第67話 陽キャ美少女と不純異性交遊したと、委員長が疑いすぎる①
「あら、おはよう吉屋くん」
この『おはよう』という何気ない挨拶で、心臓が止まりかけた者は果たして存在するのだろうか?
答えは『間違いなく存在する』である。今まさに俺が、その証人となった。
「お……はよ……」
本日は週明けの月曜日――つまりは試着室で二宮さんの下着姿を目撃してから、俺と委員長は初めての顔合わせとなる。
しかも彼女は俺の右隣の席、逃げ場がない!
今度は心拍数が上がり始めた俺に、委員長は「二宮さんの裏アカに『勝負下着じゃないのを見せる事態に~!』と書いてあったけど、どういうことかしら?」と詰問する。
――ことはなく、俺と挨拶を交わし終えた委員長は、ぼんやりと黒板を眺める。
「あれ? 何も言ってこない……? ああ、なるほど……」
委員長は『身バレは死なの』と、二宮さんにバレることを極度に恐れていた。
なろう作家・白山ナリサだと、身バレに繋がる
『勝負下着じゃなかったけど、そのままえっちなことしたのかしら? なんてね』といった類の軽口は、委員長にとって危険な行為だ。
彼女の本名は、黒山
白山ナリサと勘繰られないよう、二宮さんの前では
俺の左隣の席に座っている二宮さんが、僅かに赤面しつつ声を掛けてきた。
「おはようヨッシー。あの出来事は……二人だけの秘密にしていてね」
「ああ、もちろん。でも二宮さんがアレにビックリするなんて意外だったな」
「だって普通より小さいんだろうけど、すごく速かったからね~」
小指の爪より小さい黒い蜘蛛だったが、確かにすばしっこい蜘蛛であった。
俺たちの会話を横で聞いていたらしい委員長は、珍しく耳だけでなく顔まで真っ赤にして、小声でぽつりと呟いた。
「よ、吉屋くんのって……小さいんだ……。それに早かったのね……」
委員長が相当よからぬ誤解を深めているが、コミュ障の俺が首を突っ込んでも、余計にややこしくなると思って、そのまま二宮さんと会話を続けることにした。
蜘蛛を両手で包んで、試着室の外に追い出した――そんな話をするだけである。
「でもヨッシー、優しかったね~。外に出してくれたんだもん」
「命は大切にしないとな。父さんからの教訓なんだ」
無闇な殺生は行わないようにと、部屋に入り込んだ虫を潰さず家の外へ追い返す父さんに倣ったのだが、委員長は赤面したまま再び独り言を呟いた。
「確かに二宮さんの身体も大切、外に出すなんて吉屋くん優しいのね……。ゴムをしていても、中だと絶対に避妊できるとは限らないもの……!」
さすがに委員長の勘違いっぷりに、俺も恥ずかしくなってきた。誰か助けて。
俺の頬も赤みが差してきたが、それを二宮さんがジト目で見つめる。
「ヨッシー? もしかして試着室のこと、どうしても思い出しちゃう?」
「ううん、全く……ではないか。でもなるべく思い返さないように善処してる」
現在進行形で俺を照れさせている委員長は、真っ赤になりながら端整な美顔を、両手で覆い隠して小さく声を漏らす。
「えっ? 吉屋くんたち、試着室でシたの? 大胆すぎじゃないかしら!?」
最前列中央の俺の席を中心とした範囲には、まだクラスメイトが揃っておらず、辛うじて俺しか委員長の小声を聴いていないのが幸いだ。
……いや、幸いか? この状況?
俺の返答に二宮さんは、普段の陽キャらしい可憐な笑みを見せてくれた。
「あ、でも思い返してもらえた方が、女子として魅力があるってことだよね~」
くっ! 二宮さんには、委員長が抱いてしまった誤解を悟られてはいけない!
二宮さんの友人として守りたい、その笑顔。……と決意したものの、その希望はあっけなく打ち砕かれた。
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