第34.5話 私が君を騙した理由

 話は今週の月曜日まで遡る。

 その日の昼休み、私と隼太はやた君のラブラブ昼食タイムが終わった後、私はあおに声をかけられた。


愛美あいみ~。ラブラブなとこ悪いんだけど、今ちょっと時間ある? 話があるんだけど」

「うん、いいよ~。それじゃあ隼太君。名残惜しいけど、私は碧とイチャイチャしてくるね!」

「ごめんね、影谷かげたに君。ちょっと彼女借りてくね」

「おう、行ってこい」


 私は隼太君に軽く手を振ってから、碧にスタスタとついていく。

 しばらく歩くと、碧は屋上に続く階段のところに来たあたりで立ち止まった。


「ここならあんまり人もいないし、落ち着いて話せるでしょ」


 碧はそう言って、こつこつと階段を上っていく。

 私も後ろから彼女についていく。

 この場所は先週、隼太君と一緒にお昼を食べたり、口喧嘩をしたりした場所だ。


「さて、さっそく本題だけど……」


 最上階まで上ると、碧は私のことを見て、さっそく本題を切り出した。


「……あんた、本当は影谷君と付き合ってないでしょ?」

「ふぇっ!?」


 私は思わず、変な声をもらしてしまった。

 え? 嘘でしょ? もうバレたの? さすがに早過ぎない?

 私は動揺した。


「えと、どうして……?」


 恐る恐る、私は尋ねる。


「女の勘ってやつかな?」


 無邪気な笑顔で彼女は言った。

 いやいや、勘で当てられるとか、こっちからしたらたまったもんじゃないんですけど!


「……………………」

「おや? その反応は、どうやら図星っぽいね?」


 私が無言でいると、碧に図星であることを見抜かれてしまった。ヤダこの子、なんて恐ろしい子なの……。


「まあ、あんたがどうして、急に影谷君と恋人のフリをしようと思ったのかは知らないけどさ。私から1つ、提案があるの」


 碧は楽しそうに笑って、その提案とやらを口にした。


「──私たちと一緒に、影谷君をだましてみない?」

「え?」


 私は困惑の声をもらす。


「隼太君を騙すって、どうして?」

「私にはどうしても、わからないことがあるの。それを知るためよ」

「わからないことって?」


 私がそうくと、碧は私を指さして、


「それは、愛美がどうして、影谷君を好きになったのか、よ」

「え? それは今日の朝も話さなかった? 私は隼太君の優しい所とかに惚れたって」

「……確かにそこに嘘はないんだろうけど。……私にはどうにも、彼が優しい人には見えなくてね」

「う〜ん。学校での隼太君しか知らない人からしたら、確かにそうなのかもね」


 私は納得するように頷いた。

 私は隼太君の良い所をたくさん知っているけど、きっと他の人からしてみれば、隼太君ってただのぼっちにしか見えないだろうし。


「そう! そうなのよ! 愛美が影谷君の何を知っているのかわからないけど、少なくとも私からしてみれば、影谷君ってそこまで良い人には見えないの!」

「うん、わかるよ」

「むしろ影谷君って、せっかく愛美が笑顔で話しかけても、すごく冷たい態度とってたし……。私からしたら、愛美はなんであんな男が好きなの? って感じなわけよ!」

「うん……そうかもね」


 た、確かに、隼太君ってかなりガードかたいよなぁ……。

 私が隼太君に初めて話しかけた時なんて、塩対応過ぎてすっごい傷ついたし……。

 話しかけてるうちに慣れたけど、慣れるまでは辛かった。

 せっかく隼太君の塩対応にも慣れてきたと思った矢先に、「俺に金輪際近づくな」とか言われちゃうし……。アレはかなりキツかった。

 そう思うと、隼太君とはちゃんと仲直りできて本当に良かった。


「そこでよ、愛美」


 碧が何かを言おうとしているので、私はそれに耳を傾ける。


「私としては、影谷君が本当に、愛美の言うような優しい人なのか確かめたいわけよ!」

「うん。だから、隼太君を騙すの?」

「そうよ! そのための作戦を思いついたから、聞いて欲しいの!」

「うん」


 私は、碧が考えた作戦とやらを聞いてみることにする。


「まず私たちが、愛美をハブくの」

「え、えぇっ!?」


 それを聞いて、私は驚いてしまった。

 ま……まさか友達から、堂々とハブく宣言をされてしまうとは。


「それで、私たちが愛美をハブけば、影谷君だって遅かれ早かれ、愛美がハブかれていることに気づくでしょ?」

「まあ……気づくだろうね」


 元々、私たちが恋人のフリをしているのは、それが理由だ。

 もしも私に恋人ができたら、碧たちは私をハブくのか否か。それを確かめるために、私と隼太君は恋人のフリをしているのだ。

 だから、隼太君は私がハブかれていれば、真っ先にそれに気づくだろう。


「そして、愛美が友達にハブかれているのを見て、影谷君はどうするのか……。私はそれが、知りたいの」

「な、なるほど……」


 私は彼女の提案に納得する。

 確かに、その時の隼太君の行動次第で、彼の人間性がわかるだろう。

 私には、1つの確信があった。


「隼太君は絶対に、私を助けてくれると思うよ?」


 自信を持って、私は碧にそう告げる。


「……へぇ、すごい自信だね。影谷君を相当信用しているみたいね」

「えぇ、信用してますとも! だって彼は、私の……」


 続きを言おうとした瞬間、私は妙に恥ずかしくなってしまう。顔が熱くなっているのを感じる。


「……私の?」


 碧が私に続きを促してくる。


「……私の、ヒーローだからねっ!」


 恥ずかしさを抑えて、私は続きの言葉を口にした。

 隼太君は、私のヒーローで、命の恩人で、そして……。


 ──私が、好きになった人だから。


 だから、絶対に私を助けてくれるよ。


「……じゃあ、見せてもらおうかな。影谷君が、愛美のヒーローに相応しい人なのかどうか」

「うん、見せてあげるよ。その代わり、あまりのカッコ良さに、碧まで隼太君に惚れちゃダメだからね? 隼太君は、私のだからっ!」

「……わかってるわよ。大丈夫。あの子を好きになったりはしないから」

「む〜。それはそれで、なんか複雑……」

「いや、なんでよ……」


 とまあ、こんな感じで。

 隼太君を騙す計画が始まりましたとさ。

 ごめんね、隼太君。

 でもどうしても、隼太君の魅力を、碧たちにも知って欲しかったの。

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