第39話 3姉妹の女子会

―――― side 明莉 美央 孔美





 私は今、自分の部屋で……正座をさせられていた。目の前には明莉と美央ちゃん……。


「それで孔美……昨日のメッセージは一体どういうことなの?」


「孔美ちゃん、正直に言えば万が一にも許してあげなくもないですよ?」


 2人が怖いよー、美央ちゃんそれって許す気ないよねー!?


「だ、だからーメッセージでも伝えたけれど、私もお兄ちゃんを好きになっちゃったよーって…」


 伝え方間違えたのかなー? でも、お兄ちゃんの優しさに落とされちゃったんだから『やられちゃった』でも良くないー? メッセージの文字数も少なくて良いでしょ?

 まぁ、ダメだったから今の状態になってるんだけれど……。


「でも帰ってすぐにシャワーを浴びたんでしょ? それってつまり……をされたからじゃないの?」


 明莉ぃ……何も顔を真っ赤にしながらそんなことを言わなくても……って? え? 私とお兄ちゃんがをしたって思ってるのー!? え? 『やられちゃった』ってそっちの意味でー!? ないないないっ! いくらお兄ちゃんとでも初めてが外だなんて……心の準備が出来てないってー!


「ちょっ!? 明莉! いくら何でもそれはないよー!? ただ一緒にランニングしてたら私が足を痛めちゃって、お兄ちゃんがおんぶをして運んでくれただけだからねー!」


「足を痛めたって……孔美、大丈夫なの?」


「うん、帰ってすぐに湿布貼ったし今はもうなんともないよー」


 正確に言うと、抱き留められて、頭を撫でられて、上着を貸してもらっておんぶされたんだけどねー。改めて思い出すと……女の子を落とす方法のオンパレードじゃない!? でもこれがお兄ちゃんの素なんだろうなぁ……流石『妹キラー』だよー。


「孔美ちゃんの言う事は本当かもしれませんね」


 そんな事を考えていたら、おもむろに美央ちゃんが口を開いた……おぉー! わかってくれましたか、流石美央ちゃん!


「美央ちゃん? まぁ私も孔美が嘘を言ってるなんて思ってはいないけれど……相手は兄さんだし、孔美は可愛いし……もしかしたらってどうしても思っちゃうわよね」

 

「明莉ねぇね、良いですか? もし、にぃにとそういう事をしたとして……すぐにシャワーを使いますか?」


 えっ……お兄ちゃんと、そういう事をした……後? うーん、もしそうならすぐにシャワーなんて使わないで余韻に浸っていたいかなー? って! 何考えてるの、私ー!? そうじゃなくってほら、外じゃシャワーなんてないし……って、ちっがーう!!!


 でも、それが女の子の心情ってものよね……?



「ないわね」「ないよねー」「ないですよね」


 3人で顔を見合わせて頷き合う……少しの間があったのは全員がその事を考えたからかも、明莉と美央ちゃんも顔を真っ赤にしているし……あー、顔があっついよー。

 

 でも、どうやら誤解だってわかってもらえたみたい……って、2人もシャワー使わないのー!?



――――



 孔美のメッセージには驚いてしまったけれど、落ち着いてみれば思い違いだったんだってすぐに分かる事だった。私ったら一体なにを考えていたのかな。


 美央ちゃんのおかげで納得も出来たし、孔美の事はこれ以上追及しないでも良さそうね……兄さんとのあ、証だなんて、すぐに流せたりするわけがないじゃない……。


 孔美も美央ちゃんも同じことを思っているのかな……顔を真っ赤にした2人はそれでもとても幸せそうな顔をしている……きっと私も同じ顔をしているんだろうな。



「孔美ちゃんの誤解も解けたところで、そろそろ始めませんか」


 美央ちゃんがそう声をかけて、待ち合わせたコンビニで購入してきた飲み物やチョコ、クッキーなどを孔美が用意しておいてくれたテーブルに並べだす。

 そうだった、今日は3人で初めての女子会。孔美とはよくこうしてお喋りしていたけれど他の子が入ることは無かったし、まして3人ともが同じ人を好きだなんて……普通じゃあり得ないのかも。


 それでも私はどこか落ち着くこの関係が好き。孔美が兄さんを好きだって言う、自分の気持ちに気が付いてくれて本当に良かった……。


「おー、いっぱい買ってきてくれたんだねー!」


「ふふっ、話したいことがいっぱいありますからね」


 私たちの関係はこれからも、もっと良くなっていくんだろうな。そう思っていると……美央ちゃんの表情がどこか固いことに気が付いた。

 笑ってはいるけれど……何かを覚悟した顔……どうしたんだろう?


 みんなの手元に飲み物が揃ったとき、美央ちゃんがゆっくりと口を開いた。


「私はこれから、2人にとても卑怯なことを言います」



――――


 

 私は卑怯だ……にぃにの妹で2人よりも身近な場所にいるのに、それだけで満足が出来ないなんて。

 今はまだにぃには3人とも妹として接してくれている、でもそう遠くないいつか、明莉ねぇねか孔美ちゃんのどちらかを、それともどちらともを女性として見ることになるんだろう。


 そうなったら、きっと私は置いて行かれる。どんなに好きだって、どんなに女性として意識されたって……私は『妹』なんだから『仮の妹』にそこで勝てるわけがない。

 妹という立場が同じ以上、私のアドバンテージは今までの時間と一緒の家に住んでいると言う事だけ。『信頼』という感情でなら私が勝つだろう……でも、それは『恋慕』にはならない。

 まるで自分の物じゃないかのように口が動かない……頭がこれ以上考えることを拒否する。それでも私はここで進まなければ何も手にすることは出来ないんだろう。


「私は……にぃにが大好きです。いつまでも妹じゃイヤ……ちゃんと私として見て欲しい。明莉ねぇねや孔美ちゃんと同じように、私も女の子として愛してもらえるようになりたい……でも、今のままじゃ私は妹のままだから……」


 一旦言葉を区切り、ふぅっと息を吐く。言わなきゃ……でも怖い……何が正解で何が間違いなんだろう。わからない……わからないよ、にぃに。


 その時、俯いた私の頭をぎゅうっと抱き締める感触……明莉ねぇね? すぐそれに続くように反対側からも抱き締められる……孔美ちゃん……。


「大丈夫……大丈夫だよ美央ちゃん。ずっと1人で抱えてきたんだもんね……でもこれからは私も孔美も一緒だから。お姉ちゃんがずっと一緒だから」


「そうだよー、私たち3姉妹はこれから何があってもずっと一緒。だから……ね? もう我慢しなくていいんだよ」


 抱き締められながら聞こえる2人のとても優しい声……溢れ出る涙を堪える事なんて出来なかった。


「だから……お願い……私を、助けて……私も一緒に……ずっと皆の傍に居させて……」


 あぁ、私は本当に卑怯者だ。2人の優しさに付け込んで、2人の大好きな人との恋愛を手伝わせるだなんて。

 でも、どうかお願い……私の我儘、聞いてもらえませんか? たった一つで良いの、ただ皆の行く末に私も一緒に連れて行って欲しい。



 そんな小さな我儘を。

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