第40話 寝ぼけた手の行方

 あれから帝都の目前の町である【ガララン】に辿り着いた。

 早速ではあるがギルドに行き、盗賊の首を渡しに向かった。


「ていうか久しぶりだな~このギルド!」

「クルルはここに来たことあるの?」

「うん。私ってばこのギルドで冒険者登録をしたんだよね」


 そういえば、クルルは帝国出身と言っていた。ということはこの辺に住んでいたって事かな?


「クルルってここら辺で暮らしていたの?」

「うん? 言ってなかったっけ? 私は帝都出身だよ?」

「うん。聞いてないね」


 であれば帝都に着いたらクルルは実家に帰るのかな?


「あ、帝都に着いたら私の家に行くけど、ナガヨシも私の家に泊っていいからね? 宿代もったいないし」


 おう……確かにもったいないと言われたらその通りだ。ていうか僕達日本人はもったいないの言葉に弱い。


「わかった。お言葉に甘える事にするよ」

「うふふ。お父様とお母様に紹介しなくっちゃね」


 ん? お父様? お母様?


「さてと、ギルドに到着したし、さっそくカードの更新と首の提出をしちゃおうか」


 深く聞くことは後にして、僕達はギルド内に入った。

 この町のギルドもコッドの町やデーマルクの町と変わらず、冒険者達が大勢いた。

 僕とクルルはまずは更新の為に、カウンターに並んだ。


「ここまで来るまでに結構魔物とか倒したから、もしかしたらランクアップとかしてるかも!」

「そうそうランクって上がるの?ていうか僕は既にⅣになっているから、多分上がらないと思うけど?」

「私はまだⅡだから、早くナガヨシと同じⅣになって、新人時代を終了させたいのよ」


 ギルドランクはⅠ~Ⅲが新人時代、Ⅳ、Ⅴが中堅。そしてⅥ~Ⅹがベテランである。

 Ⅵ以上に上がるのはとても難しいらしく、ⅦとかⅧになるだけで化け物扱いされる。

 ちなみにラケーテン旅団のリーダーザックさんはランクⅧ、金精院のステイシーさんはⅦである。


 そうこうしているうちに僕達の番が回ってきた。

 まずは僕から魔法具にカードをセットする。少しだけ光った後、カードを取り出した。どうやら今回はランクは上がってないらしい。

 そりゃそうだ。そう数週間で何度もランクが上がっていたら、その人は生粋の戦闘狂で、魔物が沢山いるところにあえて行っている人か、事件に巻き込まれ過ぎの人だと思う。

 僕としては平和に帰還方法を探したいので、事件とかが来るのは勘弁である。初陣は例外中の例外。


「あ、私ランクアップしてる! しかも職業も変化してる!」


 どうやらクルルさんはⅡからⅢになったようだ。しかし、職業も変わったっていうけど、変わるの? 職業?


「ナガヨシ! 私ね、【戦士】から【中級剣士】になれたよ! やったね!」


 どうやら一般的な職業は【戦士】とか【魔法使い】とか【盗賊】とかいろいろあるらしい。

 その職業を極めて行けば、自動的に職業も強くなり、名前も変わるとの事だ。

 僕の【剣使】もいつ変わるのかな?


 その後、先ほど倒した盗賊の首をギルド職員に渡した。

 その際職員さんは首が入った袋をおもむろに開け、じっと顔を見た後、特に表情を変えることなく奥の部屋に持って行った。

 ――生首を直接見て表情を変えないって、どれだけ見慣れているんだ?


「さて、お金が入ってくるまでどうする? 多分30分ぐらいあるけど?」

「じゃあさっきの事を聞きたいかな? お父様とか言っていたね?」

「うん。お父様はお父様よ? それが何?」

「もしかしてクルル、お嬢様?」

「ん? ま~そうだね。実家は爵位持ちだよ? 一応子爵」


 まさかの貴族様発言。ある意味テンプレじゃないかなこれ?ついてきた人間が実はお金持ちだったとか、貴族だったとか。

 そんな事を思っていると、クルルはおかしそうに笑いながら語りだした。


「私の実家って成り上がりなのよ。だから特に伝統とか、義務的なものとかは少ないの。だって親が子に『恋愛は自由でいいぞー。許嫁とか決めるの面倒だしな』って言うくらいよ?

 普通格式のある家だった場合、そんな事天変地異が起きても言わないわ。だから私達は自由にさせてもらってるの。

 あ、ちなみに私は2人姉妹の妹ね。お姉ーちゃんが既に婿を貰ってるから、後継ぎに関しては問題ない状態よ」


 以前少しだけ貴族の事を聞いたが、王国も帝国もその他の国もあまり制度は変わっておらず、基本的には世襲制らしい。

 そして4代まで家を新参貴族、または成り上がりと呼び、5代以上続いている貴族を伝統貴族というらしい。


「クルルの家は何代目?」

「今のお父様で3代目。お姉-ちゃんの婿さんが継ぐと4代目になるから、もう少しで伝統の仲間入りだね」


 果たして、これが続いていると言えるのか言えないのかの判断は僕にはつかない。

 でも、まさかクルルが貴族の娘だと思わなかったな。


「あ、時間だ。ちょっとお金取りに行ってくるね。どっちが預かる?」

「クルルでお願い」

「わかったわ」


 クルルは立ち上がり、報告カウンターの方へ消えて行った。

 ちなみにお金に関してだけど、テンプレの如くギルドで銀行のように預けれるらしい。

 冒険者カードがキャッシュカードの代わりになり、どこのギルドでも引き落としやお預けができるみたいだ。

 なんだかそう考えると、この冒険者ギルドのシステムを作った人って、僕達みたいな召喚者なんじゃないかなと思ってしまう。


 それから数分でクルルさんは戻ってきた。その後は本日泊まる部屋を探し、明日に備えて眠るだけだった。

 何とか宿を探すことができたが、一つ問題が生じた。


「申し訳ないねぇ。今部屋が1部屋しか空いてないのよ。しかもベットが1つしかない部屋」


 どうして今日はこうもテンプレ展開が多いのか。

 もうすぐゴールだというのに盗賊に襲われ、実はクルルがお嬢様と知り、最後に部屋が一つしかないなんて……

 きっとクルルと1つの部屋で寝泊まりした暁には、翌朝女将さんから「昨晩はお楽しみでしたね?」と言われるに違いない。


「はぁ……しょうがない。クルルさん、一緒の部屋になるけど問題ない?」

「え? ……いや、私は問題ないよ? 今まで何度も一緒に寝ようとして追い出されてたし。むしろ願ったり叶ったりな状況じゃない?」

「背に腹は代えられないね。じゃあ女将さん、一部屋よろしく」

「毎度あり。今回はサービスで2人合わせて銀貨50枚でいいよ」


 僕は財布から言われた通りの銀貨を出し、部屋の鍵を貰った。

 とりあえず自分たちが泊まる部屋に入り、荷物を下ろして今後の事について最終確認を始めた。


「明日の夕方には帝都?」

「そうだよ。ここからだと馬車があるけど、どうする? 馬車だと朝出たらお昼過ぎぐらいには、歩きだと夕方には帝都に着くかな?」

「で、まずはクルルの家に行って挨拶と、その後は世界樹に関しての情報が欲しいね」

「う~ん……世界樹の近くにいきたいのなら、一応お父様のコネとか使って近くまで行くことは可能だと思うけど……」

「実際のところ、帰還方法については何にも手がかりがないんで、行ったところで意味がない可能性もあるんだよね……」


 僕の最大の懸念は、世界樹まで仮に辿り着いたとして、それが帰還方法に結び付く可能性が未知数である事だ。

 今のところわかっている事は、召喚魔法は大量の魔力が必要であり、一度実行すると、同じ場所ではしばらくの間は召喚できないというのが通説らしい。

 そのため、付近で一番魔力のある場所の一つである世界樹の傍に行き、ヒントでも見つからないか、藁をも掴むがごとくの願いである。


「とりあえず、世界樹の件は行って決めよう。さて次は――僕は今日床で眠るので、クルルはベットで眠ってね?」

「嫌だよ? 何言ってんのナガヨシ? 一緒に眠るに決まってるじゃん」


 クルルはどうしてこんなにも積極的になれるのか。少しはみなものように恥じらいを持ってほしいと思うのだが――そう言えばみなももこういう場面では積極的だったな。

 告白は僕からした筈なのに、みなもはすぐに腕を組もうとしたり、まだ中学生だっていうのにお泊りしたいと先に言い出すし。僕としてはやりたい事を先にみなもが言ってくれてたから、とっても助かったけど。

 さて、思い出に浸る前に目の前の問題を片付けよう。


「わかった。じゃあ一緒に寝よう」

「え? いいの?」

「クルルから言い出したんだよ? 一緒に寝るって。大丈夫。多分抱き着いたり胸を揉んだり、おしりを触ったりする事も多々ある可能性が高いけど、本番はしないから安心して」

「安心できるか! 何そのセクハラ攻撃! 寝てる間に何てことしてくれてんのよ!」

「いや~みなも曰く、一緒に寝ると抱き着き癖が凄いらしく、よくセクハラを沢山するんだって」

「だって、じゃない! あ~もうどうしよう――一緒に寝たいと思う気持ちと、流石にそんなに触られたら困るという気持ちがー!」


 はっはっは。悩め悩め。沢山悩んで別々に寝る事を提案しな。僕も男なんだ。こんなクルルみたいな可愛い子と一緒に眠った日には、手を出さない自信はないんだよね~これが。

 それからクルルは悩み続け、夕食の時間でも「どうしよう?本当にどうしよう?」と悩んでいた。


 結局クルルは「自分の欲望には忠実であるべき!」と意味が分からない事を言って、僕と一緒にベット眠る事にするらしい。

 その際、物凄く短い短パンと、胸元が見えるんじゃないかってぐらいのシャツを着て僕に一言「一緒に眠よ?」と可愛らしく言ってきた。

 あまりにも可愛すぎて、危うく襲ってしまいそうになってしまったが、こんなこともあろうかと、僕はズボンの紐をこれでもかというぐらいに固く結んで、着ているモノが脱げないようにしていた。これで間違いは起きない筈――だよね?

 そんな僕を見て、クルルは少し微笑みながら「もう、しょうがないなぁ……次の機会だね」と言って眠りについた。

 僕も何とかベットに入り、できるだけ触らないようにするために、クルルに背を向け、枕を抱きながら眠った。


 次の日、結局人間というのは自分の寝相をコントロールできないものなのか、僕が目を覚ますとクルルの服の下に手を伸ばし、がっつり胸を揉んでいる左手と、太ももを触っている右手を発見した。

 幸いクルルはまだ起きていないので、何とかばれないように手を放し、何気ない声でクルルを起こすのであった。

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