3周囲の人々⑥~陽咲のクラスメイト~(2)
「汐留さん、困っているみたいだし、お前に話しかけられて迷惑しているんじゃない?わかるだろ。さっさと失せろよ」
つい、言葉がきつくなってしまった。そもそも、彼女に話しかけた男は中学の同級生だった。私はタイプじゃなかったので、話しかけられても無視したり追い払ったりしていた。それを聞いた男は激昂する。
「なんだ、お前かよ、麗華(れいか)。オレは汐留さんに話しかけてんだよ、邪魔すんな」
「失礼しまーす、妹の陽咲います、か」
「お、おねえちゃん!」
突然、今までの様子が嘘のように彼女が動き出す。向かった先は、自らの姉、汐留喜咲のもとだった。たまたま、妹に用事があった喜咲は苦笑いでその行動をたしなめる。
「どうしたの?なんか、元気ないみたいだけど、いや、だからって、公共の場でこんなに引っ付かれても」
「だって、だって……」
高校生にもなって、だってだってと言い訳のように彼女は姉に向かって、先ほどの行動を説明する。話を聞いた喜咲は、途中から無表情になる。
「ふうん。そう、まあ、元の一番の原因はあの、くそ母だけど、ここはひとつ、そのくそ男に一言、言ってやろうかしら」
ぶつぶつと何やら物騒なことを言いだす始末。それを聞いていた彼女も同じく無表情になる。
「大丈夫だよ。お姉ちゃんが手を下すまでもない。ただ、ちょっと、いきなり男子に話しかけられたから驚いちゃって」
その様子を見ていた男は、彼女たちの様子が普通じゃないことに、ただならぬものを感じたのだろう。負け犬みたいな捨て台詞を吐いて、教室から出て行ってしまった。
「お前らみたいな姉妹に誰が興味持つかよ。姉妹同士でべったりとくっついて気味悪いんだよ。それに、男アレルギーだなんて、意味わからん!」
汐留姉妹は男の行動に、同時に目をぱちくりさせると、今度は同時に笑い出す。
「何あれ、私たちと勝負していたつもりなの?負け犬みたいで超受ける」
「あいつに話しかけられた時は、どうしようかと思ったけど、あんな奴だったのなら無視を貫けばよかった」
彼女たちの言葉に周囲もやっと緊張が解けたのか、くすくすと笑いが沸き起こり、空気がようやく和みだした。
「ええと、お騒がせしました。あの、えっと、自己紹介でも伝えた通り、私……」
「汐留さんは、正真正銘、男アレルギーだから、以後、男子は彼女に話しかけるのは厳禁。もし必要なら、女子を通すか、彼女を怖がらせないような配慮をすること!」
彼女の言葉を私は引き継いだ。なんだか、急に彼女のことがかわいく思えてきた。教室での姉妹のやり取りを見て、なぜか胸がドキドキした。彼女たちの仲を裂くものに殺意を覚えた。
この気持ちは一体何なのだろうか。彼女のそばにいればいずれわかるだろうか。私は、彼女のことをこれからも観察することに決めた。そのために、私はある決意をした。それについては、驚くべきことに何のためらいもなく、実行に移すことができた。
「れ、麗華。どうしたの、その髪。長くてきれいなのが自慢だったのに。それにその格好」
「いやいや、麗華、いったい何のつもり?その格好、まるで……」
「麗華、お前何やってんだよ。中学の時から気に食わないとは思っていたが、それにしたって」
親しい友達や中学の時の同級生が口々に私の変化に戸惑いを見せるが、そんなことを気にする必要はない。
私の努力が成果を結び、今では私は彼女の中で、一番親しいと思われる人間にまでなっていると思う。もちろん、姉の喜咲にかなうはずもないので、そこには届かなくても私は大満足である。
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