第56話 相馬 夏希
―――― side 相馬 夏樹
朝起きると、いつもの様に隣に美央がいる。
そしていつもの様に美央が作ってくれた卵焼きと朝ご飯を食べ、学校に行く準備をする……そんな俺の日常。
こんな時間が欲しくて遠い高校を選び、美央や母さんに迷惑をかけて引っ越してきたけれど、昨日のサッカーでつい昔の自分に戻ってしまったようだ。
大丈夫だ、そう美央や明莉には言ったけれどそれでもやはり多少の不安はある。
玄関のドアを開ける手前で「ふぅ」と一息つき……一気のドアを開けた……。
昨日と何も変わらない景色……道を行く人は数人見えたけれどそれだけだ。
「「いってきます」」
美央と声を揃えて家の中に居る母さんへ声をかけ、明莉と待ち合わせしている公園へと足を向けた。
公園で少し待っていると明莉と……孔美が来た。あれ? 部活の朝練はどうしたんだろうか?
「兄さん、美央ちゃんおはよう」
「お兄ちゃん、美央ちゃんおっはよー」
「明莉ねぇね、孔美ちゃんおはよう、今日はよろしくね」
「2人ともおはよう。孔美、部活はどうしたんだ?」
「んー、ちょっと一緒に居たくって」
「いいのか? まぁ孔美が良いんなら俺は一緒に行きたいけれどな」
孔美は「へへへー」っと照れた笑みを浮かべて俺の腕を取る、そのまま歩き出すので引っ張られないように歩幅をあわせて俺も歩き出した。
――――
電車に揺られる事十数分……高校最寄りの駅で降りた俺達が改札を抜けると、その姿を見つけたのだろう怜子が駆け寄ってきた、走るだなんて珍しいな……。
「夏希様、皆様おはようございます」
笑顔を浮かべながら声をかけてくる怜子に、近くにいた男子たちは驚きのあまり目を見開いて立ち止まる……。
「おい、今笑ってなかったか?」
「あぁ……『
そんな話声が聞こえるが、怜子は『
「おはようございます、掛井先輩。今日も一緒ですね」
「はい、皆様には連絡をさせていただきましたので、ご一緒させてくださいね」
怜子が合流したことで、妹が勢ぞろいと言う事だが……ふと見ると、美央たちはしきりに周りを気にしているようだ。
「どうしたんだ? 何かあるのか?」
「え!? いやー何でもないよー」
「な、なんでもないです、よ? それじゃ行きましょうか」
他の生徒から見られてはいるが……それだけだしな、いったいどうしたんだと首を傾げるが、早く行こうと急かされてその場から学校へと向かうことになった。
正門に着くと、美央と怜子が明莉と孔美に何か話しかけている……うーん、なんだか様子がおかしいな?
「なぁ、4人で何を話してたんだ?」
気になったので、3人になった所で聞いてみた。
「んー、昨日の事でなつが騒がれて困らないようにしようねって」
「夏希君、騒がれるのが嫌だって言ってたから……」
あぁ、そうか……俺が最初に言ったことを気にしていてくれていたんだな……。
「2人とも……いや、4人ともか。ありがとうな」
思わず顔が綻ぶのがわかった……こんな関係になれただけでもこの高校に来た意味はあったのかもしれないな。
教室に入ると、ざわついていたのが一瞬静まり返る……が、すぐに元の喧騒を取り戻したようだ……良かった、どうやら俺が思っていた通りらしい。
ようやく安心した俺は机にカバンを置き……ふと顔を上げると、明莉と孔美が傍に来ていた。どうやらカバンを置いてすぐに来たみたいだが……いつもならどちらかの席で話しているはずだ。
「ん? どうした? 言い忘れた事でもあったのか?」
「いやー、そういうわけじゃなくってー」
「一応……夏希君の傍に居ようかなって孔美と話していて」
なるほど、教室でも騒がれないようにしてくれているのか……。
「ははっ、2人ともありがとうな、でも大丈夫だと思うぞ?」
「何が大丈夫なんだ? 筋肉痛か、相馬」
「皆おはよう、おや、夏希筋肉痛なのかい?」
明莉たちと話していると、後ろから声がかけられた。椅子に横を向いて座りなおし春翔と桐生に応える。
「おはよう、違うよ。筋肉痛になるほどじゃないしな」
「ほほー、いいねぇ。相馬サッカー部に入らないか?」
「悪いな、部活をやる気はないんだ」
もったいねぇなぁと呟く桐生、そして俺の前の席に座った春翔が振り返って改めて聞きなおしてきた。
「それじゃ、何が大丈夫なんだい?」
ちらりと明莉と孔美の顔を見ると、2人も気になっているような顔をしている……。
「あぁ……最初に言ったと思うが、俺は騒がれたりするのが嫌なんだよ」
「あー、そういや言ってたなぁ! でも昨日のことも有るしもう手遅れじゃねぇのか?」
そういう桐生の顔を見て、ふぅっと息を吐く。
「いや? 確かに見られていたりはするようだし、俺の事を色々と噂もしているんだろう……でもそれだけだ」
4人は揃って首を傾げている……うまく伝わっていないんだろうか?
「いいか、まず……朝、家を出ても玄関の前に誰も来ていないし、登校中に付いてくる女子が何人も増えていく事もない。それに下駄箱や机にものが入らないくらいのラブレターやプレゼントもないし、教室に入っても話しかけてきたのはお前達だけだろ」
ぽかーんと口を開けている4人……ん? どうしたんだ? 教室内も静かになったようだが……まぁいいか。
「この様子なら、周りの席の取り合いも起きないし、俺の弁当が5個も10個も並ぶことだってないだろうな。まぁそれが当たり前なんだが……」
俺は4人の顔を順番に見て……。
「ほら、俺ってモブだから」
「「「「「「いや、絶対違うからな(ね)!!!!!!」」」」」」
数瞬の静寂の後、周りのクラスメートが一斉にそんな叫びをあげた。
え? 目立っていないしモブだろ!?
「謝れ! 全国のモブに謝れー!!!」
「目立ちまくってるからね!? もう知らない人いないくらいだからね!?」
「それは基準がおかしいんだよ!」
「相馬がモブだって言うなら俺って一体……ぐふっ」
「た、田辺ぇ!? しっかりしろー!」
一気に騒ぎ出すクラスメート、爆笑する桐生、笑いをこらえている春翔……明莉と孔美は……呆れた顔をしながらもどこか嬉しそうだ……。
え……目立ってないだろ? なぁ?
――――
「と言う事だったんだよー」
その日の帰り道、教室での出来事を美央と怜子に話す孔美。
聞いた2人も、明莉や美央と同じ顔をしていた……。
「はぁ……まさかにぃにの目立つの基準がそれだったなんて……もう、皆に言っちゃうからね!」
「あ、あぁ……」
「それ、にぃにが中学の時に受けた実話なんです……それで私たちは引っ越しを……」
「え、えぇ!?」
「うっそ? そんなことあったのー!?」
「お兄様……大変でしたのね」
そう、大変だったんだよ……だから二度とあんな目に合わないようにって見た目も変えたのに……ん? 待てよ?
「まぁ、だから目立たないように見た目を変えて大人しくしていたつもりだったんだが……もしかして……無駄になった……?」
やっと気が付いたのか……そんな目で俺を見ながら頷く4人……。
「にぃに大丈夫だよ、だから言ったでしょ? もしもの為に明莉ねぇねや孔美ちゃんに一緒にいて貰ったらって」
ま、まじか……じゃあ誰も話しかけてこなかったり、ラブレターやその他諸々が無かったのも……全部、明莉や孔美、美央や怜子のおかげだって事なのか……!?
「うんうん、これからもずーっと私たちがいるからねー」
「そうですよ、もうそんな目にはあわせませんから」
「そうですわね、委員会などの時はわたくしにお任せくださいませ」
はぁ……これは4人に頭が上がらなくなりそうだ……今度何かお詫びしないとなぁ……。
「って言うことはやっぱり……俺の高校デビュー……失敗だったか?」
「「「「大失敗です!!!」」」」
そう言い、笑い合う美央、明莉、孔美、怜子……まぁ高校デビューは失敗したけれどそのかわりに得たものがこの笑顔なら……きっと、間違ってはいなかったんじゃないかと思う。
―――――――――
皆様ごきげんよう、八剱櫛名です。
約1か月にわたりお付き合いいただきましてありがとうございます、これにて
『逆高校デビュー……失敗でした!?』一先ずの完結となります。
最後の方は駆け足感が半端ないですが……楽しんでいただけたのであれば幸いです。
伏線やらフラグやら放置したままとなっていますが、作中の1週間という期間を考えれば、まぁこんなもんかなぁーっと。
エピローグ的な話になってしまった気もしますが『クリスマス特別編』公開してます、よろしければそちらも合わせてお楽しみください。
閑話になるか、それとも2部になるか……思案中ですが、元々はもっと長いお話だったので更新はすると思います。
その前に別作品に入りますが……どうぞお楽しみに。
それではまたね ≦・ω)ノシ
逆高校デビュー……失敗でした!? 八剱 櫛名 @qshina
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