第14話 休日と忘れてた約束

「ねえ、ロイ。18になったらあなたを迎えに行くわ」


 そう発するのは周囲に似つかわしくない銀髪の女の子。

 まるで囚われの姫と王子のお話し……だが男女が逆転しているその発言にロイは不満を覚えた。


「嫌だよ……立場が逆転してるじゃないか」


「あら、ロイはオンブラを出られるのかしら?たまの任務に出れたとしても達成するまでの間だけじゃない」


「それはそうだけど……」


「夫の境遇を許容してこそ妻と言うものよ!だから私はこの村にまた戻ってきます。いい?死んだり行方不明とか許さないから!」


 13歳、貴族なら婚約を交わしてもおかしくない年齢だがロイは一応平民、今はまだその時ではないし考えたこともなかった。


「君が勝手に決めたことじゃないか……」


「私が一番じゃなくても良いわよ。あなたはどのみちこの村の誰かと結婚するんでしょ?それに、あなたのそばに居たいって。それとも、私じゃ……嫌?」


 澄んだ青い瞳が下から覗き込んでくる。ワンピースの胸元から同年代の女子を超える双丘が見え、ロイの心臓が脈打った。


「ん?どうしたの?ロイ」


「い、嫌じゃないよ!ただ、そう言うの考えたことないし、まだ早いよ」


「まぁいいわ。その時までに覚悟を決めときなさい」


「わかったよ。ソフィア」


 ソフィア=レーン、レグゼリア王国に保護された元帝国貴族は取引の結果、帝国に引き渡されることになった。だが、帰り際にロイに見せた顔は悲しみの表情を浮かべておらず、決意と信念に満ちた表情だった。





 ムニュ


 ぎゅううううううぅぅぅぅ!!!


「ハッ!」


 目が覚めるとロイを抱き枕のようにしているユキノが目に入った。

 と言うもの、毎晩添い寝をねだられている。


「夢……か。アイツも5年前の約束なんか忘れてるだろうし、律儀に待つ必要もないよな」


 ロイはその時の約束を再び頭の片隅に追いやり、ユキノに目を向けた。


「ふみゅ~~~」


 緊張感のない寝顔、しかしロイはその顔を見れただけでユキノが元気を取り戻して良かったと感じた。

 出会った当初は親の仇認定されてた為に何も感じなかった。だが胸の感触や匂い、寝相の悪さ故に絡めてくる脚や全身の柔らかさにロイは寝不足気味だった。


 セプテンの街では勇者見たさに部屋が不足しているので仕方ないと観念していた。だがモニック村では空室が多かったので2部屋頼もうとした。その時の事を思い出す。


『らっしゃい!』

『2部屋頼めるか?』

『わかった。じゃあ2部屋……』

『1部屋です!』

『なんだよ……照れてねえで最初からそう言ってくれよ』

『いや、待て!俺達は──』

『1部屋ですッ!』


 あの時、何故か絶対譲らなかったんだよな。にしても、あの時の宿の主人の顔……うぜぇーーー!いくら俺が違うと言っても『ハイハイ、そう言う事にしときますよ』って小声で言いやがる。聞こえてるっての!


「さてと」そう言いながらロイはユキノを引き剥がし、背を向けて寝ようとすると目と鼻の先にソフィアの顔があった。





「うわあああああああああああ!」


「ひゃあッ!……ロイさん?どうしたんですか?」


「あれ?……朝?」


 ガバッと起き上がったロイは眩しい陽光に朝だと理解した。恐らく考え事をしているうちに寝落ちしてしまったのだろう。しかし、唐突なシーンの切り替わりにロイはを忘れていた。


「怖い夢でも見たんですか?少し汗をかいてますね」


 ユキノが顔を覗き込んでくる為、互いの息が同調するほどに近くなった。恐らく彼女は先に起きていたのだろう。次第に気まずくなったロイは少し離れ、視線を下にすると互いの寝間着が乱れている事に気付いた。


 ボタンのいくつかは外れており、色々まろびでそうな容貌だった。

 そして当の本人はと言うと、頭に『?』を浮かべて首を傾げている。


「ロイさん、いつもごめんね。私、寝相悪いから……蹴っちゃったりしました?」


「いや、それは無かった。それより俺は出てるから着替えてくれ」


 時間経過故か、ロイも次第に落ち着きを取り戻していた。




 廊下で待っていると、法衣の上からフード付きのローブを羽織ったユキノが出てきた。


「お待たせしました!」


「ああ、にしても……治癒術師の服だっけ?アグニの塔はここより暑いから別のにした方が良いんじゃないか?」


「私、これしか持ってなくて」


「お金なら余ってるから今日は買い物をしようか」


「ええ!?良いんですか?」


「今日を除けば残り3日、明日からアグニの塔周辺にキャンプするから今日は戦闘は無しだ」


「やったああ!」


 ユキノは嬉しさのあまりピョンピョン跳び跳ねている。


 向こうの世界の女は買い物が好きなのか?こっちの女は無駄な買い物とか言って嫌な顔をするんだがな……いや、俺は田舎者だ。もしかするとオンブラの女だけかもしれない。


 そう考えながらも先頭を元気よく歩くユキノに、ロイの頬は自然と弛むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る