第4章 金色のドラゴン
第66話 何度でも出て来る神
――時間は王国が戦争に突入する前に遡る――
その日帝国は、王国からの救援依頼で多くの兵を集めていた。
数にして5万。更に追加で5万の兵士を王国に派遣する予定であった。
しかし――
「報告いたします! 我が国の西に位置する山脈から、大多数の飛竜が目撃されたと、多数の巡回兵から報告が上がりました!」
「何!? 本当か!? 数は!?」
「数は2万程と上がっておりますが、いかんせん飛竜の群れです」
「くそ! ……王国に兵を派遣しないといけないというこのタイミングで……」
今王国に大多数の魔物の群れが出現したため、友好国である帝国からも援軍を出すことを決めていたが、今回の魔物の群れの出現で出撃が難しくなってしまった。
「魔物も群は何所に向かっている?」
「一応西の山脈付近を跳んでいるだけで、しばらくそこに留まっている状態との事です」
「――まさか!? 奴らは我々の派遣を読んで、西の山脈で睨みつけているとでもいうのか!?」
本来魔物の群れが知性的な行動を取る事はあり得ないとされている。
しかし、王国に向かっている魔物の大軍が魔王の仕業と考えると、今回現れた飛竜の群れも魔王の仕業の可能性がある。
「――くそ、仕方がない。王国側へは我が国の現状を説明して、援軍が向かえない事を伝えろ!」
「――よろしいので!?」
「仕方があるまい。もしこちらの兵を派遣したと同時に更に多くの飛竜に襲われてでもしたら、こちらの被害が尋常じゃなくなる。
――それに王国側も勘ずくだろう。魔王の仕業の可能性が高いことにな」
こうして帝国から王国への援軍派遣は取り止めとなった。
何時襲ってくるかもわからない飛竜の対策の為に……
しかし、この飛竜が帝国に対して攻撃をする事はなかった。しかも王国側の戦争が終了したと同時に、飛竜も消えて行った。
***
その日僕は何時もの日課である魔法を切る練習をしていた。
普通に魔法を切る事は出来るが、意外と集中力が必要な事に気が付いた。
魔法は魔力である。物質とは違い、形は不定期だ。だから切る際に少しでも魔法の核からずれると、切った際に魔力の残りが真後ろに行ったり、変な方向に行ったりして、周りに被害が及ぶ事もある。
だから僕は、しっかりと魔法の核を完璧に切れるように、常に練習をしている状態だ。
それに、僕に魔法を当てようと、王国に援軍としていく予定だった魔法部隊の人達も一緒に訓練が出来て、一石二鳥でもある。
今まで一度も魔法に当たってないから、魔法部隊の人達もムキになって僕に魔法を当てようと頑張っている。
「それにしても、慣れたねこの光景に」
クルルが僕の真後ろでそんなことを呟いた。
僕は魔法を切る訓練の際、後ろに何時もクルルを置いている。
クルルに被害が出ない様に切ること目的だ。そんなクルルは魔法を受けても大丈夫なように、とても高価な対魔法装備を全身に身に纏っているため、少しの被弾では全然ダメージを与えれない状態だ。
「そうだね。最初の頃は7割クルルに被弾してたけど、最近じゃあ1割をぐらいかな? クルルに被弾してるのは」
「しかもその被害も全然小さくなっているから、もう殆ど完璧に近い状態じゃない?」
確かに僕の魔法を切る精度はぐんぐん上がり、そろそろ別の修行方法を考えないといけないなと思っていたところだ。
そんな他愛もない事を喋りながら訓練をしていたが、本日の訓練終了の合図が来たので、僕は剣を鞘に戻し、クルルに向き合おうとした。
すると、急に意識が遠くなるような感覚が広がり、僕はその場に倒れたのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『やあ、数日ぶり。元気だった?」
そこは何時ぞやの神様と邂逅したよくわからない神の領域であった。
「あれ? 神様? どうしてココに? 僕世界樹に触れてもなければ、神様に繋がるような物にも触っていませんけど?」
訓練中にいきなり倒れたのだ。僕は特に何もしてない筈なんだけど?
『あ~今回は別口。別の場所にいる召喚者達が頑張ってくれたから、こうして君にまた出会えたって感じかな?」
別の場所の召喚者って、王国にいる勇者君達の事かな? そういえば、戦争状態になったと聞いているけど、結果はまだこちらには伝わってないんだよな。
『結果を言うと、その勇者君達が頑張った末に敵将を倒したの。で、魔物の群れはバラバラになって、その王国側の勝利で終わったって感じかな?』
相変わらず僕の考えを読んで会話するんですね。ま、いいですけど。あ、でも誰一人犠牲も出ずに勝ったって事でいいんですか?
『うん。召喚者からは誰も犠牲になってないよ。そこは流石にね? 強い力を全員に授けてるみたいだから、こんな序盤に死なれても、こっちの女神的に困るだろうしね』
戦争の事はわかりました。でも何で神様が僕に会いに来たんです? ていうかそんなに簡単に会えるものなんですか?
『それには理由があってね? どうして長慶君に会いに来れるようになったかと言うと、勇者君達が敵将を倒したからなんだよね』
「敵将を? それがどうして?」
『今回の敵将がね? この世界の魔力を多く使って別の世界にいる邪神と繋がってたの。その邪神との繋がりのせいで、他の神達がこの世界への干渉が難しい状態だったわけよ』
つまり、本当は神様達はこの世界に干渉したかったけど、その邪神達が邪魔して干渉が難しかった。でもその邪神の干渉が無くなったから、今このタイミングで僕に接触したとの事でいいですか?
『長慶君正解。更に追加情報で、君が還って来るために必要な情報もゲットしたよ?」
「本当ですか!」
『本当本当。えっとね……召喚者2人の力が必要みたい。勇者と聖女だね。何でこの2人の力が必要なのかは分からないけど?』
いや、貴方神様でしょ? 何でもわかるんじゃないんですか?
『神様でも分からない事もあるんですぅー! 今回がたまたま分からないだけですぅー! そんな意地悪な事を言う人には、奥さんの情報を教えてあげないぞ?』
「ごめんなさい。それだけは勘弁してください――みなもは今どんな状態ですか?」
『こっちの世界ではもう5か月ぐらい経ってると思うけど、向こうの世界じゃまだ2週間も経ってないからね? とりあえずは母子ともに何事もなく順調に過ごせてるよ』
そうか――よかった……でもこっちではもう5か月なのに、向こうでは2週間なんだ……そうか……
『――しんみりしちゃったね? やっぱり悲しい?』
「そうですね――改めて実感してしまいました。今僕はみなもと同じ刻を過ごせてないんですね……そう思うと少しショックです……」
たかだか数カ月。でも僕にとってはその数カ月も惜しい。本当はもっとみなもと一緒に過ごせたのにという思いが、とめどなく溢れてくるのがわかる。
『ま、今回はお仲間達が活躍してくれたおかげで手がかりが手に入ったんだ。そこは喜んだら? 着実に1歩ずつ前進してるんだしね?』
「そうですね――前向きに考えます」
『そうしたまえ、そうしたまえ。じゃあそろそろ元の世界に戻すよ? 次に会う時は、また何かそっちの世界で変化が起きた時かな?』
そう言って神様は僕に対して手を振って見送る。
僕はその姿を見ながら、現実世界に戻された。
『あ、そうそう。奥さんから名前はなーくんが決めてとか言ってたよ? 頑張って名前考えてね?』
え? どういう事? ちょっとそこ詳し――
***
「あ、目が覚めた? お姉ちゃん! ナガヨシ目が覚めたよ!」
どうやら此処は訓練場らしい。僕は前回と同じようにクルルに膝枕をされている状態だった。
「あら? 目が覚めたの? どうナガヨシ君。調子は?」
僕はクルルの膝から起き上がり、背伸びをした。
「僕はどれくらい気を失ってました?」
「だいたい30分くらいだよ? もしかして訓練に疲れた?」
「そうそう。クルルなんてナガヨシ君が倒れた直後に大慌てで駆け寄って、何度も声を掛けてたんだから」
「お姉ちゃんうるさい! いいの、そんな事言わなくて。で、今度はどうしたの?」
「神様に呼ばれて会ってきたよ」
そう言うと、クルルとマリアーナさんは驚き、詳細を聞いていた。
そのため僕は神様に教えてもらった事を共有した。特に戦争が終わった事を伝えると、マリアーナさんはビックリして、後で確認すると言っていた。
「それにしても、勇者と聖女の力ねぇ? その2人と世界樹があれば元の世界に還れるの?」
「いや、確か以前神様は膨大な魔力が必要と言っていた。だから今度また王国に戻ろうと思う」
「そうね……でもその前に、この国の資料を確認してからでいいんじゃないかしら? 恐らく向こうも戦争が終わったばかりだから、ゴタゴタしてるだろうし……」
マリアーナさんの言うとおり、僕はまだ帝国に保管されている資料を全て確認していない。
王国もまだ慌ただしいだろうし、マリアーナさんが言った通り、しばらくは資料とにらめっこするしかないな。
「あと、神様から子どもの名前を僕が考えてほしいって、奥さんから伝言を預かったみたい」
その事を伝えると、2人は戦争の事とか帰還方法の事とかそっちの気で、子どもの話を中心に凄い勢いで喋りだした。
やれ男の子だったら女の子だったらと意見を出し合い、子どもは女の子である事を伝えると、さらに具体的な名前を言い出すまでに発展した。
2人には悪いけど、純日本人なんで、今出ている西洋の様な名前は付けないと言いたかったけど、多分伝わらないだろうから放置する事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます