7夏休みと現実~私以外は腐っていますが、楽しい日々を過ごしています~(3)
「では、皆さん、机を出しましたので、その周りにお座りください。第一回、夏休みを振り返りつつ、新学期に向けての意気込みを述べる会を始めていきたいと思います」
私はため息をつきつつも、その場に残ることにした。他の女性たちも異論はないらしく、机を囲むように座り始めた。
「まず、夏休みから。これは以前にも少し話が出てきたと思いますが、まずは二次元と三次元の違いから話していきましょうか」
「はい」
ここで手を挙げる者がいた。陽咲が何か話したいようだ。
「発言を認めます」
教師と生徒のように会話は進んでいく。どうやら、前に話した文化祭と体育祭のノリをそのまま続けていくようだ。
「第一に、夏休みのイベントと言えば……」
結局、話は盛り上がりを見せて、夕方日が暮れて、もうさすがに帰るかという時刻まで話は続いた。夏休みに関しては、主に三つの観点から話し合いは行われた。夏祭りと海とバイトだった。
二次元と三次元がどう違うのか、それはそれは白熱したものとなった。そもそも、夏祭りで告白とかベタ過ぎるとか、花火の音で聞こえなかったというのは、あまりに定番だが、三次元に照らし合わせるとそんな馬鹿なことがあり得るのか。海、これはプールにも言えることだが、水着はビキニ必須の二次元に関して、三次元は日焼け防止、体型隠しということもあり、露出が少ないことは女性に優しいようだ。最後のバイトに至っては、私たちには縁のないものだった。進学校の私たちの高校は、バイトは基本的に認められていない。それ自体が現実との乖離ですぐに話題は終息した。
「これにて本日の会議は終了します。時間の都合上、二学期以降の話をすることは叶いませんでしたが、皆さん、ぜひ家で考えてきてくださいね」
芳子の言葉に始まり、芳子の言葉でこの無意味とも思える会議は終了した。私たちは、ようやくそれぞれの家に帰るのだった。
家に帰る途中、陽咲が私に楽しそうに話しかけてきた。
「ねえねえ、夏休みはどうだった?今までと同じつまらなかった?私は楽しかったよ。何か、今までとは違うことをしたわけではないけど、楽しめた。喜咲は?」
「私は……」
私は陽咲の質問にどう答えようかか考える。陽咲の言う通り、何か特別なことがあったわけではない。ただ、高校の補習という名の強制授業や、いつも通りの両親の実家への帰省。芳子たちと話をしたくらいだ。それでも、ついこんな言葉を口にしていた。
「そうだね。私も楽しかったよ」
今年の夏は何だか面白いものになった気がする。それはきっと、芳子たちとの話が思いのほか面白かったからだ。彼女たちの話を聞きながら、時に止めようとしたこともあるが、それでも、彼女たちの話を聞くのを楽しんでいた自分がいたことに驚いた。それに、二次元と三次元の違いを考えながら、日常を過ごすのも意外に悪くなかった。
「ふうん、喜咲も楽しめたんだね。それじゃあ、新学期も私たちにしっかりつき合う必要があるね」
「えっと、少しは加減というものを覚えてください。さすがに教室での大声でのおしゃべりは」
「どうしよっかな。まあ、喜咲もオタクの仲間入りをようやく果たせたってことだよ」
やけに嬉しそうに話す陽咲に私はあえて言葉を返さなかった。私は断じてオタクではないが、それでも今の楽しい気分を台無しにすることもないだろうという、私なりの気づかいだ。
私たちは上機嫌で家に帰ったのだった。空には満点の星空が輝いていて、さらに私たちの気分を盛り上げてくれていた。
家に帰ると、そこにはいつも通り、くそ母とくそ父が意味の分からないくだらない会話で盛り上がっていた。それを聞いたり、聞かなかったり、時に怒鳴ったり、叫んだりしながら、止めたり止めなかったり。
つまり、私は今日も腐った日常を送っているということだ。とはいえ、私は断じて腐ってはいない。あくまで腐っているのは私以外の家族だ。それと私の周りが腐っているだけだ。
きっと夏休みが開けてもこんな感じの日常は続いていくだろう。それを少しだけ楽しみにしている私がいることは秘密である。
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