第181話 フィリア訪問
ユキノのお陰で再び前を向いて歩くことが出来た。
今は毎日テスティードのある騎士団の工房に通っている。難解な図式を自分なりに解釈してみんなと相談する。そして足りない部品があれば、聖都以外の街に赴いて買い足す。
本当はエデンにいるマナブをこちらへ呼べば、3日とかからずに直せるんだろうけど、それはなるべく避けたかった。
何故なら、先の大規模侵攻によってレグゼリア王国と周辺の大国とが緊張状態にあり、国境沿いは常に防衛部隊が駐屯しているからだ。
帝国に帰属するつもりはないが、いざという時にマナブには防衛戦力として動いて貰いたい、だからこちらに来て貰っては困るんだ。
工房に入ると、聖女フィリアが駆け寄ってきた。
「ロイ様、元気になられたと聞いて、そのお顔を拝見したくてここへ参りました」
「そうだった……フィリアのところへ行くのを忘れていた……」
「いえ、気にしないで下さい! 私達がこうしてこの国で安穏とした日々を送れるのも、偏にロイ様のお陰ですので……」
フィリアはそう言うと、テスティードの方へ駆けていった。
「これはどうやって動いてるんですか?」
「火と風の魔石による相互作用で動いてるんだ。そうだな、簡単に言うと……動力内で小さな爆発を起こして加速する。って言ったらわかるか?」
小首を
「それで、本当に顔を見せに来ただけなのか?」
「え? ──そうですけど、何か問題でも?」
本当に顔を見に来ただけというフィリアの物言いに少したじろいだ。
てっきり、世界情勢の話でもしに来たのかと思った。それどころか、この国に留まってくれと言われることも予想していた。聖女としてではなく、本当に一個人として顔を見に来ただけとは思わなかった。
「ロイ様、どうして笑ってるのですか? 私、面白いことを言ったつもりはないですけど……」
何故かフィリアに笑ってることを指摘された。頬に触れたあと近くの鏡で確認すると、僅かにだが口角が上がっていた。
損得抜きに話をしに来る。それが意外と嬉しかったのかもしれない……我ながら少し単純だな。
自嘲気味に再度笑ったあと、フィリアの頭に手を置いて言った。
「聖女様は聖女らしくないと思ってな。知らずと笑っていたらしい」
「そ、それはまぁ……私、平民上がりですし……」
ソフィアは頬を赤く染めてロイから一歩離れた。
ついついユキノと同じような対応をしてしまったが、よく考えると聖女はこの国の長と言っても良い存在。気軽に触れて良いわけがなかったか。
少し反省しつつ手を引っ込めると、何故か聖女は寂しそうな表情を見せた。
「ロイさーん!」
遠くからやや間延びした声が聞こえてくる。
テスティードの車内からこちらへ駆け寄ってくるのはユキノだった。長い黒髪が首筋に張り付かないようにして髪を後ろでまとめている。時期はすでに赤の節、修理で汚れても良いように白いTシャツに青い短パンという出で立ち……薄着故に汗で少し透けていて、ピンク色のブラが大きな胸と共に上下左右に揺れながら近付いてくる。
「じーーーーーっ」
フィリアがこちらにジト目を向けてきた。
「ロイ様、今ガン見してましたよね?」
「……してない」
「よく考えたら、ロイ様のパーティは客人であるルフィーナさんを除いて全員大きい方ばかり。そしてその全員が恋人関係だと聞きました……これは意図してそうなったのですか?」
「いや、そんなわけないだろ」
胸の大きな女性ばかりが集まっているのは、完全に運によるところが大きい。一説によると、胸の大きな女性が好きな男は、理想の母親像をパートナーに見出してるパターンが多いと聞いたことがある。確かに俺は母親を失ってはいるが、これに関しては偶然としか言いようがない。
強いて言うなら、異世界人の女は発育が良くて、王国人も割かし発育が良いってだけのことだ。
「それに、恋人なんだから見ても問題ないだろ」
「それは……そうですが、ここには他の騎士達もいますので……その……」
聖女の言葉尻は少しずつ小さくなっていく。まるでイジメてるような空気になったので、仕方なく「すまなかった、気を付ける」と折れることにした。
不毛な問答をしているうちにユキノが合流した。微妙な空気感を感じたユキノは、ロイとフィリアを交互に見て不思議そうな表情を浮かべていたが、敢えてそこには突っ込まずに挨拶を始めた。
「フィリアさん、どうもです。遊びに来てくれたんですか?」
「こんにちは、ユキノさん。ロイ様が元気を取り戻したと耳にしたもので、公務の合間を縫って遊びに来ました」
「わぁ~そうなんですね! じゃあじゃあ、テスティードの中を案内させてください!」
ユキノはとても嬉しそうにフィリアの手を引いて、テスティードの後部へ連れていこうとする。
「あ、ユキノさん! そんなに強く引っ張らないで! ちょ、ちょっと……あなた力強いっ!」
見た目は華奢で筋肉もそれほど付いてはいない。闇の武器と聖なる武器との加護を併せ持つユキノは、パーティ随一の膂力を誇っており、大の男でも抗うのは難しいほどだ。本人は友達として手を引いてるようだが、聖女は半ば引きずられている状態だ。
仕方ないので助け船を出すことにする。
「ユキノ、少し力抜いてやれ! フィリアが困ってるぞ!」
ユキノはフィリアの身体をペタペタと触りながら謝り始めた。そして適度な力加減でフィリアと共にテスティードへと入っていった。
フィリア達を見送っていると、誰かが背中を突いてきた。
──ツンツン。
振り返ると、ユキノと同じ格好をしてずぶ濡れになったソフィアが立っていた。
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