7夏休みと現実~私以外は腐っていますが、楽しい日々を過ごしています~(2)

「おやおや、どうしたの。芳子がこんなに友達を連れてくるのは珍しいね」


「お邪魔します。汐留喜咲といい」


「おばあちゃん、私の友達だよ。ああ、みんな上がって頂戴。二階に私の部屋があるから、そこでいろいろ女子トークしましょ。おばあちゃん、わかっているとは思うけど、私の部屋に入ってこないでね。お茶とかお菓子の差し入れはいらないから」


 芳子の家に行くと、出迎えてくれたのは、芳子の祖母だった。そういえば、前に芳子は父方の祖父母と同居しているという話をしていた。私たちを出迎えた祖母らしき人は、優しそうな小柄な女性だった。見た目からは、人畜無害そうな感じに見えた。


「でもねえ、私は芳子ちゃんのことが心配なのよ。いつまでも彼氏ができないのはお友達のせいかもしれないって思うとつい」


「余計なお世話だから。とりあえず、さっさとそこを開けて。喜咲たちが家の中に入れないでしょ」


 人畜無害そうなのは間違いだった。思春期の孫に対して、彼氏の話題を振るのはナンセンスだ。ましてや、親でもない、祖母の立場からそんなことを口にするのは、はた迷惑だ。そう思ったが、この場で私が指摘するのはおかしいと思い、口にすることはなかった。


『お邪魔します』


 芳子の祖母は、仕方ないという感じで玄関前を開けてくれた。私たちは挨拶をして芳子の家の中に足を踏み入れた。家は同居することを前提に二十年前にリフォームされたらしいが、すでに年数も建っているため、新しい家というわけではなかったが、そこまで古いという印象も受けなかった。





「ここが私の部屋だよ」


 階段を上がり、右に進んだ場所にドアがあり、そこを指さして芳子が自分部屋だと説明する。ドアに手をかけて開ける際に、芳子の手がかすかに震えていることに私は気づくことができなかった。


「うわ、すごいね。これは確かに人には、ていうか、家族に見せることもできないわね」


「これが全部百合だったら、私は感動して芳子のことを神と呼ぶのに」


「こ、これ全部、あ、あれですか。陽咲さんが苦手だという」


「うちのくそ母はまだ、可愛かったんだな」


 私たちは、芳子の部屋に入るなり、それぞれ思ったことが口から飛び出した。それを聞いて、芳子は少し恥ずかしそうにしていた。


「ああ、やっぱりこれはやばいかな。でも、私って実は飽きっぽくて、BLっていう、男同士の恋愛はもちろん好きなんだけど。すぐにいろいろな話に目移りしちゃって。でも、はまるとすごいはまってさ。グッズやらいろいろ集めたくなって。それで、こんな部屋になってしまったという次第です」


 部屋に入り、すぐ目に着いたのは、壁に貼ってあるポスターだった。男同士が上半身裸で互いを見つめ合っているもの、男のアイドルグループらしき何人かの男子が肩を組み合って円陣を組んでいるもの、服がはだけて寝ころんでいる男性などが壁を覆いつくすほどに飾られていた。それは圧巻とした言いようのない光景だった。


「壁もすごいけど、ベッドもすごいんだよね」


 こなでは、何度か芳子の家に遊びに言ったことがあるそうだが、それでも部屋に入った時には、初見の私たちと同様に驚いていた。何度訪れても慣れないこともあるらしい。ベッドの上には、彼女の言葉通り、すごい状況だった。抱き枕とでも言うのだろうか。これまた男性が服をはだけさせてこちらを挑戦的に見つめているものが少なくとも三つベッドの上に無造作に置かれていた。


「ほ、ほんや漫画の数もすごいです」


「これが百合系だったら……」


 麗華も圧倒されていて、驚いた表情をしていた。本棚にはくそ母が持っている漫画やその他、私の知らない題名のBL漫画らしいものがぎっしりと詰め込まれていた。陽咲も驚いているだろうが、それよりも自分と相いれないものを持っているということで、多少の落胆を隠しきれていなかった。





「それで、私たちを呼んで何を話すと言っていたっけ。もし、どうでもいい話なら、悪いけど、帰らせてもらうから」


「いやいや、なんでそういうことになるかな。せっかく家にまで招いたのに、何も話さず、部屋だけ見られたんじゃ、悲しすぎでしょ。学校でも話したけど、夏休みと二学期以降の私たちの生活について、二次元を交えて話すって聞いてなかった?」


 私は正直、芳子の部屋は居心地が悪かった。部屋中に男(二次元)が集まりすぎていて、落ち着かない。そういえば、と陽咲を確認するが、陽咲はこの状況に戸惑ってはいるものの、男アレルギーを発症させていない。二次元だから許容範囲だというのだろうか。


「なに、喜咲は私が倒れるとでも思ったの?バカでしょ。あくまで私は三次元の男性だけがダメなの。だって、彼らは私に何かしてくるかもしれないけど、ここに居る男性たちは、私を襲ったりもしないし、危害を加えることはできない。そんなこともわからない?」


 私の心配そうな視線に気づき、陽咲はバカにするように私に視線と言葉をよこした。とはいえ、男アレルギーを発症させた大元は、二次元の男だった。だから心配したというのに。

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