第218話 水魔術の特殊な使い方
〜アトモス軍・幕舎〜
アゲウスの寝所では女達の喘ぎ声が日夜木霊していた。
「あぁ……、アッ、ぃやだ、ん、……ンン……ダメですっ、ううぅっ」
今、アゲウスの上で喘いでいる女は他国の上級士官で、容姿も身分相応に素晴らしい女だった。
にもかかわらず、アゲウスの心は荒んでいた。
「ちっ、この女みたいに何であの
ロイ達は正規の道を行軍しており、ロイが休憩の度にこっそり水魔術を仕掛けてみたはいいものの、全く効果はなく、その全てが
山道を選んだ理由の1つが他国の女を漁ること、視界の悪い雑木林から仕掛けたら多少やり過ぎても問題はないからだ。それなのに、強力な守護に阻まれて思うようにいかない。
自らが考案した水魔術で仕掛けた数々の所業を思い返す────。
まずは催淫効果のある媚薬を混ぜた水を霧状に変え、山道からロイのいる幕舎に流し込んだ。
だが、幕舎に近付くとそれらは全てただの水に浄化されてしまい、湿度を上げるだけという効果になってしまった。
次の日、媚薬を染み込ませた蛇を操って幕舎に忍ばせてみたが、やはり近付くと蛇が正気に戻ってしまい……徒労に終わった。
どうやら性に特効効果のある魔術や薬は、近付くだけで浄化されてしまうらしい。
ムシャクシャした気持ちを払拭するかのようにして、アゲウスは上級士官の女に子種を流し込んだ。
「ダメーーーーーーッ!!!」
女はガクガクと震えたあと、力無くベッドに倒れ込んだ。
「光栄に思うがいい。僕の子を産むことが出来るのだから」
アゲウスが言うと女の胎内にいる種子は一斉に卵へと殺到し……トクン、と命の鼓動を響かせた。
ん、待てよ? かなり時間はかかるが、この手ならいけるのではないか?
そう考えたアゲウスは体液を放出した。
すぐに水魔術でそれを操ってロイ達の眠る幕舎へと移動させる。
僕のモノに出来なくとも、僕の子を産ませればいい。本当は自らの側近として
数ヶ月後、奴の女共は一斉に妊娠を報告するはずだ。僕の子供と知らずに奴はそれを育てる。僕のモノにならないのは残念だが、くく……せめてこれくらいはしてやらないと気が済まないだろ。
視界共有した白いスライムがロイの幕舎に近付く。
すると、銀髪の女が鉄の馬車のような物に入って行くのが見えた。
『まずはあの女からだ。すぐに孕ませてやるから、待ってろよ』
下卑た笑みを浮かべるアゲウス。白いスライムは鉄の馬車に入り込むと、鼻歌のようなものが聴こえてきた。
中は思ったより広く、布で出来た仕切りが奥にあって、その先では銀髪の女が水音と共に鼻歌を歌っている。
すごいな、馬車にシャワーがついてるのか。だが好都合だ。水に溶け込んだらそれこそわかりにくいはずだ。
徐々に接近して仕切りの隙間から中に入ろうとした時……白いスライムはジュウっと音を立てて半分消滅してしまった。
その際のフィードバックをもろに受けたアゲウスは、山道にある自らの幕舎で痛みに苦しみもがいていた。
『クソッ! この方法でもダメなのか! 不貞に関わるであろう全ての事象を弾く障壁……諦めるしか、ないか』
お金の力で大概のものを手に入れてきたアゲウス、勿論その中にはお金で手に入らないものもあったが、それに対しては間違った方向に特化した水魔術でなんとか手に入れてきた。
だが、今回はそれすらも効果がなかった……。
「────ッ!? 誰かいるのかしら!」
銀髪の女が物音に気付いて仕切りを開こうとしている。よし、せめてこの女の裸体だけでも……。
そんなアゲウスの願い虚しく……黄金の長剣によってそれは叶わなかった。
────ザクッ!
「なんだアンジュだったの。てっきり誰か覗いてるのかと思ったわ」
「ふふ、ごめんね、ロイ君じゃなくて。なんかさ、珍しい色のスライムがいたからこっそり後をつけてたらいきなり死にかけててさ。可哀想だったからトドメ刺しちゃった」
「じゃあ、覗いてたのはスライムかしら?」
「スライムに目があるわけないじゃん。それよりもさ、ついでなんだし、一緒にシャワー浴びない?」
「え? 私、もう出るとこだから────って、ちょ、胸! 揉まないで……んっ、あぁん!」
「むふふ、良いではないか、良いではないかぁ〜♪ 深夜に女同士で百合百合しようぜ〜〜♡」
「ちょ、ちょっと! いい加減に────んあぁァァァっ!」
ロイの陣営では桃色の叫び声が木霊し、アトモス陣営では白いスライムのダメージを肩代わりしたアゲウスの悲痛な叫び声が木霊していた。
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