第47話 俺の妹がめちゃくちゃ可愛い

 テスト勉強をしながら日々を過ごしていたら、いつの間にか土曜日になっていた。

 来週の月曜から1週間は、地獄のテスト期間が始まる。

 俺が自室で黙々とテスト勉強をしていると、妹の舞衣まいが部屋に入ってきた。


隼太はやたー。いるー? ……ってうわっ!? 勉強してるっ!? キモっ!!」

「月曜からテストなんだよ。勉強してて悪いか?」

「どうせ今回も赤点でしょ?」

「うるせぇな! こう見えて、俺は赤点は1回もとったことないからな!」

「でも、いっつも赤点ギリギリじゃん」

「……いいんだよ! 赤点でさえなければ!」

「そんなんだから頭悪いままなんだよ……」

「……否定はしない。ってかお前、今帰ってきたの?」


 俺は舞衣にそう問いかける。

 時計を見ると、現在は午後1時だ。

 舞衣は毎週土曜日、eスポーツクラブに通っており、いつもなら大体この時間に帰宅してくるのだ。


「そうそう。今丁度帰ってきて、お昼済ませたところ」

「……そうか。それで、俺に何か用?」

「あー、そのことなんだけど……。隼太がテスト勉強に忙しいのはわかるんだけど、息抜きも必要だよね?」

「なんだよ回りくどいな。用があるならちゃんと言え」

「単刀直入に言うと、今から私と出かけない?」

「……え?」


 俺は困惑し、しばらく動きが固まる。

 普段引きこもっている妹が、外に出たい……だと!?


「お願いお兄ちゃん♡」


 くっ、そのキラキラした目で俺を見るのはやめろっ!


「愛する妹の頼みだ。お願いを聞いてやろうじゃないか」


 兄である正徳まさのりが、例の如くどこかから急に現れ、俺の肩にポンと手を置いた。


「あんたマジでそれどうやってんの? ナチュラルに瞬間移動するのホントやめろよ」

「そんなことはどうでもいいだろう! それで、弟よ。舞衣のお願いは聞くのか? 聞かないのか?」

「お兄ちゃん……お願い……♡」


 舞衣は俺のことを上目遣いで見つめてくる。

 ああ、うちの妹可愛い……。マジ最高! シスコンで何が悪い!(洗脳済み)


「オーケー! それじゃあ軽く、妹との2人きりのデートを楽しむとしますかねっ!」


 俺は座っていた椅子から立ち上がり、そう宣言した。


「あ、ちなみに正徳も誘ってるから、2人きりではないよ?」

「なん……だと……!?」


 俺は衝撃を隠せなかった。

 2人きりでないことに驚いたのではない。

 俺よりも先に、正徳が誘われていたことに驚いているのだ。


「俺よりも先に、正徳にアポを取ったのかっ!?」


 俺は舞衣の肩を掴み、激しく揺らした。


「うわ……。何その反応。普通にキモいんですけど。別に、送り迎えしてもらってる時に誘っただけだけど。どっちが先とかどうでもいいし……」


 そういえば、舞衣をeスポーツクラブまで送り迎えしているのは正徳だったな。俺は納得する。


「ははは! 残念だったな隼太! どうやら舞衣は、貴様よりも俺のことの方が好きらしいぞ! 長男大勝利!」


 正徳がここぞとばかりに煽ってくる。殴りたい。


「いや、別にどっちが好きとかもないから」

「グサッ! そんな……!」


 今度は正徳がダメージを受ける番だった。


「あれれぇ? 誰だっけ? さっき自信満々に俺を煽ってた長男さんは!」


 俺は仕返しとばかりに、正徳に嫌味を言い放つ。ヤダこれ楽しい。


いて言うなら2人とも大好きだから。早く行くよ」


 舞衣は最後にそう言って、そのまま玄関の方へと向かって行ってしまった。

 さりげなく彼女から放たれた大好きという一言に、俺は感銘を受けるのだった。


「なあ……兄貴」


 俺と正徳の2人だけになったこの部屋で、俺は彼に話しかける。


「なんだ……弟よ」

「俺、今すっげー言いたいことあるんだけど、言っていい?」

「奇遇だな、俺も今、すごく言いたいことがある」

「じゃあ、同時に言おうぜ」

「ああ」


 そして俺と正徳は同時に、「せーのっ」という合図で口を開く。


「「俺の妹がめちゃくちゃ可愛い……」」


 俺も正徳も、抱いた感想は一緒だったらしい。 

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