第66話 休日に陽キャ美少女と服選びしている最中、事件が起こった②

 二宮さんはこのお店は少々お高めだと判断したのか、次々とメンズ用ショップをはしごして、俺の服選びに付き合ってくれる。


 そしてついに納得がいく物を見つけたようで、試着室へと連れられた。


「明るい色のシャツに合う夏用テーラードジャケットに、涼しげなアンクルパンツを選んでみたよ! さあ、試着してみて~」

「聞いたことない単語が頻出したけど、さっそく試着してみるよ」


 俺は備え付けのベンチで二宮さんに待ってもらい、薄くて軽いテーラードジャケットなるものに袖を通して、履いているGパンの替わりに、くるぶし丈のズボンにも足を入れて試着室のカーテンを開ける。


 するとベンチで待っていた二宮さんが立ち上がり、大きな瞳を輝かせた。


「おお~! 最近新しい単語を覚えたけど、これが『推せる』ってヤツかな!?」

「え、そんなに良いの? あ……こう言うと選んでくれた二宮さんに失礼か」


 くるぶしが見えてしまっている丈も恥ずかしいし、キャンパス内の大学生が着ていそうな薄手のジャケットも、俺に似合っているのか、正直不安で仕方がない。


 しかし二宮さんは『イイ仕事したぜ』という顔で俺に近寄り、いつもの陽キャ的至近距離で囁いてきた。


「次のデートの時は、それを着てほしいな~」

「……っ」


 二宮さんの表情を見れば『散策の間違いでは?』という、普段の俺的なツッコミ待ちなのは明らかだ。


 だが先程、店員に彼氏と間違われたばかりで『今回の服選びも言われてみれば、デートっぽくないか?』などと思ってしまい、柄にもなく赤面してしまった。


 俺が考えていることは、二宮さんにも何となく伝わってしまったらしい。


「ヨッシー、ツッコミ忘れてる! 今も別にデートじゃないとか言わないと~!」

「ご、ごめん……。アレだ、これまで着たことない服だから緊張してて……」


 コミュ障の俺なりに限界まで頭を働かせて、それっぽい嘘で誤魔化す。


 高校一年にもなって服が恥ずかしいとか言い出した俺を、同伴者として照れ臭く感じたのか、二宮さんまでほんのりと頬に赤みが差してきた。


「あ、あはは、余った予算で格安ショップに行ってシャツを揃えよっか!」

「……そうだな。それなら予算一万で全ておさまりそうだ」


 学校で過ごす時より、ちょっとギクシャク(?)しながら会計を済ませる。

 全て予算を使ったところで、今度は二宮さんの買い物に付き合うことになった。


 女性服専門店に入る二宮さんだが、女性下着コーナーもあるので俺は恥ずかしくて一旦通路で待機。


 暫くするとRINEで試着室に呼び出され、二宮さんが着替え始める。


 間を置かず試着室のカーテンから少しだけ二宮さんが顔を覗かせてきたが、血でも抜かれたのかと思うほど真っ青な顔になっていた。


「ど、どうしたの二宮さん? 具合が悪いなら店員を呼ぶよ」

「いやいやいや、今すぐヨッシー助けて! 試着室の中に蜘蛛が~!」

「意外だ、蜘蛛苦手なんだ。大きくなければ任せてくれ。じゃあ中に入るぞ」


 二宮さんに誘われるままに、僅かに開けられたカーテンの隙間を縫うようにして試着室に入ると、男子高校生には相当刺激的な下着姿の二宮さんが居た。


 ついでにちっちゃい蜘蛛も端っこで蠢いていた。

 でも濃い紺色のオトナっぽい下着の方が脅威すぎる。


「うわっ! 着替え直すなり、脱いだ服で隠すなりしてるのかと思ってたのに!?」

「そ、そうしたいけど、蜘蛛が! ああっ! こっちに来てますしーっ!」

「小指の爪より小さい蜘蛛じゃないか。素手でいっか。よし……手に乗った!」


 俺は狭い試着室で確保した蜘蛛を両手で包み込み立ち上がったが、ほぼ密着状態と言っていいほど近い位置で、白い素肌を晒している二宮さんと目が合った。


 普通の女の子らしく蜘蛛に驚いていた二宮さんの顔が、今度は卒倒するのではと思うほど、真っ赤な顔になっていく。


「よ、ヨッシー。見なかったことにしてくれない? 紺色の、あれそれとか」

「了解……。俺が見たのは、黒色のちっちゃい蜘蛛。それだけだから……」


 俺も頬の熱さを感じながら外に蜘蛛を逃がして、試着し終えた二宮さんに一言。


「二宮さんのコーディネート……やっぱり、凄く良いよ」

「えっと……それ、この試着した服の感想だよね?」


 二宮さんの質問に、妙に意識したままの俺たちは、仲良く黙り込んでしまった。


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・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き

 あぁああぁあぁあぁ~!

 いつもの男子に、勝負下着じゃないのを見せる事態に~!

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「うわあぁあっ! そ、その呟きは、委員長にも見られてるからーっ!」

 もう就寝時間だが、この誤解を招きかねない呟きがされていても、委員長からはRINEで連絡は来ない。

 これは絶対に週明けの学校で、何か言われるだろうと俺は覚悟した。

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