第42話 ガグンラース帝国 ガストン=エクレール子爵との契約
この家の主が帰ってきたのは、日が沈む前の夕方頃だった。
その間に僕は、客様にてクルルとセイラさん、そして後から合流したクルルさんの姉のマリアーナさんと雑談という名の拷問を受けていた。
僕は自分の嫁であるみなのも自慢をするのは好きだ。ていうかよくしてる。友達からは何度も「惚気がうざい、何度も聞いた話をするな」とよく言われていた。
でも自分の好きな人の自慢は何度もしたい。こんな可愛いことを言ったとか、こんな可愛い行動を取ったとか、周りに共有したいと思うのは仕方がないと思う。
しかし、今回は僕がみなもの自慢をする場ではなく、クルルが僕の自慢をしている状態だ。
正直恥ずかしい。止めてほしい。そんな事していないし、したとしても誇張し過ぎ。
そのため、何度も話を止めてほしいと訴えたが、女性3人に勝てる道理はなく、結局この家の主が帰って来るまで針の筵状態が続いた。
その後、帰ってきたこの家の主、ガストンさんに招かれて、夕食を一緒に食べる流れとなった。
今は食堂だ。長方形のテーブルに腰替えているが、上座にこの家の主であるガストンさん。右隣にセイラさんん。左側にはマリア-ナさんと、恐らく婿と呼ばれてたクリストファーさん。
そして、セイラさんの隣にクルル、その隣に僕といった順に座っている。
「さて、料理はもうすぐ届く。その前に自己紹介をして貰おう」
ガストンさんから促されたので、僕は席を立った。
「初めまして。僕の名前はナガヨシ。正式には石田長慶と申します。この世界とは別の世界から女神により召喚されました。
今回帝都に来た目的は、元の世界に還るための手がかりがあるかもしれない世界樹の調査の為です。
偶然にもクルルさんに懐かれまして、協力していただけるとの事でしたので、こちらにお邪魔させていただきました」
クルルさんは僕の目的を知っているんだし、ここは正直に全てを話した方がいいと判断した。
「ふむ――女神の召喚魔法……噂には聞いていた。王国の方で勇者が召喚されたと。君もその一人かい?」
「僕は勇者ではありませんでしたが、一緒に召喚された仲間のようなものです」
もう帝国にまで勇者召喚の噂が広まっていたのか。流石に噂は広がるのが早い。
「なるほど、君の目的は世界樹の調査か――わかった、こちらも調査に協力してあげよう」
「ありがとうございます。しかしいいんですか? そんなに僕の事を簡単に信じてしまって?」
そう言うと、セイラさんから回答を頂いた。
「大丈夫よ。だってクルルちゃんが選んだ人ですもの。良い人に決まっているわ」
「クルルはこんなんでも我が子爵家の令嬢だ。人を見る目は養われている。そんなクルルが懐いているんだ。問題はあるまい」
実の子に絶大な信頼を寄せているのか。なんてできた両親なんだろう。
「さて、我々も紹介させてもらおう。私の名はガストン。このエクレール家の主だ」
ガストンさんは僕より身長が高い180cmぐらいの、ガタイがいいイケオジだ。
クルルと同じ青髪を刈り上げており、顎からもみあげにかけて伸びている青い髭がよく似合っている。
「さっきも紹介しましたけど、私がクルルの母であるセイラよ。よろしくね?」
クルルの両親はどちらも青髪のせいか、凄くお似合いの夫婦に見える。
クルルよりはるかにデカい胸に、人妻特有の色気があり、なんていうかエロい人に見える。
「私はマリアーナ。そこにいる家を飛ばした子の姉よ。貴方も大変ね? クルルに懐かれるなんて」
クルルの姉、マリアーナさんも勿論青髪だ。ただクルルよりは短く、肩あたりで揃えている。
ただし、胸はクルルと変わらないぐらいしかなさそうだ。服の上からなので判断は難しいけど。
「最後に私がクリストファー。このエクレール家に婿養子として向かい入れられた人間だ。一応元男爵家の3男である。よろしくね」
めっちゃイケメン。お姉さん凄いね。こんなイケメン捕まえてくるなんて。
髪の色は紫であり、かなり遊んでいる風にも見れるけど、どうやら尻に敷かれているらしく、マリア―ナさんにかなり尽している様子だった。
自己紹介が終わって夕食が運ばれた。内容はサラダとスープ、そしてパンとステーキだった。
僕はこの世界の食材をまだそこまで知らないので、これはどんな名前の野菜を使っているのかとか、肉はどの魔物?動物?の肉を使っているのか等を聞いて、場を盛り上げていた。
そして食事が済み、食器がメイドさんたちの手で片付けられると、ガストンさんは本題の相談をしようと言ってきた。
「さて、世界樹の調査というが、具体的にはどうすか決めているのかね?」
そこで僕は、今まで考えていた仮説を伝えた。
召喚魔法は多くの魔力が必要であり、その魔力が今すぐにでも手に入る場所が世界樹である事。
もしかしたら女神も世界樹から魔力を少しは摂取し、召喚魔法に使われたのではないかと予想。
もし摂取していた場合、なんらかのヒントがあるのではないかという事。
本当に少ない情報の為、今はこれぐらいしか思いつかない事を説明した。
「なるほど……であれば直接世界樹に触れたら、もしかした何かわかるかもしれないな。君は異世界の人間だ。何らかのアクションが起きる可能性もある」
「ちなみに簡単に世界樹を触る事ってできるんですか?」
「一応許可制だ。世界樹の恩恵は大きく、落ちた葉っぱや枝だけでも相当の魔力が蓄えられており、それを狙って伐採に来る人間も多い。
しかし、世界樹に触ると体が楽になったり、怪我の治りが早くなったりと恩恵もある。
故に、世界樹を触る場合は基本的には許可をいただくか、急を制する場合は信頼に値する人間と一緒であれば触れることになっている」
確かにあんなにデカい木だ。触るなと言っても触りたくなるし、規制をした場合の手間は半端ないだろうと想像できる。
「ちなみに、我が家は何時でも触れることを許されている家系の1つだ。君が望むのなら何時でも手続きをしてあげよう」
「本当ですか! ありがとうございます」
「そのかわり――他の勇者の情報を教えてほしい。王国にだけ情報があるのは少し拙いのでね」
等価交換ですね。僕は世界樹に触れたいし、調べたい。帝国側は話題の勇者の情報を少しでも欲しい。
方や木に触るだけ、方や召喚された人間の情報を伝えるだけ。結構いいバランスの取引だと思う。
しかし――
「一応確認なんですが、何故勇者の情報が必要なんです? 彼らと僕の目標には魔王討伐も含まれていますが?」
「王国に未知の戦力が複数人現れたんだ。いくら魔王討伐の為の人材と言われても、信用し過ぎは危ない。
今はわが国と王国は友好的ではあるが、近い将来袂を分かつ可能性もあるからな。念には念をだ」
よくあるテンプレだと、勇者召喚した国が魔王を倒すのではなく、周辺の国に対する抑止力として勇者の力をアピールするという話がある。
恐らくそうならないようにするためにも、細かい情報を帝国側は求めているのだろう。
「わかりました。といっても僕が教えれる情報は勇者一行の人数と職業ぐらいです。
名前はすみませんが、ちょっと覚えていないので、特徴だけ説明しますね」
そして僕は彼ら7人の職業と特徴を説明した。その説明で満足したのか、ガストンさんは僕にお礼を言い、明後日でも世界樹の元に案内してくれることを約束してくれた。
「ところで、何故君は一人なんだい? 他の者達は全員王国にいるというのに?」
「えっとですね? 僕が既婚者で元の世界に妊娠中の嫁がいるんです。
だから早く帰るために、魔王討伐よりも帰還方法の模索を優先したいと言ったら、一人で探せって追い出されました」
ある意味方向性の違いという奴だろう。向こうは魔王を倒し、還るか還らないかで揉めそうだし。
僕は帰還方法を探してから魔王討伐に参戦する予定だし。
本当は皆で帰還方法を探せていたら時短になったんじゃないかと思ったんだけど、儘ならないもんだね。
そんな事を呟くと、マリアさんは物凄く驚いてクルルに詰め寄った。
「クルルちゃん? 貴方既婚者の殿方を好きになったの? 大変よ? いいの?」
「うん。もしかしたら還れない可能性もあるから、ワンチャン行けるかなって!」
「さすがクルルちゃん! 諦めない精神は私そっくりね!」
「本当クルルも私と同じような男好きになってるし――これって遺伝?」
そう言って、女性3人は恋バナに花を咲かせた。
ちなみにどうやらガストンもクリストファーさんも当時別の恋人がいたらしく、セイラさんとマリア―ナさんの猛烈アピールと、2人とも恋人にフラれた時に傍にいて慰めた結果、結婚に至ったらしい。
でも僕は大丈夫。だってフラれる心配ないから。それに帰還方法は必ずあると神様が言っていたしね。
クルルには悪いけど、その恋は100%実らせる訳にはいかないので、ごめんさいね?
その事を何度もクルルに、そして今度は両親と姉夫婦にも説明したが、クルルは「諦めないからね! 覚悟してて!」と言って、何故か女性陣の応援を貰い、余計に燃え上がるのであった。
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