第84話 キングストン城内部

 城門に穴を空けて内部へと侵入を果たす。


 入ってすぐに広大な中庭があって、外から見た感じ建物と庭の割合が同じくらいに見えた。そして中庭の中央には頭部だけの骸骨が黒いもやを放出しながら浮いている。


 一見、幽鬼を思わせる骸骨は恐らくは魔族であり、それの前でサリナは膝をついていた。


「サリナ!」


「──っ、ごめん。ちょっと油断した……あいつ結構強い。黒い靄から剣が飛んでくるから気を付けて……」


 サリナは腹部を押さえており、どうやらそこに一撃もらってしまったようだ。スタークの人間にサリナを預けて視線だけで一般兵を下がらせる。型落ちとはいえ、遺物武器エピックウェポンを扱うサリナに手傷を負わせる相手……大勢でかかって闇雲に損害を増やすわけにはいかないのだ。


 短剣を構えてジリジリと距離を詰める。背後ではどこから飛んできてもいいようにユキノが”魔杖テュルソス”を構えて待機している。


 こういう時、口に出さないでもすぐに行動に移してくれる仲間っていいもんだな。さて、俺と同じタイプの敵か……どう戦ったものか。


「先手必勝! ”聖剣射出”!!」


 敵の右サイドに少しずつ伸ばした影から聖剣グラムを飛ばす。すると、靄に聖剣は吸い込まれ、そしてこちらに飛んできた。自身に当たる寸前に特性”聖剣召喚”で手元に戻す。


 一連の流れのあと、骸骨から声が聞こえてきた。


「お前も同じ能力か……少しばかり驚いたが、生憎とその手の攻撃は通用しない」


「骸骨だから驚いてるようには見えなかったな。だが、お前の言う通り、俺のスキルは効果が無いみたいだな」


「くくく……それにしても面白いものを見た。勇者でもない存在が聖剣を扱っているとはな」


「まぁそう言ってやるなよ。俺だって影を使うのにこんなピカピカした武器に選ばれて驚いてるんだ」


 会話をしながらも短剣を投げてみる。靄が広がり、吸い込まれ、こちらに同じ速度で飛んでくる。それを掴んで”シャドーポケット”に収納する。


「──無駄だと言わなかったか?」


「無駄だろうな、だけどさ。この世に不滅なる生き物なんて存在しないんだ。神だって、現在に至るまで数柱くらい滅んでるだろ?」


「違いない、だが少なくともお前の持ちうるスキルや術では我は絶対に倒せんぞ」


「そうかもなっ!」


 一瞬の間に近付いて今度は直接斬りかかる。剣身は吸い込まれるが、こちら側に向けて剣先が突き出るなんてことは起きなかった。どうやら投擲系は吸い込まれて1秒くらいで反射され、直接攻撃は靄に吸い込まれるだけで反射はできない、か。


「無駄だと言っておろう!」


 靄から長剣が5本ほど飛び出してきてそれを後退しながら聖剣で叩き落す。叩き落した長剣の剣身が少し錆びていて黒く変色している。


「おい、魔族。お前ってさ、吸い込みと射出を同時にはできないんだな」


「それがどうした? 直接攻撃も効かない、投擲系も効かない、なんなら教えてやるが魔術も効かないぞ? 攻撃が効かず、こちらの攻撃は届く……いずれ力尽きることは明白だ」


「そうか、じゃあこれはどうだ?」


 左に大きくサイドステップ、火球ファイアボール石槍ストーンランスが敵に向けて飛んでいく。火球ファイアボールは吸い込まれ、石槍ストーンランスは身体を細くして避けられた。


 こういうタイマンっぽいのを想定して、あらかじめ魔術が使えるメンバーには合図で魔術を使うようにしていた。俺の背後で影で作った文字を見せていたわけだが、ダート戦の前に使うことになるとは思わなかったな。


「──くっ! タイマンで来るんじゃないのか!?」


「こっちはテスティードに待たせてる奴ヴォルガ王がいて心配なんだ。別にいいじゃねえか、それにタイマンとか一言も言ってないしな」


「そうか、ならばこちらも数を用意するか。いでよ”死霊兵”!」


 黒い靄から骸骨兵が次々と姿を現す。


「──それを待っていた!”聖剣射出”」


 白銀の長剣聖剣グラムが月に照らされながら骸骨へ向けて飛んでいく。そしてバキッ!という音が中庭に鳴り響いて骸骨達は力なく崩れ落ちた。


 黒い靄を放出する存在、つまりは骸骨が本体。それが半分聖剣によって崩壊したあと、浮遊する力を失ったそれは夜空を見上げるように転がっている。


 ゆっくり近付いてそれを見下ろす。


「おい、まだ生きてるか? いや、生きてるってのは変か」


「──なぜ、気づいた?」


「”死霊兵”の召喚に魔方陣を用いていなかっただろ? てことは魔術ではなくスキルだ、お前は射出と吸引は同時にはできない。”死霊兵”を出したそれは言わば”射出”と同じだ、それを出してる間は敵の攻撃を靄に格納できないってことだ。人間だからって慢心したのがお前の敗因だな」


「……そうだな、お前の言う通り、人間など我だけで十分と思っていた。だが、それでも我は自身の役割くらいは果たせた。もうじき我は滅ぶ、お前達の悔しがる表情が見れないとは残念だ」


 悔しがる? 役割? ……まさか、時間稼ぎ、いや、陽動かっ!?


「くくく、どうやら気付いたようだな。察しの通り、城を捜索しても使用人くらいしかいないぞ。志を共にする同胞達はすでに……」


 仮面のような骸骨の2つの黒い穴、その奥にある紫の炎が徐々に弱くなっている。


「おい! リディア達はどこへ行った?」


「くくく、あの進言は杞憂と思った、だが黒い剣を持ったあの男は言った。絶対にここを落としに来る存在がいる、と。勝者への褒美もこれくらいで十分か……聡いお前なら、わかるだろ?」


「ああ、わかった。逆にわからないことがある。なんで人間と組んだんだ、お前」


「魔族にも……色々あるのだよ……」


 答えるつもりはない、いや、その時間がないことを察したロイはそれ以上何も聞かず、速やかにキングストン城の占拠を始めた。ロイの気遣いで中庭に残された一体の魔族は滅びの時を待つ。


「おお……泣き虫リディア。もうじき白銀がそっちに向かう、どうか生きておくれ……」


 瞳にあたる紫の炎が消え始める。


 不思議なことに、その魔族が最期に願ったのは魔族の繁栄でもなく、ただ自身が狂わした少女の生還だった……。

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