第48話 VS雷魔法
僕はいきなり目の前に現れた雷の玉を剣で切り裂いた。
僕は開始の合図と同時に、約5メートル以上後ろに飛んだのだ。そのため、マリアーナさんとの距離は約25メートルぐらい離れている事になる。
それなのに、もうすぐ目の前に雷の玉は現れた。恐らく1秒も掛かっていない。
少し慌てて切り裂いたが、矢継ぎ早に雷の玉が僕に迫ってきた。
弱音を吐く余裕もない。迫ってきている5つの玉を何とか2本の剣で全て切り裂い、ぼくは息を吐いた。
「――予想以上に早すぎる……何とか反応はできているけど、前に出れない……」
マリアーナさんは僕を休ませるつもりがないのか、更にコンスタンスに雷の玉を何でも放ってくる。
それをどうにか切り裂きながら、僕は対抗策を考えるのであった。
***
「いや、あれ意味が分からんけど――ただの剣士がマリアーナ副隊長ともう20分以上も戦えてるって、ありえなくね?」
リオさんがそう呟いたが、それはそうだろうと私も思う。
普通魔法使いと1対1をやるという発想自体がない。
何故なら、魔法使いの方が圧倒的にアドバンテージが強すぎるからだ。
普通の魔法使いの場合、1発、または5発も打てば決着がつく。
炎や風、水といった攻撃が絶え間なく襲うのだ。1発避けたとしても、直ぐ後にもう1発、もう1発と何度も攻撃される。
魔法耐性がある防具を装備したとしても、数10発も連続で当てられると、耐えきれず膝を着き、結局敗れてしまう。
しかし、ナガヨシは未だにマリアーナ姉様と戦えている。確かにナガヨシは未だにその場から動けてはいないが、1発も被弾していない。
全てその剣で魔法を切り裂いている。
でも切り裂けるだけで、その場からは動けない。姉様の魔法が速すぎるからだ。
「でも~普通雷魔法を認識できるかなぁ~?」
「あの魔法って、発動と同時に対象に当たっている印象があるから、動線なんて見えないし予想もできないからね」
フィアさんとクリスタさんが感心の声を出しているが、私も実際には姉様の魔法の軌道なんて見えていない。
ただ姉様が魔法を発動した事と、その直後にナガヨシが剣を振るっている事だけが見えている事実だ。
「この試合、どうなっちゃうのかな――」
***
「(強いわね、ナガヨシ君)」
私は今焦っている。いくら魔力の消費が少ないサンダーボールとはいえ、もうすでに200発以上放っている。
残りの魔力も半分を切っている状態の為、このままいけば私が負けてしまう。
「(正直舐めていたわね。まさかここまでの力量があったなんて……)」
皆の魔法が切り裂かれた時は驚いた。本当に魔法を切れるなんて想像もしてなかったしね。
未だに誰も成しえていない快挙。魔法を切る。本来魔法なんて盾とかで防ぐしかないっているうのに――
「(そして、雷に反応して剣を振るうって、どんな目をしているのよ!)」
しかも最初の内は何とか追い付いているって感じの顔をしているようだったが、今ではある程度余裕を持ったのか、こちらの様子を窺う様子も見られる。
「(このままでは何時か接近される可能性がある――こうなったら――)」
私は多めにサンダーボールを用意し、時間差でナガヨシ君にぶつけるように設定した。
そして――
「こうなったら、大技を試す! 『わが手に集いし雷よ! さらなる速さを持って、相手を貫け! ――ライトニング・レイ――』」
雷の光線がナガヨシ君に向けて放たれた。その際に、一直線ではなく、どこから当たるかわからなくするために何度も屈折させている。その速度は光の速さを超えている。恐らく認識できまい。そう思ったが、勝負に熱中してしまい肝心な事を忘れていた。
これは模擬戦だ。もし本当にこの魔法が当たったら、ナガヨシ君にが死んでしまう。そんな事も考えられないぐらい勝負に焦っていた。
「っ! 逃げて! ナガヨシ君!」
未だに私の光線は等も屈折してナガヨシ君に向かっていないが、それも時間の問題だ。何時かはナガヨシ君に向かって行く。
ナガヨシ君は最初は今まで飛んできていたサンダーボールを全て切り裂いていたが、ライトニング・レイの軌道を見た瞬間、私の方に向かって走ってきた。
しかも走りながらナガヨシ君に向かっているサンダーボールを都度切り裂きながら、もう私の元まで後3歩のところまで来ていた。
「(ヤバイ! ヤラレル!)」
もう私はナガヨシ君の射程圏内だ。少し剣を振るだけで私は切られるだろう。そう思っていたが――
――ナガヨシ君は私に背を向け、向かっていたライトニング・レイを2本の剣で防ぎだした――
ライトニング・レイはナガヨシ君の2本の剣の交差している場所にあたり、そのまま切られて4方に飛んで行った。
そして私は――
――無防備な彼の背中に手を当て、魔力を手に集めた――
「私の勝ちってことでいいのかしら?」
「――そうですね……ハァ……僕の負けです」
とりあえず模擬戦は終了した。正直勝った気がしない。あの時、ライトニング・レイがあの瞬間にナガヨシ君に向かわなければ、私は負けていただろう。
そう思うとドッと疲れが出てきたのか、私は思わずその場に座り込んでしまった。
「大丈夫ですか?」
「ええ、少し疲れただけ。久しぶりよ? こんなに魔力と頭を使ったのは――」
私の残りの魔力は4分の1を切っているぐらいだ。約30分近く魔法を使いっぱなしだったし、しかも最後は上位魔法を使ったのだ。
しかも、魔力操作として頭をフル回転しながら魔法を使っていたのだ。それは疲れる。座り込んでも仕方がない。
「とりあえずは実験終了ね。本当に貴方は出鱈目ね。まさかここまで私が手古摺るとは思わなかったわ」
「僕もビックリです。まさかここまで戦えるとは思いませんでした」
何とか起こしてもらい、体制を整える。その間にクルル達がこちらまで寄ってきた。
「お姉ちゃん大丈夫? すっごい汗だけど?」
「ええ、大丈夫よ」
「本当に凄かったですね。クリスタなんてずっと口を開けたままでしたしね」
「リオ! 何で言っちゃうのよ! 恥ずかしいじゃない!」
「本当にね~クリスタちゃん、ずっと「あ~」てなってたしね~」
「フィアも何言ってるのよ!」
女子が集まると姦しいのは何所の世界でも変わらない真理である。今は僕達の戦いの事を興奮しながらあーでもないこーでもないと言い合っている。
「ナガヨシお疲れ! 本当惜しかったね! ていうよりも、よくこんな長時間お姉ちゃんと戦えたね?」
「本当そうね。よくもまー雷魔法を切れたもんだわ。凄いわね」
「もしかして、雷魔法の軌道とか動線が見えてたの? どうなの?」
クルルが心配し、リオさんが感心し、クリスタさんが質問してくる。
何故雷魔法を切れたのか。それは――
「勘ですね」
「「「「「勘?」」」」」
「そうです、勘です。なんとなくここら辺に来ているって感じたんで、そこに向けて剣を振るっていたっ感じですね」
後から聞いた話だが、どうやら僕は魔力を何となく感じる事が出来る体質らしい。そのため、僕の近くに魔力が来たら、少しだけ感じる事が出来るので、雷魔法を感じる事が出来たとの事だ。
「それにしても疲れた。今日はもうゆっくり眠りたい」
今日はなかなかハードな1日だった。皇帝陛下との謁見から始まり、魔法の試し切りから模擬戦と、なかかな濃厚な1日だった。
明日からはここら辺の地理を調べたり、資料室で必要な情報を調べる事に専念しようと決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます