第2話 点呼

「それでは一列に並んで下さい。今から皆さんの名前、年齢、職業等の情報をこのカードに登録させていただきます」



 幸さんは自分たちに見えるように一枚のカードを振り上げた。金色の枠に名前……後は良く見えないが顔写真が貼ってある。免許証に似ているな。



「このカードにダンジョンで得たポイントが貯められます。貯まったポイントは通貨として利用できます。例えば……」



 幸さんは小走りで、近くにあった自販機のようなもののところまで駆け寄る。自販機のようなものには、四角いカードと同程度のリーダーが付いている。



「欲しい商品のボタンを押して……。ここにカードをピッとすると……。ほらお買い物出来ました」



 幸さんは自販機からコーヒー抹茶というヤバそうな飲み物を取り出すと自慢げに俺たちに見せる。どうやらこのカードで電子マネー決済ができるといった感じらしい。



「他にもこのカードには自分の今のステータスやランク、累計ポイント、所持ポイントが反映されます。個人情報になるのであまり見せないことをお勧めします。それでは皆さんのカードを用意しますので、事前にこちらの紙に記入をお願いします。一番前の人達に紙とペンを渡しておきますので、自分の分を取ったら後ろに回してください」



 先頭に紙とペンを渡す幸さん。物議の声を上げる人や不満な声を上げる人達はその場にはいなかった。やるしかない。そんな思いが今は勝っているのだろう。

 ペンと紙が俺のところにも回ってきた。何だか学生の時のテストを思い出す。早速俺も用紙に記入を始める。まずは名前、佐々木重一ささきかずしげ。年齢30歳。性別男。希望職業……。夢、現実世界に帰る事。



「皆さん書けましたか? それでは後ろから用紙を送ってください!」



 後ろから用紙が回ってくる。ちらりと見える色んな情報。そこで俺はある事にハッとした。希望職業、勇者、魔法剣士、魔法使い……。どいつもこいつもなんてファンタジーな職業を書いてるんだ!



「しまった……」



 俺は自分の書いた職業に後悔を感じ、遂呟く。



「そこの方! 早く前に送ってください」

「あっ! すみません……」



 用紙は書き換える事も出来ず、回収されてしまった。



「それでは今からこの情報を準備したカードに反映させてきます。少々お待ちください」



 幸さんがその場から離れると辺りの人達が少しだけざわつきだす。何だかワクワクした雰囲気の若者、どんよりとした空気でこれからを案じるアラフィフ皆様々だ。



「では今からカードを配布します。名前を呼ばれたら取りに来てください。まずは東仁志あずまひとしさん!」



 幸さんはカードの束を持ちながら一人一人点呼していく。まるで学校の先生のようだ。



「次、金山忠人かなやまただひとさん!」

「はい」



 俺を起こしてくれた人がカードを取りに行く。歳は俺と同じくらいだろうか。身長は平均位だが体格がいい。スポーツでもやっていたのだろう。



「あの、一つ質問してもいいですか?」

「はい! 何でも構いませんよ」



 金山さんが幸さんに質問をぶつけた。淡々と行われていたカード渡しだっただけに、ここでの質問はかなり目立つ。



「ここのダンジョンを攻略すれば本当に帰れるんでしょうか?」



 辺りが一段とざわつく。みんなが今一番聞きたいことだ。



「ええ! 願いは間違いなく叶います。それでは次の方、佐々木重一さん!」



 歓喜の声にその場が包まれた。そしてその声にかき消されそうな小さい声がカードを受け取りに行った俺だけに届く。



「まあ、全て攻略できればの話ですけどね……」

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