第297話 異邦
「私は、文香君の居場所が分かったぞ」
花巻先輩が自信たっぷりに言った。
そこにいる文化祭実行委員とコンピューター研の部員(それと伊織さん)、全員が先輩に注目する。
「文香君は、東南アジアのA国にいるのだよ」
花巻先輩が続けた。
「東南アジアのA国って、この学校のサーバー攻撃の発信地だっていう、そこですか?」
伊織さんが訊く。
「うむ、そのとおり!」
深く頷く花巻先輩。
先輩は自分だけで納得していた。
わけも分からず、先輩以外はお互いに顔を見合わせて首を傾げる。
「どういうことですか?」
たまらず六角屋が訊いた。
「みんな、文香君が第二世代のAI戦車であるということは知っているな? 文香君の前に第一世代のAI戦車が存在しているのは、知っているであろう?」
先輩が訊く。
「はい」
俺は頷いた。
ニュースとかで見たことがあるし、前に月島さんからも聞いたことがあった。
文香が二三式戦車を元にして作られたのに対して、第一世代は一〇式戦車を元に作られたって言ってたのを覚えている。
俺以外の他のみんなも知ってたみたいで頷いた。
「よろしい。その第一世代AI戦車は、海外に派遣されている。我が国は戦闘地域に部隊を派遣できないから、その代わりとしてAI戦車が派遣されたのだ。そのAI戦車が、派遣先でゲリラの掃討作戦に当たっていた。ここまではいいかな?」
また先輩が訊いて、みんなが頷いた。
「その派遣された国が、A国なのだよ」
先輩が言って肩を竦める。
ああ……
派遣された事実だけは知ってたけど、それってA国だったのか。
「それじゃあ、文香ちゃんも第一世代の戦車のように、そのA国でゲリラとの戦いに向かったってことですか?」
南牟礼さんが訊いた。
「うむ。恐らくそういうことであろうな」
「文香ちゃん、今、ゲリラと戦ってるってことですか?」
今日子が声を荒げた。
「そういうことになる」
そのあとしばらく、みんなが言葉を失った。
この瞬間、文香が戦闘をしている。
その意味をみんながそれぞれ考えていた。
文香は、ついこの前まで文化祭を楽しんでて、小さい子達の相手をしたり、演劇のヒロインになったりしていた。
俺と一緒に後夜祭の司会をした。
この一年間、一緒に机を並べて勉強してて、文化祭実行委員として活動してた文香。
俺の家の隣に住んでいて、登下校を共にした文香。
文香とはデートしたこともあるし、一緒に温泉旅館に泊まったこともある。
文香がサンタクロースを信じていたことも知っている。
人気者で、休み時間にはいつもたくさんのクラスメートに囲まれてた文香。
そんな文香が、遠い異国の地で戦っている。
泥や
ジャングルの中で、見えない敵に囲まれている。
(冬麻君、怖い)っていう、文香がゲーム内に残した一言が、余計に重く感じられた。
たぶん文香は、外界との通信を禁止されてるなかで、どうにかして俺にそれを伝えようとしたんだろう。
ゲームの中にメッセージを紛れ込ませた。
(冬麻君、怖い)
その一言が、絶望的に響く。
月島さんは、このことを知ってるんだろうか?
文香の生みの親だし、当然、知ってるんだろう。
こんなふうに文香がいつか戦場に赴くことを知っていて、それでいて、AIの教育のために俺達と学校生活をさせた。
「でも、文香ちゃんがその国に派遣されたことと、そこからこの学校のサーバーに攻撃があったことと、どう関係してるんですか?」
南牟礼さんが訊いた。
「A国のゲリラが、いずれ派遣されるであろう文香ちゃんの情報を求めて、こっちにちょっかい出してきたとか?」
坂村さんが言う。
っていうことは、文化祭準備期間中の停電や、文化祭のときの不審なドローンも、そのゲリラが犯人ってことだろうか?
「多分そうであろうが、それは想像の域を出ない」
花巻先輩が腕組みして言う。
「ひとまず、A国のSNSとか当たってみましょう。もしかしたら、文香ちゃんの目撃情報とかあるかもしれない」
坂村さんが言って、コンピューター研の部員に目で合図をした。
部員の人達が一斉に端末につく。
「文香ちゃんが消えた日からA国に向かった船舶や航空機の記録を調べてもいいかもしれない」
坂村さん自身も端末についた。
再び、コンピューター研の部室が騒然とする。
そんな中、
「あの、そのA国に行くにはどうしたらいいでしょうか?」
俺の口からは、自然とそんな言葉が吐き出されていた。
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