第180話 パルコの軌跡
ユキノと共に城外へ向かうと、そこには変わり果てたテスティードの姿があった。
青銀色の車体は大きく
何より目を引くのは、凹んだ操縦席から茶色い染みだ。
時間の経過により赤い血が変色したのだろう。まるで、ただの錆のようにすら見えるほどだ。
「……ここまで運んでくれたのはグランツ騎士団か?」
「はい、後は近隣の村に住む男性も参加しました」
「近隣の村か……クリミナルのスタンピードで少なくない被害を被ってるはずなのに……後で礼を言わないとな」
「……そうですね」
ユキノの話によると、パルコの最後の突撃は聖都の近くに住む村人に勇気を与えたとの事。
何故ならば、間近で見ていた騎士の中に村出身者がいて、非戦闘員にも関わらず、命を投げ打ってロイを守ったことに感銘したという。
パルコの死に未だ苦しみはあるものの、パルコの行動に救われた者がいるのなら俺も生かされた身として報いなくてはいけない────ロイはそう固く誓った。
テスティード背部のハッチから中へ入り、操縦席に向かった。
天井を見上げると、付箋が幾つも貼り付けてあった。
その内の1つを手に取って確認すると、そこに書いてあったは様々な改良案と操縦の際に気を付けることが書かれていた。
「ユキノ、ここに丸い玉があるだろ? これに魔力を流して走らせるんだ」
「私達の世界みたいに"ハンドル"は無いんですね」
「思えば、パルコは御者としても卓越していたな。俺がこれを動かしても、平坦な道しか走らせることができない」
奇襲を仕掛けるため、ショートカットのため、散々悪路を走行するように指示を出してきた。今までどれだけパルコに無理を言っていたかを実感した。
ロイが操縦席に座ると、1枚の写真が落ちてきた。
手に取ると、そこには若き日のパルコと、少しだけパルコに似た男が写っていて、2人は肩を組んでいた。
ユキノが背後からそれを見て言った。
「お兄さん、でしょうか?」
「……わからん。弟かもしれん」
「兄弟がいるなんて、初めて知りました」
「ああ……俺達、パルコのことを何にも知らなかったんだな」
感傷に浸るロイ、その手をユキノはそっと握った。
きっとロイさんは泣きたい気持ちだけど、それでも泣いたりしない。男だからとか、リーダーとしての責務とか、色んな重しを背負ってるから。
気付くと私は泣いていた。ロイさんが泣けないから、代わりに泣いた────。
「ユキノ、何泣いてんだよ」
「ごめんなざいっ! なんか、止まらなくて……」
ロイはユキノを横に座らせつつ、手を握っていた。言葉で語ることはせず、彼の見た景色、彼の生きた軌跡、それらを自らの身に染み渡らせるように……。
城外に駐屯していた騎士と協力して、テスティードを騎士団の保有する工房へと運び込んだ。
パルコの遺した付箋を1枚ずつ剥いでまとめていると、ユキノが肩口から覗き込みながら聞いてきた。
「ロイさん、何をするつもりなんですか?」
「修理だよ。ユキノも付箋を剥ぐのを手伝ってくれ」
「そう、ですね。はい! わかりました!」
前向きに動き出したロイを見て、ユキノは元気よく返事をした。
お城で塞ぎ込んでいた時と違って、ロイさんはやる気になっている。私も頑張らないと!
嬉々としてユキノも修復の手伝いを始めた。
そうして、ある程度の作業を終えると、ロイとユキノは王城へと帰ることにした。
茜色に染まる大通り、ユキノと歩きながら明日以降について話し合った。
「人数が足りない、明日からはソフィア達も呼ばないとな」
「ええっ! ソフィアさん達が来たら私は力仕事に回されますよね……?」
「仕方ないだろ、適材適所ってやつだ。実際、力比べで俺相手に圧勝したじゃないか」
「それはそうですが……。ん? でもこれって……ロイさんと2人きりになるチャンスでは!? やります、ロイさんと力仕事頑張ります!」
ユキノは態度を変えて快く承諾した。下心が完全に透けているけど、やる気になってくれたのなら何よりだ。
王城に戻り、ソフィア達に修復の手伝いをお願いすると、彼女達は快く引き受けてくれた。
これで明日から万全の状態で修復作業に取りかかれる。
こうして、心に新たな火を灯し、ロイは前に向かって歩き始めたのだった。
Tips
テスティード・乗り物
マナブとパルコが互いの知識を持ち合って完成させた戦車。
元々は馬車で、グレンツァート砦を脱出するために使うはずだったが、馬車を引く馬が居らず、途方に暮れたパルコとマナブが急造で作り上げた馬車。
火と風の魔石をコアとして稼働し、直線距離の加速と耐久性に関しては従来の馬車を遥かに凌いでおり、最早、
後に、度重なる改良によって完全に
すでに複数台量産されており、リーベスタ達はそれに乗って任務に向かっている。
外観は完全にマナブの世界にある軍用装甲車のそれと酷似している。
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