第142話 ビッグラット殲滅戦
ロイ
それを見たユキノが不思議そうな表情で口を開く。
「マンホールじゃないんですね」
聞き慣れない言葉にルフィーナはユキノに聞き返した。
「マンホール?」
「はい、私達の世界では街の至るところに地下への穴がありまして。その穴の事を指してそう呼ぶんです」
ユキノの解説にルフィーナが感嘆の声をあげた。
「なるほど、それなら点検や掃除が楽そうだ。しかし、このエスクート世界では街の端にある入口にわざわざ向かって、そこから順に点検している。故に点検にかなり時間がかかるのだ。後でフレミー様に進言してみるよ」
「お役に立てて何よりです」
ロイ達は扉を開けて中に入った。通路の両端にはソレイユ砦みたいに小さな溝があって、その溝をお湯が循環している。
これは寒冷地である帝国特有の工夫だ。そのお陰で、この下水道は大通りよりも暖かい空気に包まれている。
一同は物珍しさに周囲を見渡しながら進んでいった。
少し進むと、通路の先から動物の鳴き声のようなものが聞こえてきた。それに反応したルフィーナが一同の進行を制した。
「ロイ殿、やはりビッグラットが住み着いてるようです」
「わかった。全員、戦闘体勢に移れ!」
ロイの言葉に全員が武器を取り出すと、ビッグラットがこちらの敵意に反応した。薄暗い下水道で赤い瞳が一斉にこちらを向き、距離を少しずつ詰めてくる。
ビッグラットが近付いてきたことで、その姿が
巨大なネズミという印象だったが、体表は傷だらけで腐臭を放っている。
どうやらここでは、魔物でさえ生存競争を生き抜くのは厳しいらしいな。
戦闘はどちらともなく始まり、前衛はロイ、アンジュ、ソフィア。中衛はサリナとルフィーナ、後衛はユキノで挑んだ。
ロイは剣でネズミを斬り伏せていく。
──ザンザンザンッ!
1体1体は弱い、だけど斬っても斬っても奥の通路から新たな敵がこちらに向かってくる。
仲間の様子を確認すると、ソフィアがこちらを見ていた。
だが、ロイは首を振って却下した。
配管に当たれば確実に水が溢れ、この場にいる者に被害が出てしまう。
少し考えたロイは、アンジュとリンクして神剣を使うことにした。中衛のサリナとルフィーナに、
「サリナ、ルフィーナ、俺とアンジュは1度中衛の位置に移動する。少しの間、頼んだぞ!」
「わかった」
「了解しました!」
ロイとアンジュは素早く後退し、向かい合う。リンクするには性的な接触が不可欠。
一応恋人繋ぎで手を握っても発動するにはするが、確率は五分五分と言ったところだ。
つまり、相手がロイを確実に意識する手法を取らなければならない。
「ロイ君、良いよ」
アンジュが目を瞑って迎え入れる準備を整えた。ロイは目の前の恋人を眺めて男の本能を呼び覚ますことにした。
アンジュの金髪綺麗だ。青い瞳も澄んでいて何の穢れも感じない。俺の好きな恋人──。
顔を傾けてアンジュの唇に触れ合わせる。「んっ」と声をあげたアンジュは、ロイの口付けに応えるようにして唇を動かす。
一方、ロイの手はアンジュの胸を揉んでいた。最初は楕円に動かし、次に先端を摘まみつつ円を描くように揉む。
神剣召喚を失敗してはいけない、そんな気負いがやり過ぎてしまうことになった。
「ん、んっ! ~~~~~ッ!?」
アンジュがビクビクっと震えた後、地面にへたり込んでしまったのだ。
後衛にいたユキノはそれを見て頬を膨らませた。
「ロイさん! アンジュさんを昇天させてどうするんですか!?」
「す、すまん! まだ加減がわからなくてだな。でもほら、神剣はきちんと出た! だから戦線に復帰する!」
非難から逃げるようにして前衛に復帰したロイは、神剣ライオンハートを振りかざした。
「みんな少し離れろ! ──【
剣から放たれた黄金の衝撃波は、ビッグラットを次々と消滅させていく。そして、追加のビッグラットが来ないことを確認すると、ロイ達は休憩を取ることになった。
「で、ロイはやり過ぎたと?」
ソフィアがジト目をロイに向けると、ロイは頬を掻きながら「すまん」と謝罪。
「そうです。アンジュさんだけズルいです!」
と、ユキノは別方向で拗ねていた。
「あ、はははは……私がさ、感じ過ぎちゃっただけなの。そんなに責めないであげてよ」
アンジュが擁護すると、サリナはボソリと呟いた。
「あたしはそれくらいでイったりしないから、あたしの時はそのやり方で良いよ」
「あ、サリナ、非処女だからってズルいです! 触られた時間は私が断トツです! なので、私の時もお願いします!」
「ちょっと待ちなさい、ユキノ。あなたはこの中で1番触られたことがあるのだから、自重すべきですわ」
サリナ、ユキノ、ソフィアが揉め始めた。その様子を遠くから見ていたルフィーナは「……はぁ」と溜め息を吐いて頭を抱えていた。
厳正なる話し合いの結果、全員平等にキス+ソフトタッチで神剣を召喚することに決まった。
Tips
ビッグラット
ランクD
遥か太古のネズミが死んだ魔物を口にした事で変異した由来を持つ。通常のネズミと違い体内に魔石があり、成人男性の腰ほどの大きさで赤い目が特徴的。単体ではランクFだが、大概は群れで行動してるためDとなる。
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