第55話 相馬 美央

―――― side 相馬 美央





「美央ちゃんごめんなさい……皆に夏希君の素顔見られちゃった……」


 いつもの様に正門で待ち合わせた私に合流するなり、明莉ねぇねが謝ってきた。


 今日は孔美ちゃんが部活の為、帰りは私とにぃに、明莉ねぇねの3人だ。


「明莉ねぇね、一体どうしたんですか? まずはどうしてそうなったのか教えてもらわないと……」


 歩きながら話を聞くと、体育の授業中ににぃにがやらかしたらしい……そう言えば中学の時も良く頭から水を被ったりしていたっけ。


「……なるほど、後で孔美ちゃんにはお礼を言っておかないとですね。髪が濡れたままじゃ風邪をひいてしまっていたかも」


「うん、そうだね……って、美央ちゃん見られちゃったことは良いの?」


 申し訳なさそうに私の顔を見てくる明莉ねぇね……きっと私たちの約束のことを気にしているんだろう。


「まぁ、それはにぃにが悪いことですし。多分サッカーに夢中になって中学の頃の習慣をやってしまったんじゃないかな?」


「う……すまん……」


「遅かれ早かれ、にぃにの素顔がバレることはわかってましたし……もしバレていなくてもにぃにならすぐにモテていたでしょうけどね」


 そう、にぃにはかっこいいからモテていたわけじゃない……もちろんそれもあるけれど、大抵の子はその優しさや男らしい所にコロっといくのだ。


「たぶん大丈夫ですよ? もうクラスの人には明莉ねぇねや孔美ちゃんとの関係が噂されているでしょうし……」


 もしかしたら私や怜子ねぇねの事も言われているかも知れない。でもそれも承知の上だ、私たちがいるのを知ってもなお、にぃにに近付こうとする人はほんの一握りに過ぎないはずだから。


「だから、今までと同じようににぃにの傍にいてくださいね」


 私がそう言うと、ようやく明莉ねぇねは笑顔を見せてくれた。帰ったら孔美ちゃんにもお礼のメッセージを送っておこう。




 電車に揺られ、いつもの帰り道。

 

「皆には心配をかけているけど、俺も今の感じだと大丈夫だと思うけどな」


 不意ににぃにがそう言いだした。


「にぃに? それってどういう事?」


「まだはっきりとはしないが……まぁ明日になればわかるだろ」


 そう言いながらにぃには隣を歩く私の頭を撫でてくる。私たちがこうされると弱いってわかっているんだろうか……。

 反対側を歩く明莉ねぇねが少し羨ましそうな顔をしていると、それにすぐ気が付いたにぃには明莉ねぇねの頭も撫でてあげる。


 にぃにの意図はよくわからないけれど、確かに構えすぎても上手くいかないことだってあるかも知れない。

 またあの時のような騒ぎに巻き込まれて、この時間が奪われると言う事にならないようにしなきゃ……そう決心して、そっとにぃにの腕を掴んだ。




――――


 その日の夜。



――――『孔美ちゃん、今日はにぃににタオルを貸してくれてありがとう』


 もうご飯も食べてゆっくりしているであろう時間を見計らってメッセージを送ってみる。


――――『いいんだよー! でもお兄ちゃんの顔を隠しきれなくてごめんなさい』


 続けて土下座をしているデフォルメキャラのスタンプ……。


――――『明莉ねぇねから聞いたけれどあれはどうしようもないよ、それより明日の事だけれど……』


――――『兄さんが騒がれないようにするんですよね?』


 明莉ねぇねからもメッセージが入る、私と怜子ねぇねは傍に居られないので2人に頑張ってもらうしかないんだけれど……こんな時に傍にいることが出来ない自分がすごく悔しい……せめて来年なら、私も高校生なのに……。


――――『うん、詳しく言えなくて本当にごめんなさい……でも、もうにぃにの悲しむ顔は見たくないの』

 

 にぃにからはまだ皆に昔の事はまだ話していない……もう言ってしまおうかとも思うけれど、一度にぃにに確認してみようかな。


――――『わかってるってー、明日は部活も休んで朝から離れないからねー!」


――――『お兄様の顔って、どうかなさったの?」


 怜子ねぇねだ、そっか、今日の事を知らないんだった。


――――『あ、お姉ちゃん実はねー……』


私たち3人で掻い摘んでだけれど今日の出来事を報告する。





――――『そういうことでしたの。ではわたくし明日も駅でお待ちしておりますわ』


――――『私たち姉妹で、兄さんを守りましょ』


――――『うんうん! お兄ちゃんとの時間は誰にも譲らないんだからー!』


 皆が居てくれて本当に良かった……。

 あの時とは違う、私だってにぃにに……『なつ君』にちゃんと恋をしているんだから。


――――『私たちがずっと一緒に居られるように、頑張りましょう!』


 皆とこれから先もずっと、ずっと一緒に居られるように。



――――『でもさー、お兄ちゃんがモテるのは仕方ないしハーレム増えちゃうかもね』


 スマホ越しに、皆が固まったのが伝わってきた気がした……確かに、その可能性は十分にあるのだから……。

 皆がその覚悟はしているだろうけれど、誰でもいいって言うわけじゃないしね。


――――『そうですわね、わたくしも加えていただいた事ですし……』


――――『そうですね……うちのクラスの委員長さんも兄さんが気になっているようです』


――――『あー、結花里ちゃん? よくお兄ちゃんと一緒に居るよねー』


 ふぅん? よく一緒に居るんだ? 委員長の仕事でも手伝っているのかな?


――――『兄さん、困っている人を見ると放っておけないから……』


――――『私たちが気付いて声をかける前にはもう動いてるんだよねー』


――――『昔からそうだったんです……その委員長さんはどんな方なんですか?』


 委員長をしているくらいだし、もしかしたら私たちの関係に嫌悪感を示すかもしれない……そうなったら特に明莉ねぇねと孔美ちゃんは立場が悪くなるだろう……。

 

――――『良い子だよー、私や明莉とも仲がいいし』


――――『そう言えば時々孔美と何か盛り上がってるわよね?』


――――『あー、あれね、言っていいのかなー内緒だよ? 結花里ちゃん、趣味が私と同じなのー』


 孔美ちゃんの趣味……サッカーかな? でもそれくらいなら内緒にしなくても良いよね?


――――『孔美ちゃんと同じ趣味?』


――――『あぁ、ライトノベル……の事?』


――――『そー、結花里ちゃんハーレム物が大好きなんだよー』


 え……ライトノベルってそういうものなの……!?


――――『そういう読み物があるのですわね……わたくしも読んでみようかしら』


――――『おー、お姉ちゃんも興味あるー? おススメの『兄妹きょうだいもの』貸してあげようかー!』




 

 気が付くと、明日の事なんて忘れてしまうくらい盛り上がってしまった……。

 盛り上がりすぎて、とても読み直すことが出来ないくらいの話もしてしまったけれど……。



 孔美ちゃん、そんなお話の本読んでいたのね……私も借りてみようかな……。


 



 


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