間章④ 高嶺の花と付き合えました(後編)

 僕の突然の告白に、一瞬周りの時間は止まったように静かになった。

 しかし、しょせんは一瞬。少しの静寂の後、全員息があったように騒ぎ出した。


「ちょっと!? いきなり告白する奴があるか!」

「そうよそうよ! 普通告白ってもう少しムードとか雰囲気とかあるでしょ!」


 ミーちゃんさんと前ちゃんさんが僕の肩を掴みながら激高している。

 たしかに普通に考えたらこのタイミングで告白するなんて、どうかしていると思う。

 しかし、一応理由があるのだ。


「とりあえず、僕の考えを伝えていいですか?」

 そう言うと、周りがまた静かになった。お友達たちは、僕の説明を腕を組んで聞こうとしている。

 ちなみに、みなもは現在ミーちゃんさんと前ちゃんさんに抱きしめられ、こちらをじっと見ている。何か言いたそうな雰囲気だけど、先に僕の言い分を聞いてもらうことにした。


「僕のお母さんが言ってました。『恋愛は競争だと。好きと分かった相手が仲がいい場合、グズグズになる前に告白するべし』と。

 確かに僕もその考えに賛成です。片思いでもじもじ悩んで苦しんで、成功したらこうしたい、失敗したらどうしようとか、数日にわたって妄想するより、とりあえず当たって砕けろの精神で行こうと思いました。

 告白がOKであればラッキーだと、NGであれば自分を更に磨いて魅力的な男になるべし、そう思ってます」


 そう言うと、殆どの人が難色を示していた。

 そりゃそうだ。この考えは僕の考えだ。他の人達に理解をしてほしいとは思っていない。

 僕は恋愛感情はできていなかったが、好きな人ができたらすぐにでも僕の気持ちを伝え、相手に僕という存在を刻み付けたいとか考えていた。


「それに、前提条件が他の人より違うんですよ。僕とみなもは知り合いというか友達です。

 今までみなもに告白していた人たちと圧倒的にアドバンテージが違うんです。だから告白しました。

 OKであればそのままの関係で。NGであれば――じゃあ明日からも友達の関係でいましょう。でも僕はあなたが好きですーーって相手に意識付けできますしね」


 そう、僕はいろいろ考えてこのタイミングが告白のベストタイミングと思ったので実行した。

 今なら僕はみなもが好きという気持ちでブーストを掛けた勢いで告白できる。

 いくら僕でも好きって自覚して何日間も悶々とした日々を過ごすのは嫌だし。

 しかもほぼ毎日のようにみなもと電話しているのだ。片思いをする時間が増えれば増えるほど暴走していまう可能性もある。

 だから僕は今告白した。みなもにいち早く僕の気持ちを知ってもらうために。


 それに、今まで告白してきた人たちってみなもの知り合いですらない人が多い筈。よくてクラスメートだ。

 みなもは言っていた。自分の事を知らないのに、なんで自分に告白できるかが理解できないと。

 だからこそ僕と他の人はアドバンテージが違うのだ。僕はみなもの事を結構知っているからね。


 そう言うと、何人かは「なるほどなぁ」と納得した様子であるが、やはり大多数が意味が分かってないようだ。


 そしてみなもはと言うと――


「えっと、なーくん?」

 抱きしめられていた2人の手をどかし、僕の真正面に立って、真剣に僕の顔を見ていた。かなり緊張する。


「――よろしくお願いします」

 みなもは小さく呟き、僕の告白を受け入れてくれた。


「ええー!? なんで!? なんでOKしたの?」

「みなも、どうしたの!? あんまり考えてないでしょあんた!」

「いやいやいや、告白をするのも早いけど、返事をするのも早いって!」


 上から竹内さん、ミーちゃんさん、前ちゃんさんが驚いている。

 僕に詰め寄っていた先輩も、そのみなもの告白の返事を聞いていたためか、物凄くショックを受けて、倒れこんだ。一応周りのお友達が助けてくれているが、本人は呆然としたままだ。


 改めてお友達3人がみなもを詰めだした。そのため、みなもはぽつぽつと自分の考えを説明しだした。


「えっとね? 純粋に嬉しくて。他の人に告白された時よりも、なーくんに告白された時の方が、感情が物凄く動いたの」


 どうやらみなもへの告白は、みなもの感情にとんでもないダイレクトアタックをしたようだ。


「それにね、逆に考えたの。今はなーくんと仲がいいけど、もしもなーくんにみな以外の彼女ができたらって……無理! 耐えられない。

 だから気が付いたの。みなはなーくんが好きだって」


 そう言うと、みなもは僕の手を握って、みなもの胸元に移動させた。


「みなはなーくんが好きです。こんな私ですが、これからも一緒に生きていってくれますか?」

「こちらこそ、僕はみなもが大好きです。ずっと一緒にいさせてください」


 こうして、僕はみなもと付き合うことになった。

 ちなみにその場は混沌と化し、ある男子生徒は号泣し、またある男子は混乱したまま廊下に出て周りに言いふらしに走って消えて行った。女子達は歓喜の奇声を上げ続けている。

 恐らく今日の放課後には全校生徒に知れ渡り、面倒臭い事になるんだなぁと他人事のように考えていた。


 みなものお友達たちは、みなもを必死に説得している。

 やれ「もう少しぐらい考えなよ」とか、「石田君は良い人だけど、早すぎない?」とか「あんた恋愛感情芽生えたばかりでしょ? もう花咲いたの?」とか言っている。

 どうやらみなもも僕と同じように、恋愛感情がよくわかっていなかった様子だ。


「いいの! みなとなーくんはこれからお付き合いを始めるの。お互い好き同士だから問題ないの」

 そう言って、今度は僕の頭を自分の胸元に持っていき、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 なんだかみなもの心音が微かに聞こえて落ち着く。僕も実は少しどころかかなり緊張していたんだけど、この抱き締めのおかげで落ち着ける事ができた。


 ちなみに、一緒に来ていた久秀は、みなもの友達を下の名前で言う際に、抱きしめられたあたりから、驚きのあまりずっと口をあんぐり開け、ずっと固まっていた。

 あれだけ騒いだのに未だに固まっていられるなんて、やっぱり僕の親友は他の人とは違うなぁと思ってしまった。


 その後は案の定、放課後には全校生徒に僕とみなもが付き合いだした事が知れ渡り、クラスメイトからは質問攻めを、久秀からも一部始終見ていた筈なのに、しつこいぐらいの質問をされた。むかついたので殴っておいたけど。

 全然止まらない質問攻めを受けていると、みなもとみなものお友達たちが僕の教室までやってきて、僕を回収してくれた。

 その際に、みなもから僕のクラスメートたちに、僕とみなもは正式に付き合いだした事を伝え、その場で抱きしめられ、周りから冷やかしの目を向けられながら帰っていった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「そんな感じでみなもと付き合いだしたんだ」


 とりあえずクルルに付き合うまでの経緯を説明した。

 やはりクルルも僕の持論については理解出ない様子であり、みなもがすぐに僕を受け入れてくれた事にも意味が分からないと言っていた。


 後から聞いた話だけど、みなもはあの時に自分の恋愛感情が理解できた様であり、更に僕からの告白で頭が混乱したらしい。

 そして、もし告白を断った後、僕に新しく彼女ができた場合を想像してしまい、更に混乱が増したらしい。

 そのため、僕の告白を簡単に受け入れちゃったと言っていた。みなもはおっちょこちょいなところが多々あるが、告白時のみなもは物凄く可愛かったせいで、今でも鮮明に覚えている。


 その後もみなもと付き合い始めた頃の話を始め、どこでどんな風にデートしたとか、何をプレゼントしたとか、その際に浮かべた表情がどれだけ可愛いかを丁寧に説明してあげた。

 話の後半ぐらいでは、クルルはもう空返事しかしてなくて、目も虚ろな状態になっていたが、クルルからお話を止めてほしいとか言われなかったので、その後4時間も語り続けた。


「あ、もうこんな時間か。クルル、続きは明日の夜話すとして今日は寝ますか。気を付けて部屋に戻ってね? お休みなさい」

「――やっと解放された……もう2度と奥さんの事は聞かないようにするわ……お休み……」


 クルルさんはフラフラしながら部屋に戻っていった。

 さて、あと少しで帝都に着くまで来れたんだ。体調を崩さないためにも僕も早く寝よう。


 ところで、今王国にいる勇者君一行はどうしてるかな? 帰還方法探してくれてるかな? 希望は薄いかなぁ……

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