第186話 金色の鉱脈
バンズの指示に従って壁にランタンを取り付けていく。
数にしてすでに50を越えただろうか、入り口の光はもうほとんど見えなくなっていた。
特注の巨大ピッケルが振り下ろされると、眼前の壁は消失してトンネルが形成されていく。それと同時にカランカランっと鉱石が落ちる音が聞こえてくる。バンズは採掘師の中でもかなりの実力者らしく、通常のドワーフなら鉱石も含めて塵に変えてしまうのに、バンスは鉱石だけを残して穴を空けているのだ。
【パッシブスキル・採掘師の直感】で鉱脈を感じ取り、壁にピッケルを振り下ろすだけで鉱石を大量にゲットできる……もしかすると、かなりの金策になるんじゃないか? そう思ってバンズを見た。
だけどロイの表情が読めてしまったのか、それとも同じ表情を何度も見てきたからなのかは分からないが、静かに重く首を横に振った。
「ワシらは必要以上には取らないと心に決めている。レグゼリア王国から脅し同然で依頼された武器の大量受注も断った。だからこそ、ワシらは依頼主に見合った武器を作るために、魂を込めているのだ」
バンズはそういうと、再び採掘作業を始めた。
ワンオフウェポン、ドワーフの武器が世界で評価されているのは、そう言った理由からきているのかもしれない。なにせ、ただの鉄の剣でさえ通常価格の5倍はするからだ。
黙々とバンズが採掘を進め、ロイ達はランタンを取り付ける。そんな作業を続けること3時間────ピッケルが壁に触れた途端、目映い限りの光が坑道を駆け抜けた。
次第に視界が慣れて少しずつ目を開けていくと、そこにあったのは目映いばかりの鉱石だった。
色は黄金に近い黄色で、少しだけ透明度がある。
素人目に見ても、硬貨に用いられる金鉱とは存在感が違いすぎる。ただただ感嘆を漏らすしかない。
「ふむ……これは純度が高いな。わかるか? 金鉱との違いを」
バンズはそう言って、オリハルコンの一部をロイの手に乗せた。
「ただ光ってるだけの金とは違うな。それでいて……思ったよりも軽い……」
「そうだろうそうだろう、わかってるじゃないか。オリハルコンってのはな、神性が長い時間かけて結晶化した特殊鉱石なんだ。だからそこいらの鉱山には存在しねえんだ、世界には穢れが満ちているからな」
ロイは、バンズから受け取ったオリハルコンをシャドーポケットに入れてみた。
「────ッ!?」
急に影が重く感じた。シャドーポケットは入れた物質の重量分だけ魔力を消費する。
手に持った感じからすると、魔力の自然回復量を上回るはずないんだが……魔力はゴリゴリ持っていかれる。
「ちょっとロイ君、大丈夫!?」
心配したアンジュが膝をつくロイの身体を支えた。
「……くっ! ちょっと無理だ、離れてろ」
やむなくオリハルコンをシャドーポケットから取り出した。
「スキルの解釈が間違っていたのか」
ロイの呟きにアンジュが問い返す。
「解釈?」
「ああ、俺の【シャドーポケット】は重量で消費魔力が決まると思っていた。いや、正確にはほとんどの物質は重量と同じ消費魔力だった」
「でもこれは違うの?」
「そうだ。重量と消費魔力が見合ってない。多分だが、シャドーポケットは格納する物質の【存在力】によって消費魔力が左右されるんじゃないか、俺はそう考えている」
「ふーん、こんなに軽いのに存在力はかなり高いのかぁ~。それで、どうするの?」
アンジュは拾い上げたオリハルコンを片手で持って遊んでいる。立ち上がった俺は、それを掴んでユキノを呼んだ。
「ユキノ、悪いがこれはそっちに入れてくれないか?」
「あ、はい!」
近くで聞いていたからか、ユキノは疑問を口にすることなく【アイテムボックス】にオリハルコンを投入した。
やはりユキノのアイテムボックスは特別らしく、特になんの問題もなく平然としている。
それを見ていたバンズは顎髭に手を当てて唸り始めた。
「どうかしたのか?」
「いや、ユキノ嬢ちゃんのアイテムボックスは破格の性能だと思ってな」
「向こうの世界には魔術もスキルもないらしいからな。世界の壁を越える時に授けられたんだと」
「だとすると……いや、なんでもない」
「だとすると、なんだよ」
バンズはロイの言葉に答えることなく「いや、忘れてくれ」と明らかに一番気になる区切りかたをしてきた。
そして、オリハルコンをユキノのアイテムボックスに収納したあと、来た道を下山することにした。
道中、魔物と遭遇することはなかったが、クリミナルとの遭遇は何度かあり、背筋の凍る思いをしながらなんとか撃退することに成功した。
Tips
オリハルコン・鉱石
神性が長い時間かけて結晶化した特殊鉱石。市場には出回らないほどの稀少性があり、一等地に豪邸を建ててもまだ有り余るほど高価。
ミスリルより硬く、アダマンタイトより脆い。
これを用いたテスティードなら、カイロの攻撃に耐えられると想定されている。
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