第7話 治療

「お帰りなさいませ! 倒したモンスター分のポイントを反映致します。カードをお預かりしてもよろしいでしょうか?」



 ダンジョン帰ってきた俺を幸さんが出迎えてくれた。ただ、それよりもさっきの人達がどうなったのかが気になる。

 俺はカードを幸さんに手渡すと、辺りにさっきの人達がいないか確認するが、それらしい姿がない。



「はい。ではカードをお預かりします。直ぐに反映させますのでしばらくお待ちください。すぐ側にベンチもありま……」

「あの!」



 俺は幸さんの言葉を遮った。この人なら何か知っているだろう。



「俺よりも先に女性1人と男性2人のパーティーが帰ってきていると思うんですが」

「ええ。先ほどお戻りになりましたよ。ただ、男性2人はかなりの重傷だったようで、すぐさま治療スペースへ……。もしかしたら手遅れだったかもしれません」

「その、治療スペースってどこですか?」

「この中心部、通称セントラルタワーの入り口横の扉がそこに繋がっています。カードをお返ししたらそちらにご案内致しますか?」

「お願いします……。いや、待っている間に1人でそっちに……」

「ポイントの反映をする前にどこかに行ってしまうとペナルティを受けることになります。直ぐに終わるので待っていてください」



 俺はカウンター近くのベンチで座りながらポイントの反映を待つ。そんな事しているよりも早く治療スペースに向かいたいが、何よりもポイントの反映が第一らしい。



「終わりましたよ。カードをお返しします。それにしても初めてでこのポイントは凄いです」

「そんな事より早く案内をお願いします」



 俺は褒められているというのに少し怒気の混ざった声で、幸さんを急かした。

 幸さんだってさっきの2人を見ている。それなのにこんなに冷静にしているなんて……。少しだけイラっとしてもしょうがない。俺は強く当たってしまった罪悪感をもみ消すように言い訳をし、治療スペースに向かう。

 治療スペースの扉が開く。全自動式で殆ど音はしない。一歩扉を潜るとそこには、複数の治療用ベッド、それに横たわる怪我人達、白衣を着た恐らくは治療の出来る人達がいた。

 俺は、とにかくさっきの人達を探す。部屋が広い上に、怪我人の数が多く中々見つからない。



「居ましたよ。一番右奥です。それでは私は他の仕事がありますので……」

「あ、ありがとうございます。すみませんでした」



 俺は強く当たった事を謝罪しながら幸さんに感謝を伝えた。ニコっと笑った幸さんに何だか救われた気持ちになる。

 ゆっくりと右奥に俺は進む。すると、先ほど見た女性の姿があった。仰向けになっている2人の男性の手を握りながら、目を閉じている。

 そして男性2人は、体格のいい白衣の男に傷口の部分を触れられている。あれが、治療なのだろうか?

 


「治療はこれが限界です。死は免れましたが、一度瀕死状態になるとHPの回復よりも精神の再構築に時間が掛かります。次、目を覚ますのはいつになるのか私達では分かり兼ねます」

「でも、2人とも生きてるんでしょ?」


 

 白衣の男が仰向けの男性2人から手を離す。死んではいない。その言葉が俺の中で引っかかる。そもそも俺達は死んでいるのだから。



「はい。瀕死状態になってから何もせずある程度時間が経ってしまうと完全に死んでしまうのですが、今回は直ぐここに連れてきて頂いたのでなんとか……」

「そう……。あれ? あんたは……」



 女性は俺に気付いたようだ。あんたという言い方が気になる。女性はどう見ても高校生、俺よりも年下だ。



「さっきの子達、どうでした?」

「あんたのお陰で何とか助かった。ありがとう」

「友達……ですか?」

「私の兄貴と弟。バカだけど私の大事な人……。本当にありがとう。でも、本当に生き返るのはもう無理かも。さっきのモンスターの事考えると、もうダンジョンに行くのが怖い」

「そう……ですか」


 震える女性の肩。何かしてあげたい気持ちはあるが、俺だって自分の事で精一杯。この子たちの面倒までは見切れない。



「お取込み中失礼します。今回の治療費を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「治療費?」



 俺は白衣の男の思いがけない一言に戦慄し、その言葉を繰り返してしまった。まさか、治療費がかかるなんて……。



「はい。私共もこれでご飯を食べているので……。もし今、支払いが出来ないというなら、一週間位までなら待ってあげられますが……」

「例えば、それでも支払いが不可能な場合はどうなるんですか?」



 ふっと思い浮かんだ疑問を口に出した。そして、最悪のケースも考える。



「料金の代わりに寿命を頂きます。この世界では、この年まで生きるはずだった年齢になるまでそのままの姿で暮らしていくことが出来ます。そして、その分の寿命を取引に使う事も出来るんです」

「寿命を取引? じゃあ貴方も元々は私達と同じ世界の人なんですか?」

「いいえ。この異世界迷宮都市には様々な世界の人間が混在しています。獣人族やエルフだっている位です」

「エルフに獣人族ですか……」

「ともあれ、もしこの女性が今日から一週間以内に治療費を支払えない場合、そこの倒れている2人、或いは女性から寿命を頂きます」



 そういうと男性は次の怪我人の元へ向かった。女性はあまりの事実に言葉が出ないようだ。



「どうしよう……。私、私……」

「ダンジョンに潜れないなら、他でポイントを手に入れられる方法を探るしかないです。あの人も人を治療することでポイントを得ていました。。まだ、若いのに酷だとは思いますが、生きる為にも生き返る為にも、一歩進まないとダメなんじゃないですか?」



 俺は女性にきつい言葉を敢えて投げかけて治療スぺ―スを出た。そして、こっそりさっきの2人の治療費を支払って減った自分のポイントをもう一度確認するのだった。

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