第228話 カミシロ マサヤ

 カミシロ マサヤ。誰もが尊敬するであろう生徒会長。


 ボランティア活動にも積極的に参加して、先生からの用事も嫌な顔せずに引き受ける人柄。それ故に生徒から絶大な人気を得ている人物。


 ただ、その人気の裏で『人の女を寝取った』『女癖が悪い』と言った悪い噂が流れていた。


 人気であればあるほどに、そう言った妬みに近い噂は付きものだと当時の私は思っていた。


 3年生になり、秋の体育祭で使う資料を一緒に運んで欲しいと頼まれた私は、カミシロ君と一緒に資料室へ足を運んだ。


 資料室に入ると同時に後ろから抱き締められ、押し倒された。初めて男性が怖いと感じたのはこの時だったと思う。


 このままじゃマズイ、そう考えた私は無我夢中で彼を突き飛ばして必死に叫んだ。


 隣の部屋からドタバタと足音が聞こえてきて、ハルトと先生が部屋に入ってきたことでカミシロ君の悪癖が露見。

 泣きじゃくる私、ブレザーのボタンは引き千切られていて、長い黒髪は嵐の後の様に乱れていた。


 キスされた訳じゃない、胸を揉まれた訳でもない、ショーツに手を入れられた訳でもない、全ては未遂に過ぎない。


 だけど言い訳の出来ない状況なのは確かだ。


 カミシロ君は先生達から激しい詰問を受け、自らの力では乗り切れないと判断した彼は、今までやってきたことを得意気に語り始めた。


 中には妊娠させられた女生徒もいて、親の力を使ってそれを揉み消していたことが発覚。本当なら退学になってもおかしくはないのだが、親がスポンサーであることも相まって停学処分に留まることとなった。


 副会長だった私が本来は会長になるべきはずだったけど、会長職をこなせる精神状態ではなかったため、義理のお姉ちゃんが生徒会長を引き受けた。


 それからは色んな人の助けもあってか、なんとか立ち直ることができた────。



 ☆☆☆



「後はまぁ……修学旅行でこっちに飛ばされて、紆余曲折の末にロイさんと出会えた感じですね」


 隣に立つユキノが過去を語り終える。魔石灯によって悲しそうな表情が浮かび上がる。

 立ち直ったとはいえ、心の傷は癒えにくい。そんな精神状態で見知らぬ土地に送られ、渡された武器によって精神が汚染され、俺達の村で崩落に巻き込まれる。


 しかもユキノは、ハルトに付けられた俺の傷を治してくれた。


 ユキノの勇気ある一歩のお陰で俺はここに立っている。彼女の優しさ無しではここまで来られなかったはずだ。


 気付いたら愛おしさでユキノを抱き締めていた。


「えっ! ロ、ロイさんっ!?」


「最初に助けてくれなければ、俺は生きてはいない。ありがとうな……ユキノ」


 急に抱き締められた理由をユキノは分からない。


 愛する人の抱擁であれば、同じ愛で応えたい。ユキノは両腕をロイの背中に回してギュッと抱き締め返した。


 その瞬間、身体を快楽が駆け抜けた。


「────あンッ」


 自らの口から色のある声が漏れたことに驚いた。


 あれ? なんか胸がいつもより感じやすくなってる。ううん、胸だけじゃなくて身体全体がスースーするような……。


 冷静になりかけた思考も、押し寄せる快楽によって蕩けていく────。


 イチャイチャムードが、いつの間にかエッチなムードへと移行している。だけどそんなことはどうでもいい、今はもっとロイさんと触れ合いたい。


 と、情欲が燃え上がり始めた次の瞬間、ロイが抱擁を解いて背を向けた。


「ユキノ、悪い。今更言うのもアレかもしれないが……寝間着に着替えてくれないか?」


 ロイに指摘されたユキノは自らの身体を見下ろす。蕩け切った表情からハッと我に返ったユキノは、自らの身体を隠すようにしゃがんだあと────。


「きゃああああっ!」


 つんざく様な声が部屋に木霊した。


「えっ! なに? 何が起きたの!?」


 あれだけ大きな声を上げれば、アンジュも当然起きてしまう。


「ああああ、アンジュさん! これはロイさんが悪い訳ではなくてですね……私がウッカリしていたと言いますか────」


「ユキノ、落ち着け」


「あ、はい!」


 取り敢えずユキノの肩を抱いてベッドまで移動させる。


「まぁ、大体分かるわ。お得意のウッカリでロイ君とエロいことになってたんでしょ?」


「あ、はははは……」


「アンジュ、そう突いてやるなよ。今回は俺も少し見たい気持ちあったからさ」


 それを聞いたアンジュは、胸に巻いていたシーツを勢いよく引き下げた。張りに定評のある大きな胸がブルンブルンと揺れながらロイの眼前に晒される。


「ほら! ロイ君の大好きなおっぱい! 私だって大きいんだからね!」


 思わず喉をゴクリと鳴らしてしまうが、ここは我慢しなくてはいけない。何故ならば、明日は早朝からクーレの話を聞かないといけないからだ。


「とにかく! 明日もやらないといけない事が多いんだ……俺はもう寝るからな!」


 ロイはベッドに入り込むと、そのまま仰向けになって目を瞑った。


「ロイ君もう寝ちゃうの? 私とは何もないの!?」


「アンジュさん、そんなにエッチなことしてません! ちょっとお胸が擦れて変な声が出ちゃっただけですぅ!」


「ユキノ、言わなくていい。アンジュも、明日は早いんだから……ちゃんと寝ろよ?」


「あ、ちょっとロイくーん! 私、起きたばかりなのにぃ〜~!」


 叫ぶアンジュを無視してすぐに寝息を立て始めるロイ。その隣で同じようにユキノが寝息を立てていた。


「はやっ! 2人とも寝付き良すぎ!」


 薄れゆく意識の中、諦めたアンジュがロイの隣に収まるのを感じつつ……深い眠りへと落ちていった。

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