第17話 匂うらしい

 姫宮さんと目が合ってから少しの時間が流れた。話しかけるにも何だか気まずい。でも何も声を掛けないのも気まずい。

 俺は静寂を破り思い切って姫宮さんに声を掛けた。



「あの……先ほどはありがとうございました。ここまで運んで貰っちゃって……」

「……」

「何かお礼が出来たらいいんですけど……」



 姫宮さんから返事がない。確かにダンジョンからわざわざこっちまで運ばせたのは悪かったと思うけど……。そんなに怒らないでも……。



「スライムと戦ってたの殆ど姫宮さんだったのに、ポイントまで貰っちゃって……。何だか申し訳ないです」

「……。私、何もしてないです」

「そんなことないです。俺は後ろからサポートしてただけで……」

「サポート役ならあんな風に命投げだすなっ!」



 姫宮さんは急に声を張り上げた。他のお客さんの視線が一気に集まる。



「……すみません。でも佐々木さん、無鉄砲なのは感心しませんから」

「えっ?」



 姫宮さんは立ち上がり帰ろうとする。依然他のお客さんの注目は俺達である。



「それと、シャワー浴びた方がいいですよ。その格好、ちょっと見っともないです。それでは」



 店の扉のベルがカランカランとなると姫宮さんは、店を出た。店全体に安堵の雰囲気が流れる。本当に申し訳ございません。



「お待たせ致しました。こちら、天ざる蕎麦とミニカツ丼になります」

「ありがとうございます」



 会話が終わるのを何となく待っていたであろう店員さんが、料理を持ってきてくれた。



「あの、すいません……」



 俺は店員さんが自分の鼻の辺りに手を当てていたり、鼻声である事に気付き思い切って聞いてみる。



「もしかして、俺、匂います?」

「……。近づくと少々……」



 恥ずかしくなり、一気に飯を口に押し込むと、俺は店を出た。騒がしい上に、匂う客。あぁ恥ずかしい。もうあの店行けないよ。

 自分の身なりを整える為、俺は取り敢えず宿を探す事にしたのだった。





「1泊100ポイント……。何かどこも高くないか?」



 幸さんが言うには安いところなら30ポイントと言っていたはずなのにどこもかしこも100ポイント。仕方ないので俺は宿泊費100ポイントでそれなりに外見の綺麗な宿に決めた。既に5日間分の宿泊費を支払っているのでしばらくは安心だ。



 きゅっ。



 俺はシャワーの水を止めて、貸し出し用のバスタオルでで体を拭く。久々に体がさっぱりする。それに……。



「新品の服は気持ちがいい!」



 宿を探している間に生活必需品をいくつか買っていたのだ。衣服にトラベルセット小さめのキャリーバックに金庫。全部で1000ポイント以上使ったが後悔は一切ない。

 本当は鎧等の装備品も欲しかったところだが、あれはダメだ。高すぎる。明らかにしょぼくても1000ポイントはする。



「流石に支払えないよなぁ。あれだけ戦って2500ポイント。もっと貯めないとダメだな」



 俺は自分のカードを見つめながらベッドに倒れ込んだ。金銭問題には本当に頭を悩ませる。



「そうだ!」



 俺は小さいキャリーバックから缶ビールを取り出した。自販機があるからもしかしたらと思ったがこんな嗜好品まであるなんて正直驚いている。

 プルタブを引っ張る。プシュッと音を立てると少しだけ泡が飛び出しそうになる。



「おっとっと……」



 缶に口を当てて泡を吸い込むと、そのまま喉にビールを流し込む。ごくごくと喉を鳴らす音が心地いい。



「くあぁあっぁぁああ! うまあい! キンキンに冷えてやがる。狂気的だ」



 疲れた体にアルコールは毒だったのか。そのままベッドに横になると、俺は夕食の時間の知らせまで起きる事はなかった。


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