序幕話 陽キャ美少女は知らない。委員長も裏アカの事に気付いたとは②

「委員長ともあろう者が不純異性交遊とは、実にけしからんぞ~」

「おっと。噂をすれば何とやらだ」


 校舎裏の野良猫たちも最近は二宮さんに慣れてきたのか、逃げ出そうとしない。

 ベンチに座る俺と委員長の肩に、二宮さんは後ろからポンと手を置いてくる。


「人気のないベンチで身を寄せ合うなんて……不純異性交遊で現行犯逮捕だ~!」

「いや、俺は……」

「おっと、ヨッシーには黙秘権を行使していて貰おうか!」


 二宮さんは正面に回り込み、無理やり俺の隣に座って両手で口を塞いできた。


 こういった行動を委員長は何度も目にしているので、二宮さんが『友達以上恋人未満の関係に進みたがっている』と勘違いするのも分からなくはない。


「さあ委員長よ、洗いざらい吐いて頂こう~」

「……」


 委員長の美顔に困惑の色がさらに浮かんできたので、俺は小さく苦笑した。

 匿名で恋愛相談(?)してきた当の本人に、洗いざらい吐く訳にはいかない。


 まるでポケットの中で絡まってしまったイヤフォンのコードをほどいている時のような、まさしく四苦八苦といった表情で、委員長は釈明した。


「身を寄せ合っていた訳じゃなくて、スマホの画面を彼に見せていただけよ」


 余計な誤解をされないように上手に一部の事実だけ伝えた委員長だったが、二宮さんは俺の口を塞いでいた両手を放してドヤ顔で尋ねてくる。


「ヨッシー! 委員長と身を寄せ合い、キスしようとしていた。そうだね?」

「違うぞ。本当に委員長のスマホでSNS画面を見ていただけだから。俺なんてRINE使ってない、とか色々雑談してたんだ」


 俺も余計な誤解をされないように回答すると、二宮さんは腑に落ちた様子で、いつものにこやかな笑みに戻った。


「いやあ。ヨッシーが委員長の魅力で恋に落ちて、不純異性交遊しようとしてるのでは! な~んて勘違いしちゃいました☆」

「断言するのも委員長に失礼だとは思うが、別に恋には落ちていないぞ」


 委員長も二宮さんほどではないがクラスカーストが高く、クラスカースト下位層の俺は、高嶺の花の異性として見ることすら頭に無い。


 とはいえ少しキツい言い方になってしまったので申し訳なさげに委員長の表情を伺うと、恐らく『模範解答ね』と俺にだけ伝えようとして、微笑み返してくれた。


「スタイル抜群の委員長でも陥落しないとは、難攻不落のヨッシー城塞だね~」

「別に俺は恋愛したくないからって、守りに入ってる訳ではないんだが……」


「そう? ではヨッシー改め吉殿様! わたくし、姫子姫と付き合って下さい!」

「俺が殿扱い? というか姫子姫って、姫が被っていて何か言いにくいな」


「じゃあ二宮姫とかどうです?」

「一周回って本名に近くなったけど、良い感じに高貴な響きだね」


「それでは仕切り直して……吉殿様! 二宮姫とどうかお付き合ぃうぅっ!」


 俺はいつものノリで告白してきた二宮さんの脇腹に、自分のスマホを弱めに押し当てて、彼女のお腹をかき切るように動かす。


 どうやら二宮さんは脇腹が弱かったらしく、くすぐったそうに悶絶した。


「うぅ、一旦トークに乗ってからの裏切り腹切り、見事だよヨッシー……w」

「二宮さんが楽しそうで何よりだ。あと裏切り腹切りってよく噛まずに言えたね」

「略して裏腹! ヨッシーも今の行動とは裏腹に、気持ちは揺らいでいて、実は私と付き合いたくなっうぅっ!」


 またいつものノリで返してきたので、脇腹を狙い二度目の掻っ捌きを実行。

 再び弱点を攻撃された二宮さんは「んっふふw」と面白い声を漏らして身を丸める。

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