家の掃除
空いている部屋を見て回ったアリアとエリク、そして案内役も兼ねたケイルは、再び地主である老婆の居た家へ戻って来た。
老婆と話すのはアリアであり、渡された部屋が書かれた羊皮紙の中から、一つを選んで老婆に交渉した。
「この家をお借りします」
「……ふんっ、コレにしたかい」
「お婆さんのお勧めしてくれた物件だけあって、良い家と部屋でした。本当に散らかってましたけど」
「前の奴が荒らしたまんまで出て行ったからね。片付けまではやらないよ」
「はい、私達で片付けようと思います。片付ければ、食事やトイレもあそこで出来そうですし、良い家です」
「ふんっ、そうかい。家賃は週で金貨二枚だよ」
「分かりました。それでは、今月分の金貨八枚と、来月分の金貨八枚も支払っておきます」
「なんだい、随分と金を持ってるんじゃないか、嬢ちゃん。どこぞの貴族の御嬢様が道楽で傭兵にでもなったかい」
「道楽なら良かったんですけどね」
「……そうかい、ワケ有りだって言ってたね。まあ、こっちに迷惑は掛けないどくれよ」
「はい、分かりました」
アリアは羊皮紙に名前を書き、契約書して一軒屋を借りた。
家の鍵はそのままアリアの手元に置かれ、家の補修などをする場合は自分達でしろと言われた。
手続きを終えて老婆が住む小屋の家を出る時に、アリアは微笑みながら老場に顔を向けた。
「また今度、体の様子を見に来ますから。お大事にしてください」
「ふんっ、余計な御世話だよ」
「はい。その余計な御世話は、私がしたいことなので。それでは、また今度」
「……ふんっ」
家の扉が閉められ、老婆とアリア達は別れた。
そしてケイルは呆れた様子でアリアに聞いた。
「なんであんな偏屈な婆さんの相手を、好き好んでしてんだよ?」
「あら、素直な人だと思うけど?」
「す、素直?」
「気に入った人にはちゃんと対応してくれるし、真っ直ぐ話してくれる。ああいう素直なお婆ちゃん、私は好きよ」
「……どうしたらそういう解釈になるんだか」
「少なくとも、帝国の老獪な老人貴族達に比べれば、ずっと素直な人よ。向こうはこっちをネチネチ言葉攻めしてきても、笑顔でニコニコ接しなきゃいけない時に比べれば、あのお婆ちゃんの態度は素直で分かり易いわ」
「……これだから貴族ってのは……」
呆れるケイルと微笑むアリアは並んで歩き、その後ろをエリクは付いて行く。
歩く道中、アリアは二人に向けて話した。
「住める家は決まったし、明日は本格的にあの家を片付けて、次の日には寝泊りできる程度にしましょう。エリク、掃除はしたことある?」
「家の掃除とは、魔物を片付ける感じで良いのか?」
「……うん。エリクには掃除の仕方から教えるとして。ケイルは?」
「流石に、コイツより酷くねぇよ」
「良かったわ。それじゃあ、今から掃除道具を買って、あの家に行きましょ」
そう不意を突いたように出た言葉で、ケイルは思わずアリアを二度見して聞いた。
「えっ。片付けは明日からだろ?」
「本格的な片付けはね。今日は瓦礫とか破損した部分は全部取っ払って、家の中をある程度まで片付けちゃいましょう」
「い、いや。それこそ明日からでも……」
「何言ってるのよ。あれだけ散らかってるんだから、明日中に片付けるのは無理だわ。今日中に少しは片付けましょう」
「そ、そうかよ。じゃあ頑張ってな……」
「ケイルも片付けるの。あの家に一緒に住むんだから」
「ア、アタシは別のとこを借りるからいいって!」
「ダーメ、エリク!」
「ああ」
「コ、コラッ! 離せエリク!」
エリクに担がれて拘束されたケイルは、強制的に部屋の掃除に参加させられた。
箒や雑巾を始めとした掃除道具を購入したアリアは、それを運びつつ自分達が借りる家まで戻り、エリクに掃除を教えながら片付けを開始した。
ケイルは渋々と付き合わされながら、エリクと共に室内に放置された瓦礫や異臭物を家の外に運び終えた後、庭で待つアリアが土魔法で開けた穴に物を投げ込む。
そしてアリアは穴の中に強力な炎を生み出し、瓦礫や異臭物を全て燃やしつつ、土魔法で蓋をした。
「こうやって何回か繰り返して、必要ないモノは全て焼却処理よ。売れそうだったり再利用できそうなモノは残して使うけど、使えないモノは容赦無く、燃やしつつ埋めちゃうからね」
「勝手に埋めていいのかよ……」
「大丈夫よ。炭になるまで燃やし尽くしちゃうから、安心して」
「逆に怖いわ」
そんなアリアとケイルが話をしつつも、エリクは言われた通りに黙々と瓦礫を運んだ。
そして夕暮れ時には室内にあった瓦礫や不要物は全て処理され、アリアとエリクは一息を吐きながら水筒に口を付けて休憩した。
「片付いたわね。ありがとう、エリク。助かったわ」
「いや。後はどうすればいい?」
「細かい埃なんかは、明日に掃き出しちゃいましょう。後は水の魔法で濯ぎつつ、風魔法を使えば楽々と掃除が出来ちゃったりするんだけどね」
「魔法は便利だな」
「便利過ぎると色々堕落しちゃうから、自分の体も動かす必要はあるけどね」
「そうか」
「そういえば、魔法の訓練はどう?」
「……やはり、魔力という物を感じない。体の内からも外からも」
「そっか、難しいわね。エリクには間違いなく、それなりの魔法適性はあると思うんだけど……」
「……俺も、魔法を使ってみたいな」
「大丈夫よ。いつか使えるようになるわ」
「そうか」
励ますように話すアリアに、エリクは口元を微笑ませて頷いた。
そして夜になって作業を切り上げた三人は、宿に戻って各自で風呂に入って体を洗い、夕食を食堂で食べた。
全員が入浴と食事を終えた後、アリアは二人に明日の事を話した。
「今日はこのまま休んで、明日は二手に別れましょう。家を片付ける係と、家を修繕できる道具や家具を買いに行く係。ケイルは強制的に買い物の係ね」
「なんでだよ」
「だって、この町で商店とか詳しいのはケイルでしょ。買い物の係として同行してくれないと困るわ」
「困るって言われてもなぁ……」
「それに、エリクと一緒に買い物だったら良いでしょ?」
「!?」
「今日で大物の片付けは終わったから、細かい片付けは私の魔法でやっちゃうわ。ケイルとエリクは一緒に行って、リックハルトさんの支店に顔を出して。私が買い物用のメモとリックハルトさんへの手紙も書いておくから、家の修繕とか家具の事とか、色々相談してきてほしいの」
そう伝えたアリアは、宿で書いていた手紙をエリクに渡した。
それを受け取ったエリクだったが、この時に反論を見せた。
「アリア。君と離れるのは、何か遭った時に危険だ」
「確かにね。でも、エリクには御使いくらい出来るようになってもらいたいの。良いでしょ?」
「……必要、なのか?」
「うん。頼む時に必要な物も持ってきて欲しいから、力持ちのエリクに頼みたいんだ。だから、お願い」
「だが君一人なのは、やはり危険だ」
「大丈夫よ。危ないことは絶対にしないから」
「……分かった。すぐ戻るから、待っててくれ」
「ええ。頼りにしてるわよ」
微笑みながら頼むアリアに、エリクは渋々な面持ちで頷いた。
そしてアリアはケイルに顔を向けた。
「と、いうわけで。エリクの事を手伝ってあげてね、ケイル」
「……分かったよ。やればいいんだろ、やれば」
「ええ。二人共、よろしくね」
エリクとケイルを納得させたアリアは、そう話し付けて明日の予定を立てた。
その日は三人は休み、翌日にはそれぞれが別れて行動した。
しかし案の定、アリアは事件に巻き込まれてしまった。
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