第240話 ハルモニア・市街地戦
Sランクパーティを撃退したあと、幕舎で休憩する事となった。
ユキノ達はソフィアを残して汚れを洗い落としに外へ出た。残されたソフィアは、おもむろにドレスアーマーの胸当て部分を外し、ドレスを脱いだ。
「お、おい……着替えるなら言ってくれよ。外に出てるから」
「あら、柄にもなく照れてるの? この下は何度も見ているでしょう?」
下着姿になったソフィアが蠱惑的に近付いてくる。
銀髪セミロング、雪国特有の白い肌、ぷりんと瑞々しい唇、手足はすらりとしなやかで、程よく大きなお尻と誰もが羨む
恋人として何度も見てきた光景だけど、慣れるなんてことは絶対にない。
見る度にドキッとさせられる。それを隠すようにして、強引にエロに持っていってるけど、内心はかなりドキドキしている。
ソフィアに限らず、ユキノ達は自分達の容姿がどれほどのものか、自覚がない。身内目線抜きにしても、彼女達は圧倒的に綺麗なんだ。
「ねえ、ロイ。王国の一件が終わったら、正式にエデンで式を挙げるのよね?」
「ああ、そのつもりだ。カイロを倒し、コルディニスを倒せばクリミナルの数も減少し始めるし、そうなればもう俺達の出る幕じゃない」
「挙式もそうだけど……家族も増やしたいわ」
ソフィアがゆったりとした足取りで隣に座り、俺の手を握ってきた。
その言葉の意味は分かっている。一気に4人は大変かもしれないけど、それはそれで嬉しい大変さかもしれない。その時はグランツにいるフィリアも招待しないとな。
「あ、ロイ今笑ったわね」
「えっ? 俺、今笑ってたか?」
「普通の人にはわからないわよ。私達だけのエクストラスキルよ」
「なんだよそれ。取り敢えず、まぁ……俺達は忙し過ぎた、スローライフを送る為にも、この戦争に勝たないとな」
「そうね……私達の為にも、頑張るわ」
ソフィアが肩に頭を乗せてくる。肩口から見える谷間にドキドキしつつも、俺の心は暖かくなっていった。
☆☆☆
俺達は押されていた左翼から前線を押し上げることにした。
パーティで敵陣へと斬り込んでいく。兵士一人一人は大した強さじゃないが、魔人もいるとなると少しキツい。
「うぉぉぉぉ! サーペントエッジ!」
兵士の一人が斬りかかって来た。
サーペントエッジは、蛇のように曲がりくねった斬撃を繰り出す剣士系初級スキル。
基本ながらも洗練された剣の軌道。だけど俺達だって経験を重ねてここに立っている。
この程度、障害にもならない。
「邪魔だッ!」
神剣で力強く弾いてすかさず胴を薙ぐ。剣士は血飛沫を撒き散らしながら倒れ伏した。
次だ、とにかく前に進まなくてはいけない。左右の敵は後続がなんとかしてくれる。
パーティで互いの弱点をカバーしながら突き進んだ。
商人にとっては交易都市、民にとっては自由都市、かつてそう呼ばれた都市は今や敵兵士が闊歩する戦場になってしまった。
広場に差し掛かると、男が魔人の前で跪いて何かを叫んでいる光景が目に入った。
「……どうしてだ。どうしてそんな姿に! 答えてくれ、君は……アミィなのかい?」
明らかに自殺行為。ここに来るまで民家に気配は無かった。住民はすでに避難しているはずだが、何故ここにいる……。
とにかく無視できないので間に割って入った。
「おいアンタ! なんで避難してないんだよ!」
「あなた達は連合の方ですか。私のことは放っておいてください」
「はぁ!? そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
魔人は当然ながら傍観してくれる訳がなく、黒い爪をこれでもかってくらい振り回してくる。
不規則な斬撃を難なく防いで短剣を投擲する。魔人はそれを腹部に受けてしまい、バックステップで距離を取った。
「今のうちに逃げろよ」
声をかけるも、男は動こうとはしなかった。それどころか、近くの木材を手にして背後から殴りかかってきた。
素人同然の奇襲が通用するわけがなく、片手で角材を受け止めたあと、手首に手刀を入れて取り上げた。
「……どういうつもりだ?」
救おうとしてこういうことをされると、流石に怒りが込み上げてくる。怒気を孕んだ問い掛けに男はややたじろぎながらも答えた。
「そ、その人は……私の婚約者なんだ。頼むから殺さないでくれ……」
「婚約者って、だがな……」
魔人は人間の女を【サキュバスの揺り篭】という肉塊に取り込ませて変異した存在。当然ながらその容姿は生前のものを引き継いではいるが……自我を残している例はほとんど存在しない。
「つまり……これの元となった素体は、アンタの婚約者ってことか?」
男は静かに頷いた。
一度変異すれば元に戻ることはできない。いや、そういう研究が行われなかっただけで、今後元に戻す方法が見つかる可能性はゼロではない。
「悪いけど、見逃すことはできない。アレを見逃したら、多くの人が死ぬから……」
魔人は腹部に刺さった短剣を引き抜いて放り投げた。
────カランカラン。
「ロイさん……」
ユキノが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。分かっている、無理はしてない。やるせない気持ちは俺よりもこの男の方が上だろ。
どうすればいいか、この男だって本当は分かってるはずだ。それでも恨まれるだろうな……。
背後を見ることなく、影のスキルを行使する。
「────【シャドープリズン】。俺を恨むなら恨んでくれていい」
男のいる地面から影の帯が伸びる。それが幾重にも男を包み込んで拘束する。音も、そして視界すらも遮断しているはずだ。
「ロイさん……大丈夫ですか?」
「大丈夫に決まってんだろ。そこで待ってな」
ユキノの頭をトントンと撫でて疾走する。
「シャァァァァァァァァッ!」
蛇のような声を上げて魔人も突っ込んできた。
剣と爪が激突する。そして数度の攻防の後……俺の神剣が魔人の腹部を刺し貫いた。
魔人の体から力が抜けていき、サラサラと灰になっていく。
やるせない気持ちでそれを見守っていると、魔人が俺の手に何かを握らせてきた。
「……えっ、これって」
何も言わずに灰になった魔人。手に遺されたのはエメラルドのブローチだった。
「それは多分、あの男の人があげた物ですよね。私はそう思います」
俺もユキノと同じ見解だ。
影のスキルを解除すると、男は力なく座り込んだ。風に流れる灰が、拘束後に何が起きたかを物語っているからだ。
俺は男の手にブローチを握らせてその場を立ち去った。
背後からは悲痛な嗚咽が聞こえてきたけど、振り返ってはいけないと俺は思った……。
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