素ながらも店内は豪華な佇まいの装飾品や調度品が置かれ、高級感を漂わせていた。
「!?」
アリア達が店内に入った瞬間、偽装魔法が強制的に解かれる。
入り口の照明が光属性の魔石で発光していることを、アリアは瞬時に悟った後、店内のカウンター席に一人の男が酒を飲みながら座っている姿を見た。
その後姿を見た二人は、表情を強張らせる。
「!」
「ちょっと、なんでコイツが……!?」
「――……ようこそ、俺の
カウンターの席が回り、男の正面姿が明かされる。
酒場に居たのは情報屋ではなく、傭兵ギルドマスターであり魔人のバンデラス。
まるでアリア達が来るのを理解し迎えたバンデラスは、不敵の笑みで二人を見据えた。
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