幕間小話 女の勘が囁いてる。やはり委員長はヨッシーを気にしてる!①

 吉屋衛司が通う高校で、二宮姫子は校内一の陽キャ美少女として有名だ。


 なので噂話は校内で常に絶えないが、先日の図書室での一件以来『あの姫子さんに彼氏が出来たらしい』『でも誰が彼氏になったのか伝わってこない』という噂も広がった。


 当人の姫子は自身に関する噂話には昔から慣れっこなのだが、今日は昼休みに委員長を屋上に呼び出し、今回の噂について相談を持ち掛けていた。


「二人きりだね委員長……。ここには誰も来ない……」

「美化委員の竹内さんに無理言って、屋上の鍵を借りてきてもらったもの」


「いやあ、実にありがたい~。今日は委員長に相談に乗ってほしいと思ってね」


 姫子の言葉を聞いた委員長の頬に、一筋の冷や汗が流れた。

 委員長はなろう作家・白山ナリサとして、もう何度も姫子から相談を受けているのだ。


「ヨッー(仮名)と、友達以上恋人未満……を上回る関係になりたい!」

「つまり恋人になりたいってこと? あとその仮名、誰か隠す気ないわよね?」


「こうして委員長に前もって恋愛相談という形を持ちかけることにより、抜け駆けしたら許さないぞ~っていう警告も兼ねようとしている狡猾な恋バナだよ!」


「安心して。ヨッーなる男子と二宮さんとの仲なら、私も応援してるから」


 のこのこと屋上に来てしまった自分の迂闊さを呪いながら、委員長は地雷を踏み抜かないように気を付けて、慎重に発言する。


「あの日から吉屋くんからも話しかけてくれるようになったし万事順調よね?」

「サクッと仮名を公開された~。確かにヨッシーからも声を掛けてくれるようになったんだけど、一つ問題があって! 最近の噂話なんだけどね!」


 憤慨した様子の姫子に、委員長は地雷原を駆け抜けるかのような覚悟を決めた。


「噂話ねえ。校内で流れてる内容は『姫子さんに彼氏が出来たけど相手が分からない』といったものだけれど……」

「それそれ! その噂を耳にしたヨッシー、何て言ったと思います!?」

「分か……らないわ」


 炸裂寸前の手榴弾が自分の足元に転がってきた心境で、委員長は白を切った。

 姫子は委員長の両肩を掴んで、委員長が想像していた通りの内容を叫ぶ。


「なんと『おめでとう二宮さん』でした! 友達として祝福されましたし!」

「そ、そう……。ま、まぁ彼らしいといえば、らしい発言ではあるけども……」


「まだ恋がどうとかって段階ではないとはいえ、こうもバッサリ他人事みたいに言われて私は自信を無くしてしまいました……。以上です……」


 姫子の感情はこれ以上爆発することなく、力なく委員長の肩から手を放した。

 委員長は不発弾と化して沈黙する陽キャ美少女に、慰めの言葉を掛ける。


「ハイテンションなノリに周囲を巻き込む二宮さんもある意味マイペースだけど、吉屋くんは本来の意味でマイペースだから……あまり結論を急がない方が良いわ」

「まあヨッシーから声を掛けてくれるようになっただけでも、出会った直後の関係からは大進歩って感じですけどもぉ~……」


「それに吉屋くんの好きなタイプとかも私たち、よく分かってないじゃない」

「好きなタイプかぁ~。そういうの考えたこと無かったな~」


 この話題に少し食いつきを見せた姫子に、委員長は話をたたみかける。


「ちなみに二宮さんは、どんなタイプが好きなの?」

「ヨッーかな!」


「こ、個人じゃなくて、こういう男子が好みっていうストライクゾーンの話よ」

「会話をずっと楽しみながら付き合ってくれる人かな~。お喋り大好きですし♪」


「ずっと……なのがポイントよね。貴女のハイテンショントークを最後まで一人で捌き切れる人って、実は意外と貴重だもの」


 何だか惚気話を聞かされているような気分になってきた委員長だったが、思わぬ切り返しを姫子から貰う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る