第267話 必中
「冬麻君、ドローン撃ち落としていい?」
文香が訊く。
「ちょっと待って、えっと…………」
俺は言葉に詰まった。
得体の知れないドローンを放置することはできない。
そうかといって、このまま文香が発砲したら大騒ぎになる。
文化祭どころじゃなくなる。
この状況で月島さんとは連絡がつかない。
講堂に戻って花巻先輩に判断を仰ぐことも考えたけど、杏奈ちゃんファンに取り囲まれた講堂との間を行き来するのは時間がかかる。
今すぐここで判断しなければならない。
俺は、どうしようか、ない頭をフル回転させて考えた。
文香の車長席の中で考える。
すると、文香には遠く及ばない俺の頭だけど、あるアイディを思い付いた。
「文香、ちょと待ってて」
俺は文香の車長席を出て部室に走る。
そして、部室に常備してある拡声器を持ち出した。
急いで文香の所に戻る。
文香の車体に上って、そして拡声器を構えた。
「グラウンドにいらっしゃるみなさん、今から、最新鋭戦車、二三式改、『文香』によりますデモンストレーションを行います。敵に見立てた複数の標的を撃ち落とす妙技を披露致しますので、とくとご覧ください」
グラウンドにいる人達に向けて訴えかける。
そう、俺は文香がドローンを撃ち落とすところを見せ物にしてしまおうって考えたのだ。
文化祭の出し物ってことにして、
これなら、みんなをびっくりさせずに堂々とドローンを撃ち落とすことができるって思った。
「只今から、最新鋭戦車、文香によりますデモンストレーションを行います」
拡声器で何度も呼びかける。
文香の周りの子供達には離れてもらった。
安全な位置まで下がってもらう。
何度も呼びかけてたらグラウンドにいるお客さんがこっちに注目した。
なにか始まったかと、講堂の外に集まっていた杏奈ちゃんファンの中にもこっちを見に来る人がいる。
「ご覧ください、この学校を囲むように空に浮かぶドローン。あれを敵と見立てます」
俺は拡声器に声を張って空を指した。
こんなふうに人前に出るのは苦手だけど、必死だったから、そんなこと忘れて言葉がスラスラ出る。
六機のドローンは、青空の下、ほぼ等間隔で学校を囲むように円を描いていた。
かなり高い位置にいて、モーターが発する甲高い音が微かに聞こえる。
整然と飛ぶ正体不明のドローンは、かなり不気味だ。
お客さん達は、文香とドローンの間で視線を行き来させている。
「それでは、今から撃ち落とします。少し大きな音がします。ご注意ください」
拡声器で言ったあと、文香に「撃ち落としていいよ」って小声で合図した。
「うん、分かった」
文香が答える。
すると、車長席の前についている12.7㎜重機関銃の銃座が動いて銃口が空を向いた。
文香が操作してる重機関銃は、まるで生き物みたいに滑らかに動く。
それは一瞬だった。
タタタタタタッと、六発の銃声が響いて、銃口から煙が吐き出された。
重機関銃の横についている
鼻先に、ぷんと火薬の匂いが届いた。
六機のドローンに対して弾は六発。
一撃必中。
打ち抜かれたドローンが、フラフラしならが高度を落としていく。
おおおっ、と、お客さん達から驚きの声が上がった。
お客さんに危害は加えないっていう文香の言葉通り、ドローンは人気のない方へ落ちていく。
文香が入念にシミュレーションして、撃ち抜く場所を決めたのだ。
風向きや落ちる際の挙動も読んでいる。
「見事、六機を一瞬で撃ち落としました!」
俺が少し興奮気味に言うと、お客さん達は拍手で文香を称えてくれた。
周りで見ていた子供達も、すごいすごいって、目を輝かせている。
「大丈夫、ドローンは人がいないところに落ちたよ」
文香が言った。
なんとか、騒ぎにならずにこの場を収めることができた。
文化祭の水面下で実戦が行われていたんだけど、お客さん達には誰にも気付かれずに済んだ。
「ご観覧、ありがとうございました。それでは続けて文化祭をお楽しみください」
俺は最後にそう言って拡声器のスイッチを切った。
すべてを終えて、今頃になって人前に出た震えが来る。
おまけに、文香に銃撃を許可する命令を出した震えも加わった。
勝手に指示出しちゃったけど、ホントに良かったんだろうか?
俺と文香は、一旦、「部室」に戻った。
そのタイミングで月島さんと篠岡さんが「部室」に帰ってくる。
「あなた達、何したの!」
月島さんは第一声でそう言った。
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