第25話 もしも俺がラノベ主人公なんだとしたら
俺と
勝負は次回に持ち越し、ということになった。次回が本当にあるかどうかはわからないけど。
黒崎との勝負が終わったので、俺は本題に入ることにした。
「さて、僕はそろそろ飯を食うが……」
黒崎がそう言って弁当の用意をしている。
「──なあ、黒崎」
それは、昨日の昼からずつと考えていたことだ。
俺はそれを、口にする。
「なんだよ、
「俺と一緒に、昼飯食わないか?」
例えば、
それはものすごく魅力的なことで、青春の1ページを色鮮やかに刻んでくれることだろう。
──だけど。
男友達と、他愛ない会話でもしながら過ごす高校生活も、同じくらい魅力的なはずだと、俺は思う。
だから、俺の……いや、俺たちの。
青春の1ページを、共に描こう。
俺にとっても、黒崎にとっても、お互いが高校で初めてできた友達。
黒崎、こういうのも悪くないだろ?
「昼飯を……一緒に……?」
黒崎が目をまんまるにして聞き返してくる。
俺はそれに、穏やかな笑みを浮かべて、答える。
「ああ、俺と一緒に」
「……別に、僕は1人でも問題ないけどな。影谷がそうしたいなら、勝手にしろよ……」
「そうですか。じゃ、俺は勝手にここで食べることにするよ。そんでもって、勝手にお前に話しかけることにするよ」
「……好きにしろ」
なんだかんだ拒絶はしてこないあたり、俺も少しは、黒崎に受け入れられたってことなんだろうか?
……全く、ツンデレなやつだな。男のツンデレとか誰得だよってツッコまれるぞ。
そして俺と黒崎は、昼休みを共に過ごすことになった。
俺も太陽から貰った弁当を机に広げながら、チラリと太陽のいる方を見る。
太陽は楽しそうに笑いながら、
特に普段と変わった様子はない。
……だが俺には、1つ気になることがあった。
『いいよ! ……助かったぁ。ありがとう、
俺が太陽に、姫川さんと一緒に飯を食ってくれないかと頼んだ時のあいつの反応……。少しだけ、あの時の彼女の反応に、俺は違和感を覚えていた。
彼女は言った。「助かった」と。
一体彼女は、何に対して「助かった」と言ったのだろうか。
仮に、姫川さんと一緒に昼食を摂ることで、太陽が「助かった」のだとしたら?
姫川さんと一緒に昼食を摂って彼女が助かるのは何故だ?
考えられる可能性は……。
太陽には今日、一緒に昼食を摂る相手がいなかった……?
これは、俺のただの推測だ。
考えすぎなだけかもしれない。
だけど、もしも俺の推測が当たっていたとしたら……。
まさか──。
太陽は俺と交際し始めたことで、友達からハブかれているのでないだろうか。
そこまで考えて、俺の背筋に悪寒が
俺のこの、嫌な予感が当たっていたのだとしたら……。
早急に、対策を取らなければならない。
俺はチラリと、太陽の友達……
碧達4人が楽しげに会話している姿が目に入る。
そこに、太陽の姿はない。
──刹那。
碧が俺の方に顔を向け、目が合った。
俺はビクリと肩を震わせる。
俺と目が合うと彼女は、ニヤリと微笑んでみせた。
俺を試しているかのようなその笑みを見て、俺は、
碧はまるで、「あんたが悪いんだよ?」とでも言いたげな表情をしていた。
俺が顔を上げた時には、碧は友達との会話を再開させていた。
「影谷、どうした?」
黒崎に呼ばれ、俺は黒崎に向き直る。
「いや、なんでもない。飯、食おうぜ」
「僕はもう食ってるんだが……」
「あ、マジか。わりぃわりぃ」
「早く食わないと昼休み終わるぞ」
太陽……。お前は言ってたよな。「碧たちを信じてる」って。
でもさ、どれだけ信じても、裏切られる時は裏切られるんだよ。
バカみたいに友達を信じてさ。結局裏切られて……。
それならやっぱり、最初から誰も信じない方がいいんじゃないのかって、俺は思うんだ。
『ごめんね、隼太君』
俺だって、裏切られたんだ。
俺が、なんとかしてみせる。
「うわ、影谷……。お前……」
俺が考え事をしていると、黒崎に声をかけられる。
「ん、なんだ?」
「お前また、なんかくだらないこと考えてただろ?」
「……確かに考え事はしてたけど、くだらないことではないぞ」
「やっぱりな。お前今、ラノベ主人公みたいな顔つきだったからさ」
「は? どういう顔つきだよ。それ」
「……なんつーか、正義感に満ち溢れてる顔」
黒崎はため息を吐きながら、肩を
「ヒーロー気取って、誰かを救おうとでもしてるのか? 痛いヤツだな」
「………………」
「僕にはそんなこと、絶対できないな……。君はぼっちのくせに、どうしてそんななんだ?」
黒崎は目を細め、遠い人を見るような目で、
「……ホント、羨ましいよ」
それはまるで、自分もそんなふうになりたいと、自分も主人公になりたいと、願っているようだった。
黒崎は俺のことを、ラノベ主人公だと常々口にしている。
もしも。もしも本当に、俺がラノベ主人公なんだとしたら。
神様、どうか。
太陽愛美というヒロインを救う力を、俺に与えて下さい。
俺は静かに、右手を強く握り締めた。
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