第23話 アリアナ

「そちらこそこんな時間まで商品の確保ですか? あの『雑貨アリアナ』の店主がわざわざこんなところまで出向くなんて……。あっ! もしかして人を雇うお金が無くなっちゃったとか? 最近お店の拡大ばかりしてましたから」



 きっつ……。まさかガゼルさんがこんなに皮肉な言葉を投げかけるとは。人は見かけによらないものだ。



「っつ! おほほほ! 相変わらず口だけは達者みたいですね。でも、お客さんが全く来ない店の主人にそんなこと言われても痛くもかゆくもないわ!」



 うわあ。醜い。同業者の罵り合いとかもう見てられん。というか『っつ!』って大分ダメージあるじゃん……。



「そんな事言ってられるのも今のうちだけですよ。もう少しすれば、他の店には出回っていない凄いアイテムの販売を始めるんですから!」

「凄いアイテム? 負け惜しみもいいところですわね。とうとう嘘までつくなんて」



 凄いアイテム……。この流れ間違いなく俺の銃の事だよね……。



「その、ガゼルさん……。それはまだ決まった事じゃない……」

「この人が僕の取引相手の佐々木さんです! 既に僕の店のみで商品の販売をするという事で契約済みです!」

「えっ!?」



 俺の言葉を遮ってガゼルさんはとんでもないはったりをかます。ちょっと待てって!



「そこの男……。まぁ顔はいいみたいですけど……。でも、そんな凄腕の商人には見えませんね。まるで駆け出しの冒険者みたいじゃありませんか」



 見抜かれてる。それより顔がいい……。初めていわれたんだが……。嬉しいもんなんだな。



「こう見えて佐々木さんは凄腕の冒険者であり商人でもある凄い人なんですよ! それと顔はそんなに良くないと思います。あなた正気ですか?」



 おいっ! 嘘八百もいいところな上に、顔について否定とかお前ぇぇえええ!



「ふーん。そうは見えませんけど……。もしそうだとしたら私の店の取引相手になっていただいた方が貴方にとって利益がありますわ。どうですか、そんなちっぽけな店とした契約なんて破棄してこっちにいらっしゃい」



 雑貨アリアナの主人は、その豊満な胸を俺の胸板に押し付けながら諭してきた。その感触にも驚いたが、それ以上に俺の手前まで一瞬で距離を詰めていた事の方が驚きである。



「どう? 悪いようにはしないから……」



 俺の頬を撫でながら耳元でささやく。長い金髪が肌に当たってこそばゆい。そして香水のいい香り。



「じゃあ……」

「駄目です! アリアナさんの香水は誘惑、催淫効果があるんです! 簡単に気を許してはいけません!」



 ガゼルさんの声で俺は自分を取り戻した。そもそも俺は銃を売る事自体反対なのだ。



「すみませんがお断りさせていただきます」

「そう……」



 頬に触れていた手がゆっくりと離れる。少し名残惜しい。



「それじゃあ、私はこれで失礼するわ。またね、えーとっ……。佐々木さん。もし気が変わったら『雑貨アリアナ』に来なさい。悪いようにはしないから」



 雑貨アリアナの主人は足早に俺達の元を去っていった。靡く後ろ髪が俺の視線を奪い取っていく。



「佐々木さん! 何あんな女にデレデレしてるんですか!? あの人は弱小店の経営を邪魔して潰していく最低の人なんですよ!」

「高飛車って感じではあったけどそんな悪い人には見えませんでしたよ」

「これだから男の人は……。綺麗な女性がそんなに好きですか?」



 ガゼルは重くため息を吐きながら、失望の念を吐露する。いやいやあなたも男ですよね!!



「ってたく……。行きますよ佐々木さん!」



 ぷんすかぷんすか怒るガゼルさんと帰路につく。その態度の所為でさっきの嘘について、咎める気にもならなかった。



 ◇



「お帰りなさい! カードをお預かり……あら、佐々木さん、ガゼルさんとご一緒だったんですか?」



 俺とガゼルさんが同時に帰還したので幸さんは戸惑いの表情で出迎えた。



「ええ。それでこれからしばらくは、ガゼルさんとパーティーを組もうと思って。手続きしてもらってもいですか?」

「構いませんよ! でもまずはポイントを反映させますのでカードをお預かりします」



 数分後カードをと白い用紙を持った幸さんが戻ってきた。おそらくカードを作ったときと同じような用紙だろう。



「ではここにパーティーに所属する方の名前、パーティー名、経験値とポイントの内訳を記入してください」

「パーティー名か……」



 全く考えていなかった。ガゼルさんと俺の頭文字をとって……。いや、もっと和風に……。



「貸してください!」

「えっ! ちょっと!」



 俺が真剣にパーティー名を考えているとガゼルさんに用紙をひったくられてしまった。流石にそれはないよ。



「これで良し!」

「なんて書いたんですか?」



 髪を覗き込むとそこには『シガニー商店』の文字が……。



「却下です」

「却下を却下です」



 頑なに譲らないガゼルさん。説得を数十分説得してみたが、もうどうにもならなそうなので俺は泣く泣く同意して名前を記入した。



「頑張りましょう! シガニ―商店の明るい未来の為に!」

「はぁ」



 ため息を漏らしながらも俺は幸さんに用紙を渡した。



「大収穫祭頑張ろ……」

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異世界迷宮都市の銃器職人~スライムもゴブリンもドラゴンも近代兵器を舐めすぎだろ~ シュン @rave3173

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