結社編
結社編 一章:ルクソード皇国
目指すべき場所
マシラ共和国の騒動に巻き込まれ脱出したアリアとエリク達は、新たな仲間であるケイルと乱入したマギルスを伴い、大陸の西側に移動していた。
荷車はマギルスの青馬の走りに耐え切れず車輪などが壊れ、仕方なく徒歩に切り替えた三人は旅を続ける。
約一名は青馬に騎乗していたが。
「……マギルス。馬に乗せなさいよ」
「ダメだよ。僕しか乗せないもん。試したでしょ?」
「荷馬車は引くのに、乗せるのはアンタだけなの?」
「うん」
「……精神生命体は、ほんとワケが分からないわね。契約か何かしてるのかしら?」
青馬を観察しながら興味深い視線を向けるアリアに、マギルスから話題を振った。
「それより、アリアお姉さん」
「なに?」
「いい加減、僕と遊んでよぉ! もうマシラから出たでしょ?」
「まだ駄目よ。追っ手がいるかもしれないでしょ?」
「ぶー!」
不貞腐れるマギルスと受け流すアリアの様子を横目で見るケイルは、呆れた顔を見せながら地図を広げた。
それを見ながら次の目的地をアリアに聞いた。
「おい、アリア」
「今度はケイル? なに?」
「お前の言う通り、港がある場所に向かっているわけなんだが。こっちに向かっていいんだよな?」
「ええ、西を目指すわ。次に目指す国は、【鬼神】を崇める国、フォウルよ!」
「!?」
それを聞いたケイルは驚き、馬に乗るマギルスは国の名を聞いて興味を示す。
エリクも同様で、驚きと共に興味深い視線をアリアに向けて聞いた。
「魔人が多く居る、フォウルに行くのか?」
「ええ。ゴズヴァールの言う事が正しければ、そこに行けばエリクは大幅に強くなれるらしいし。エリクも、興味はあるんでしょ?」
「……ああ」
「だったら、フォウルを目指しましょう!」
「そうか」
短く返事をするエリクだったが、その瞳に僅かな期待が宿る。
その話を聞いたケイルは呆れた声で聞いた。
「……お前、フォウル国がどういう場所にあるか、知ってるのか?」
「知ってるわよ。人間大陸で最も過酷な環境らしいわね」
「行ったら生きて戻れないと言われてる死の山。国が建てられてる場所は標高一万メートルを軽く超えてて、魔獣の中でも特に危険種が多く棲んでる上に、ゴズヴァール並の魔人達がゴロゴロいる滅茶苦茶な場所じゃねぇかよ」
「良いじゃない。私やエリクがいるんだし、余裕よ余裕」
「……まともな人間がアタシしかいねぇ」
笑うアリアに呆れた顔を向けるケイルは、地図を鞄に戻した。
その話に興味を持ったマギルスが話題を振った。
「ゴズヴァールおじさんが居た国かぁ。楽しみだなぁ!」
「なんでアンタまで行く気になってるのよ。連れて行かないわよ?」
「ええー!? だってお姉さん、遊んでくれるって言ったじゃない!?」
「遊びはするけど、旅に連れて行くなんて一言も言ってないわよ。第一、荷車を引く為に馬が必要だからアンタの同行を認めたんであって、荷車が無い今は、アンタを連れて行く必要は私達に無いの!」
「ひどい! 僕のこと弄んで用が終わったら捨てちゃうの!?」
「人聞きの悪い事を言わないでよ!」
そんな口論を続けるマギルスとアリアに、他の二人は軽い溜息を吐き出す。
マギルスが同行してから口論が絶えず、この光景も一行には見慣れたものとなっていた。
マシラ共和国からの脱出に成功しながらも、追っ手を懸念して野宿が続き、道中の村に寄っても食料や水を補給するだけに留め、港までの旅路は数日間ほど続く。
そしてアリア達は、昼間にマシラ共和国の勢力圏外にある西の港に辿り着く。
野宿生活と歩き旅に疲れ果てたアリアは、港町に着いた途端に宿を探して部屋を借りようとした。
「あぁー、やっとベットで寝られるぅ……!」
「おい、宿なんか入っていいのかよ?」
「一泊だけ! せめて御風呂と柔らかい布団で寝かせてぇ!」
「お前、追われてる自覚が本当にあるんだよな?」
「あるわよ! でもお願い! 一泊だけさせて!」
「……はぁ。しょうがねぇなぁ……」
アリアの我侭をケイルは許し、エリクも無言で同意したこの日は、港町の宿で泊まる事になった。
大きな宿の部屋は二人部屋しか残っておらず、女性のアリアとケイルが同室になり、男性のエリクとマギルスが同室になる。
エリクはアリアを守る為に同室になる事を望んだが、ケイルに押し切られた。
宿の部屋に備え付けられた風呂にアリアは浸かり、二時間以上の入浴後に就寝する。
そしてケイルは西に向かう船などの情報を仕入れる為に宿から離れた。
それを聞いたエリクはアリアの居る部屋の前で待機しようとしたが、扉に罠を仕掛けたと伝えるケイルを信頼し部屋の中で待機する。
そして静かに座るエリクと興味深そうに視線を向けるマギルスが、言葉を交えた。
「ねぇねぇ、おじさん」
「……なんだ?」
「おじさんも、僕と同じ魔人なんだよね?」
「そうらしい」
「おじさんが暴れた時の事、覚えてる?」
「……王宮に侵入した時のことか?」
「そうそう。ゴズヴァールおじさんと戦って、ボロボロになった後。おじさん、赤い鬼になって暴れ出したんだよ?」
「……それは、覚えていない」
「そっか。まぁ、暴走してたら覚えてないよね。おじさんって、誰かに力の使い方は教わったの?」
「力の、使い方?」
「僕達みたいな魔人には、身体の中に魔力があるんだって。それを使うとね、凄く高く跳んだり、凄い力で殴れたり、どんな攻撃でも耐えられたりするんだよ!」
「……そうか。あまり、今と変わらないな」
「今よりもっと凄くなるんだよ。おじさん、エアハルトお兄さんをそのままで倒せたんだよね。だったらきっと、魔人の力を使いこなせたら、もっと強くなるよね?」
「……」
「あれ。おじさん、強くなりたくないの?」
マギルスの問いに答えなくなったエリクは、表情に僅かな影を落とした。
「……俺は、確かに強くなりたい」
「だよね、だよね! 僕もいっぱい遊ぶ為に、強くなりたいんだ!」
「だが強くなる事は、どうでもいい」
「え?」
「俺は、アリアを守る為に強くなる。強くならずに守れるなら、今のままでいい」
「え……」
「俺より強い者達がこの世界には多くいるのだと知った。だからフォウルという国に行く。アリアを守る力を得る為に」
「……おじさん、変わってるね」
「そうか?」
「皆より強くなりたいって、思ったことは無いの?」
「どうしてだ?」
「どうしてって……。強い力を持ってたら、もっと強くなって、誰よりも強くなって、この世界で一番強くなりたいって思わないの?」
「……思わないな」
「どうして?」
「……生きる為に必要なのは、力だけじゃない」
「え……?」
「アリアは、それを俺に教えてくれた。だから、俺はそう思わない。……少し眠る」
そう伝えたエリクは、ベットの上に腰掛けたまま静かに眠った。
マギルスはそれを不思議な視線で見つめ、不可解な表情で悩む。
生きるのに必要なのは、力だけじゃない。
その言葉をアリアからもエリクからも聞いたマギルスは、自分には無い価値観を理解できずにベッドに寝転がり、目を閉じて眠った。
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