第10話 金山さん

「百聞は一見に如かず。ってことで彼女を見せてやりたいのはやまやま何ですけど……。彼女、さっさとこのダンジョン踏破して違うところ行っちゃったみたいなんですよね」

「それは凄いですね! そんなに鬼神って人は強いんですか?」


 ダンジョンを既に踏破! 俺なんかこの1階層でずっと足踏みしていたっていうのに……。というかこのダンジョンに来てしばらく経つっていうのにその人に会えないなんて、すれ違いが過ぎないか?



「強いっていうかもう殺戮者っていう雰囲気ですね、あれは……。最初殆どの人達がダンジョン【ざわざわ】を全員で攻略しようとしていて……。で、その中に彼女、鬼神ちゃんもいたんです」

「皆さん【ざわざわ】に入っていたんですか……」



 通りで【ぷよぷよ】に人が少ないわけだ。



「ええ。でも、いきなり【ざわざわ】なんて背伸びし過ぎてたんです。入るなりゴブリンの群れに囲まれて、子供、年寄りの順番に仲間は殺されていきました。鬼神ちゃんも最初はその光景に怯えているように見えたんですけど、何か吹っ切れたのか、急に勢いづいて、笑いながら素手でゴブリンを殺し始めたんです。それはもう圧倒的でした。鬼の形相で俺達を救ってくれた。ここで俺は彼女を鬼神ちゃんって呼ぶことに決めたんです」



 いきなり強くなった? 元々のスペックとは考えづらい。多分、何かしらの条件が満たされて発動するタイプのスキルだろう。それにしても人に鬼神ちゃんてあだ名付けるとかこの人もだいぶ変わってるな……。



「鬼神ちゃんがゴブリンを一掃してくれたおかげで俺は生き残れたんですが、時はすでに遅し、100人近い人たちがその時には亡くなっていました。俺達は、【ざわざわ】の攻略を早々に諦めて受付まで戻りました。でも……」

「でも?」

「戻ってきた人達の殆どには戦う気力がありませんでした。ポイントもなく、途方に暮れているその人たちに、仕方なく鬼神ちゃんは自分のポイントを譲渡して、宿に泊まるよう提案しました。しかし……」

「しかし?」

「ポイントを受け取った人達は、何故最初からその力を出さなかったんだ、と、逆上し始めました。俺は必死に鬼神ちゃんを擁護したんですが、その人たちの怒りは収まらなくて……。そんな人達に嫌気が指したんでしょうね。鬼神ちゃんは一人でこのダンジョンに入っていきました。俺は心配になって後を追ったんですけど、その強さと速さに全く追いつけなくて……。鬼神ちゃんを見失って……。5階層から一人でここまで戻ってきたんです」

「それでなぜ彼女がこのダンジョンを踏破したのが分かったんですか? 金山さんは最後までついていってないのに」

「帰り途中の鬼神ちゃんに会ったんですよ。何でまだ3階層にいるのって聞いたら、帰り道なのでって冷たい顔で言われちゃいました」



 マジかよ。それ。どんだけ強いんだよその人! 這いながらちまちまスライム殺してる俺とは比べ物にならん。



「なので俺も帰り道なんです。佐々木さんも今日分のポイントが稼げたら引き上げるのがいいと思います」

「んー。でも、俺はもうちょっとダンジョンにいたいんですよね。モンスターが少ないなら危険も少ないってことでしょ? じっくりポイントを稼げるいい機会だと思うんです」



 複数を一度に相手できる銃が作る事が出来たなら、そんな心配もいらないんですが、あいにく俺の相棒はこの割りばし鉄砲だけなんです。休みたいけど、今は頑張るところなんです。



「そうですか。佐々木さんは変わってますね。人がいきなり100人位亡くなったって聞いても、同様素振りがない。鬼神ちゃんの話をしても怖がらない。むしろこの状況を楽しんでいるようにすら見えます」

「楽しんでいるわけでは……」



 確かに言われてみれば人が大勢死んだことに対して、何も感じなかった。赤の他人だから? それとも仲間意識が薄いから?



「もしかしたら佐々木さんの方が鬼神に近いかもしれませんね。2階層への階段はまっすぐ進んだ先の窪みの辺りにあります。どうぞお気を付けて」



 そう言い残すと金山さんは、ゆっくりと歩きながら帰っていった。金山さんだってずっとダンジョンにいて疲れているはずなのに、その足取りは軽そうに見える。あの人も只者ではない。俺はそう確信するのであった。

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