第37話 体力テスト実施を知った陽キャ美少女がやる気に満ちている③
「ねえ竹内さん。美化委員として吉屋くんたちに言いたいことはないかしら」
「リンゴの切りかすを持ち帰るなら大丈夫! 私は風紀委員じゃないからね!」
「……だそうなので、私にもおひとつリンゴを頂けるかしら」
手を洗った委員長と竹内さんにも、二宮さんは切り分けたリンゴを渡す。
小食な委員長より先に平らげた竹内さんが、俺の顔を見つめてきた。
「偉いぞ吉屋くん! 顔が赤くなるほど、一生懸命モップ掛けしてくれて!」
「え? お、おう……?」
てっきり「二宮さんにあーんしてもらって顔赤いんだ!」と勘違いされると思いきや、微笑ましい勘違いをしてくれたようだ。ありがたいぞ竹内さん。
「普段運動してない私やクロポヨも、体力特訓した方が良いかもなー!」
恐らく本名が黒山紗理奈だからクロポヨとあだ名されたであろう委員長が、普段よりも少しだけ勝ち気な表情で宣言した。
「あら、侮らないで。制服を着たままだけど、反復横跳びしてみるわね?」
友人の竹内さんが開始を合図すると、文学部の大学生のご令嬢といった風貌の委員長は、意外にも右へ左へと機敏に動いて、平均以上の運動神経を見せる。
「うおおおっ、すっげー! クロポヨのぽよぽよがポヨポヨしてるー!」
竹内さんの感想が語彙力ゼロで、俺には全く意味が分からないのだが、委員長の動きが何故かピタリと止まった。
運動部系少女からスタイル抜群のご令嬢に元通りだ。
ふわりと揺れた黒髪から耳が赤いのが見えたが、今ので恥ずかしがるトコあったっけ?
珍しく黙り込む委員長の代わりに、二宮さんが締めくくりの言葉を述べた。
「い、委員長だけ特訓禁止~! ヨッシーがぽよぽよ中毒になったら困るので!」
「ぽよぽよ中毒ってなんだ、某パズルゲー中毒か何かか」
こうして初日の朝練は終わり、委員長と竹内さんは先に教室へ向かった。
最後に二宮さんが制服へ着替える前に、俺にだけ反復横跳びを披露してくる。
「ほっ、ほっ、とぉ! どうですか私の反復横跳び~。正直な感想をプリーズ!」
「うん。二宮さんも結構上手だね」
「いやいや! そこは『ポヨポヨしてた』とか感想言うべきでは! 反復横跳びの動きを普通に見るだけとか、どんだけですか! 私も割とポヨポヨしてたのですが~!」
「えっ、ポヨポヨってそういう意味!? 二宮さんも俊敏だなとか思ってた……」
俺からの返答を聞いた二宮さんは、そのまま膝から崩れ落ちてしまった。
翌日以降、朝練メニューが強化されて、俺は体力テスト前日まで悲鳴を上げた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
・この日の裏アカ【おしゃべり好きな宮姫@76danshi_UraakaJoshi】の呟き
いつもの男子、ぽよぽよ中毒ならず!
小さい方が好き? 大は小を兼ねないね!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なぜ委員長が動揺したか分かった……。竹内さんの語彙力が悲劇を……」
いや……俺の読解力の無さも、今回の一連の悲劇を生んだ原因の一つだろう。
自信満々に反復横跳びしていた二宮さんの姿を思い出した俺は、仮にポヨポヨの意味を理解できていても、それはそれで反応に困っただろうと思い、詰みゲー感を味わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます