第54話 VS邪神軍①/光の変化
『勇敢なるブライアンジュ王国兵士諸君! 目の前の絶望は見えているか――これこそが、われらの国を蹂躙し、愛する者を喰らおうする絶望である!
故に我らは勝たなければならない! 全ては愛すべきもの全ての為に! そして、諸君らも死んではならない――何故なら諸君らもまた、我らが愛する人達だからである!
よいか! 今から諸君らは死地に赴く。しかし死ぬな!! 生きてまた会いまみえ、ともに語ろう!! 我々は絶望を押しのけた勇者であると!!』
「「「「「「「「「「おおー!!」」」」」」」」」」
その轟音とともに、魔法使い達はそれぞれの詠唱を始めた。
『これより、我々は絶望に挑む! これより放たれる一撃が開戦の合図となる――よいな、決して無駄時には許さん! 全員、生きて戻れ!
――魔法部隊! 用意! ……放てー!!』
その宣言とともに、とんでもない数の雷魔法が魔物の大軍に吸い込まれるように着弾した。
着弾したと同時に聞こえてくるとてつもない轟音。まるでミサイルが地表で爆発したのではないかというぐらいの衝撃が、少し離れた場所にいる俺や光君、そしていつの間にか隣にいた小音子ちゃんを襲った。
「どうなった?」
「煙で見えないっすね。でも10万人の一斉攻撃でしょ? 流石にほとんどの魔物が消えたんじゃないですかね?」
「……いや、そこまで減ってないみたい」
光君が希望的観測を、小音子ちゃんがそれを打ち消す情報を伝えてきた。
なんと、魔法で打ち取れた魔物も確かにいるが、かなりの数の魔物がその魔法の雨に耐え、更に全身をしてきた。
「嘘だろ!? 海辺の魔物のくせに雷魔法があまり効いてないのかよ!?」
光君の驚きはもっともである。俺も魔法の授業で習ったが、この世界にも属性の概念はあり、水関連の魔物は雷や大地魔法に弱いのが碇石である。
それが何故か覆された。いったい何故――
「――わかったかも」
小音子ちゃんがが何かわかったのか呟いた。そのため、俺は理由を教えてもらうことにした。
「戦闘の魔物の周辺にクラゲが浮いている。あれは確かイエロージェリーフィッシュ。雷を好んで食べる魔物だったはず」
確かによく目を凝らしてみると、黄色いクラゲのような魔物が数体いる。あれが雷魔法を軽減したのだろう。
「でもまだこちらの攻撃は終わらない――10万人の魔法使いが、一斉に魔法を使うなんて頭が悪すぎるし、さっきの雷魔法の数的に合わない。
多分そろそろ次の魔法が出てくると思う」
そう予告した小音子ちゃんの言うとおり、また新たな魔法が発動した。今度は大地魔法みたいだ。
上空にはいつの間にか巨大な岩が複数個浮いており、魔物目掛けて一斉に降り注いだ。よくあるメテオみたいな魔法だ。
「これは五行の相克ですかね? 土は水を濁すみたいな?」
「そうかもしれないね。ていうか光君、五行思想も知ってるの?」
「そりゃ俺みたいなアニメ漫画小説好きにとっては当たり前の知識ですよ?」
ごめん。俺もアニメや漫画とかは好きだけど、五行思想の詳細までは知らないや。
「今のでだいぶ減りましたね? たしか、この平原ぐらいであれば魔物の数を確認出来る魔法具があるって聞いてたんですけど?」
光君がそう言うと、皇太子からの声が再び聞こえてきた。
『諸君! 先ほどの魔法部隊の活躍により、20万程の魔物が消え去った! この数は通常であれば勝敗の決定打になるが、いかんせん相手は魔物だ!
我々の常識は当てはまらない! そして、今しばらく魔法部隊は魔力回復に努めるため、先ほどの大規模攻撃は難しい状況となった。
さて、残った諸君! ここからは君たちの出番だ! 魔法部隊の魔力が回復するまで時間稼ぎをするでもいい。目の前の敵を討つでもいい。
ただ約束してほしい! 私の願いは先ほどと変わらない――全員生きて再び会いまみえるぞ!!」
「「「「「「「「「「おおー!!」」」」」」」」」」
その雄叫びとともに、最前列に並んでいた兵達が、魔物の大軍に向かって突撃した。
ここからしばらくは白兵戦が続く。みなそれぞれ得意の武器を持ち、迫りくる絶望を跳ね返すために戦いを始めた。
「さて、そろそろ俺達も行きましょうか、栄治さん」
「いや光君。俺達の出番はまだ先だ。まだあのデカ物はこっちに来ていない」
「何言ってるんですか? 下で戦っている兵達への援護ですよ、援護」
「ダメに決まっているだろう? 俺達は切り札だ。極力こんな序盤に力を使う必要はない」
すでに俺達の導入タイミングも決まっているのだ。そんな勝手を起こされては困る。
「何言ってるんですか栄治さん! いいですか! 今も前線で戦い始めた兵達は傷つき、最悪死んでいる可能性もあるんです!
だから少しだけ、俺達で余裕を作るんですよ。所謂士気を上げるための戦術です。俺と栄治さん、そして小音子ちゃんが前線の兵達よりも前に出て大技を放ちます。
それだけで兵達の士気って上がるんです。いざとなれば俺達のような凄い戦士がまだ残っている。だから頑張ろうって」
「確かに言いたい事はわかる。でも危険な魔物はクラーケンとシードラゴンだけじゃないかもしれない。だからうかつに動く事に俺は反対だ」
「じゃあ俺一人で動きます。一人でも多くの犠牲を減らさないといけませんからね」
そう言った光君の目は、どこまでも真剣な目であった。
こんな目をした光君を俺は見たことがない。今まではどこか余裕があり、むしろこちらを見下して笑みを浮かべているような顔ばかりだったのに――
「どうしてそんな風になった? 今までの光君ではあまり考えられないんだけど?」
「――頼まれたんです。俺を慕う女性達から」
「頼まれた?」
「はい、どうか家族を助けて下さいって。正直誰の家族が何処にいるかなんてわかりませんけど、頼まれましたから」
そう言って光君は最前線に向けて走り出した。
その顔はまるで漢の顔であり、俺はその眩い顔を見せられて、酷くイライラした。
「――大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。俺は大丈夫――小音子ちゃん、俺はどうしたらいいと思う?」
「何が?」
「光君の言った事は正しいと思う。でも俺の予想では、クラーケンとシードラゴン以外にもヤバイ奴が控えていると思う。だから行けなかった。そう思う事は間違っているのかな?」
「――さぁ? その時になってみないとわからない。ただ――」
「――ただ?」
「後悔はすると思う。でも、やらない後悔よりやった後悔の方が、後でスッキリすると思う」
そう言って小音子ちゃんは後ろに下がって座り込んだ。どうやら光君への援護は行かないらしい。
小音子ちゃんも俺と同じように後から来る魔物に警戒しているのかもしれないな。
「どうするの? 栄治が行くなら私も行くけど? 栄治がここで待機するなら私も待機する」
「ーーえ? 小音子ちゃんはこの後の展開とか予想はないの?」
「さぁ? 考えてない。私は栄治に付いて行くだけ」
まさかの思考放棄発言に、俺は一瞬固まったが、先ほどの言葉を思い出した。
――やらない後悔より、やった後悔――
確かにそうかもしれないな。前者だとモヤモヤが残る可能性があるけど、後者の場合は俺が決断して行った後の後悔だ。ある程度は納得できるはず。
そう思いなおすと俺は自分の武器の最終チェックをし、小音子ちゃんに向き合った。
「俺も行くよ。行って、一人でも生かせるように頑張ってみる。小音子ちゃんは?」
「さっきも言った。栄治に付いて行く」
その返事とともに、俺と小音子ちゃんも光君を追って最前線を目指して走り出した。
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