第35話 ラカン村への帰還
ロイ一行はハイゴブリン討伐後、ラカン寺院入り口のパーティを馬車に乗せて村に帰還した。
村に到着すると、村長とギルド職員の面々が待ち構えていた。
「黒い髪に赤い瞳の剣士……あなたがハイゴブリン討伐に関わったパーティのリーダーで間違いないかな?」
「ああ、そうだけど?」
緊張感?のような張りつめた雰囲気を放つギルドのお偉いさん。そしてその背後には村長、さらに背後には北の裏口から突撃した暴走ルーキーズが、人見知りの幼子のように隠れてチラホラこちらの様子を見ている。
大の大人が、それも長剣を軽々背負う男がやっても微塵も可愛さを感じない。ロイはなんとなく次の展開が読めてしまい、ため息をつく。
「……はぁ。なにか用でも?随分と険悪な空気を感じるんだが?」
ギルドのお偉いさんは一歩前に出て身ぶり手振りを交えて説明を始めた。
「こちらの”不死鳥の騎士団”というパーティの話しによれば、君らのパーティが後から来て妨害行動を行ったと言っています。それで間違いないですか?」
暴走ルーキーズこと”不死鳥の騎士団”は長剣を持ったリーダーの男を筆頭に頷く。それを見たユキノは「え、なんでぇ!」と言い、サリナは「まるで茶番劇……」と言った。パルコは遠くから馬車を出す準備をする、というジェスチャーを送ってきた。緊急時に備えて発車準備をする、良い御者だ。
「ハッキリ言っておく、俺達は村のために緊急クエストを受けてきたんだ。なんでお前らは労いの言葉1つもかけられない?それに、こいつらは先に突撃したパーティの治療を拒否しやがった。お陰様で俺たち1パーティで挑むことになったんだ」
村長の後ろに隠れてたリーダーの男はロイの物言いにカチンときたのか前に出てきた。
「お前らがいなくても俺らのパーティだけで充分倒せた!お前らが挟み撃ちなんて余計な真似したからこっちの段取りが狂ったんだよ!」
すると、ソフィアが前に出てきてパンッ!とリーダーの男の頬を叩いた。
「いってえな!なにすんだよ!」
「いい加減にしなさい!冒険者をしているなら自分の未熟さと向き合いなさい。でないと次は誰も助けにこないわよ!」
「なんだと!このアマ!」
逆上したリーダーの男はソフィアに殴りかかる───が、それは果たされなかった。
バキッ!
「ぐへっ!」
ギルドのお偉いさんが正拳をリーダーの男に叩き込んだのだ。リーダーの男は1mほど吹っ飛んでズササ~っと砂埃をあげて止まった。これには村長も唖然としており、次に”なぜ?”といいたそうな顔に変わっていた。
そしてギルドのお偉いさんはロイに向けて言った。
「あなたは勘違いなさっている。我々ギルドは公平な事情聴取を経て採決を降さんとしていたのだ。そのために事実確認をしただけだ。ああ、それと村長、あなたがどうしてもというから、こういう場を設けたのだ。本来なら決闘で決着を着けるものですぞ?」
「ああ……その、決闘だけは何卒ご勘弁を!」
おかしい、村長は何故そこまでこのパーティに肩入れする?そんなロイの疑問が伝わったのかギルドのお偉いさんはリーダーの男を指差しながら言う。
「彼は貴族なのです。高等部、冒険者コースを金を使って卒業。その後、安全なこのラカン村を拠点にゴブリン狩りを行っては使用人や親に自慢しているのです。クエストを受ける際は高等部を出てる方が優先されるのはご存じでしょう?彼は強引に割り込んだのです。結果はあなたが知っての通り、実力不足が祟ってここ以外でも問題を起こしています」
「俺達を信じてくれるのか?」
「その手に持ってるのはハイゴブリンの魔石でしょう?しかもあなたが一番傷だらけだ。前衛として責務を果たしてるのが実にわかる。そしてあなたの馬車の後ろにある馬車は、先行したパーティのものだとお見受けします。あとは皆まで言わなくてもわかることです」
ここのところ貴族にはウンザリしてたところだったんだが、案外、まともなやつもいるんだな。
ロイは認識を改めて魔石をギルドのお偉いさんに渡す。端の方ではリーダーの男が自身の腫れ上がった頬を擦っており、村長とパーティメンバーが
「アンタ、殴って大丈夫か?」
「女性を殴ろうとする暴漢への対処に、立場などあるまいて。それに、我らギルドは王であろうと不干渉が鉄則。……と言いたいところですが、私以外の支部長は正直わからないですがね」
「アイツらはどうなるんだ?」
「高等部卒業の経歴は抹消され、ランクはFからの再スタート……彼らは普通の人と同じ条件で冒険者をすることになるでしょう。ただ、道楽で始めた冒険者なので、もうやらないでしょうがね」
処分が些か手緩いのではないかと思うがこの人の言う通り、もう彼らが冒険者をすることはないのだろう。
「では、魔石は確かに受けとりました。あとで改めてギルドのほうへお越しください」
そういってギルドのお偉いさんと職員達は去っていく。実際のところギルドの総括本部は自由都市フライハイトに存在している。そこにいるグランドマスターと敵対すると言う行為は、下手をすれば自国のギルド撤退に繋がるため各国が口を出すことは難しい。撤退されれば自国の問題は自前の戦力で解決しなければならないため、国防能力は大きく低下してしまう。
かといってギルドが偉そうにすることもなく、所属する国の方針に口を出したりもしないのだ。
その後、ロイ一行はギルドで報酬を受け取り、そのまま宿に泊まった。ロビーで部屋を3部屋取って、さあ解散と言うときにソフィアがロイの肩を軽く叩く。
「ロイ、ちょっと良いかしら?」
「ん?どうした?」
「えーっと、あのね。これを───」
「ロイさん!!明日の朝食、パンケーキが付くみたいですよぉ~!楽しみですね!」
「ユキノ、朝食は無いぞ?」
「ふぇ!何故!?」
「節約だ。今サリナが明日の朝食の買い出しに行ってる。朝食は馬車の中で取るんだよ」
「ロイさんの意地悪ぅ~~~~」
ユキノは去っていく、遠くでマナブが何故かやれやれといったジェスチャーをしている。
「あ、ソフィア。そう言えば何か用事でもあったんじゃないのか?」
「……なにも無いわ。ワタクシ、今日は部屋で夕食を取るから、それじゃ」
ソフィアは返事を聞かずに2階の客室へ向かった。扉を閉めるとソフィアは壁にもたれ掛かり、手の中にある”3つの黒い指輪”を転がす。
「また渡せなかった。ワタクシ、こんなに臆病だったかしら……」
指輪をしまい、部屋のベッドにダイブしたソフィアは、同室のサリナが夕食を持ってくるまで眠りに就くのだった。
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