第108話 夢の国

 アメリカ軍の輸送機、C-5に乗って二時間半の空の旅をした。


 空を飛んでる時間は、文香とケイと三人でFPSのゲーム、エ○ペックスをしてたから、あっという間に過ぎる。


 二時間半のフライトを終えて、どこかの基地で輸送機を降りると、文香とケイはそこでもう一度トレーラーに載せられた(俺は、その文香に乗ったまま)。

 そこから、陸路での移動が始まる。


 月島さん達関係者が乗ったハンヴィが、二輌のトレーラーを先導した。

 どこに行くのか、相変わらず月島さんは種明かしをしてくれない。


 車列は、夜のハイウェイを飛ばす。



 アメリカのハイウェイは日本の高速道路より格段に広くて、車線も多かった。

 道路沿いに見える景色も、平地がずっと続いて遠くまで抜けている。

 走ってる車は、ピックアップトラックとか、大きな車ばかりだ。


 ずっと砂漠にいたから、俺は、ここでやっとアメリカにいるって実感した。



「ご褒美って言ってたけど、どこか、景色が良いところで観光でもさせてもらえるのかな?」

 走りながら文香が訊く。


「うん、そんな感じかなぁ……」

 俺も、まるで見当がつかない。


 ハイウェイから見る限り、看板に「カリフォルニア」とか「アナハイム」とか書いてあるから、俺達はまだ西海岸にいるんだろう。

 ヤキマトレーニングセンターからの移動時間で推測しても、そんなところだろうと思った。

 文香が言うように、この辺での観光ってなると、ゴールデンゲートブリッジとか、ロサンゼルスとかを見て回るんだろうか?

 これぞアメリカ、ってところを観光するのか。


 だけど文香やケイが連れ立って観光するのは、ちょっと目立ちすぎる気がする。

 なにしろ、二輌の戦車が連れ立って移動するのだ。

 どこにいたって大勢から注目を集めてしまう。

 人が多いところだと、体の大きな文香とケイは、何かと気を遣いそうだし。

 そんなんじゃ「ご褒美」にはならないと思う。


 そんなこと考えてるうちに、車列はハイウェイを下りた。


 そこで俺達の前に現れたのは、光溢れる「夢の国」だった。


 ハイウェイを下りてすぐの所に、おとぎ話の世界から抜け出てきたようなお城が建っている。

 さらには、観覧車やジェットコースターのレールみたいなのも見えた。

 きらびやかなイルミネーションで、辺り一帯が輝いている。


 文香とケイを載せたトレーラーは、その前にあるバスターミナルのような所で停まった。

 そこでトレーラーから下ろされる。


 輸送機とトレーラーを乗り継いで、やっと目的に着いたらしい。



 車列の先頭にいたハンヴィから、月島さんが降りてきた。

 俺は、文香の車長席のハッチを開けて、上半身を外に出す。


「もう今日の営業は終わってるんだけど、ここ、貸し切ってあるから」

 俺達に向けて月島さんが言った。


「でも、ここって…………」

 俺も文香も言葉を失う。


 そこは、誰もが知ってる世界的に有名なテーマパークだった。

 東京(千葉)にもある某テーマパークの、ここが大本おおもとだ。


「貸し切り、って、ここで遊んでいいんですか?」

 俺は、呆気あっけにとられながら訊いた。


「ご褒美って言ったでしょ? 朝まで、あなた達三人だけの貸し切りだよ」

 月島さんが言う。


 お、おう…………


 確かに、閉園後のここならあまり人目につかないし、俺達だけで自由に遊べる。

 他の人達に迷惑をかける心配もないし、こっちが気を遣う必要もない。


 でも、まさか貸し切っちゃうとか……


「私が予算をぶんどって来た、って言いたいところだけれど、向こうアメリカ側のご厚意こういに甘えたの。ケイのAIの情操じょうそう教育にもいいだろうからって、貸し切ってくれた。それでこういうことになったってわけ」

 そう言って肩をすくめる月島さん。


 さすが、っていうか、スケールが大きすぎる。


「だから、思う存分遊ばせてもらいなさい」

 月島さんが悪戯っぽくウインクした。


「フミカ! トーマ! 行こう!」

 聞くなり、トレーラーから下りたケイが走り出す。

 ガスタービンエンジンがうなりを上げた。

 普段人間が入るゲートが一箇所大きく開けてあって、そこからパーク内に入るケイ。


「ケイちゃん、待って!」

 文香も後に続いた。

 40トンを超える車体が浮き上がりそうな勢いで駆け出す。

 文香の車長席のハッチから体を出してる俺は、振り落とされないように、しっかりと手すりを掴んだ。



 入ってすぐのところに広場があって、そこから園内を貫くように伸びるメインストリートに続いている。

 その一番奥に、さっき外から見えたお城がそびえていた。


 ケイと文香は、そのメインストリートを、並んでゆっくりと進む。


 道の両側にはテーマパークの売店だったり、コーヒーショップだったり、たくさんの店が並んでいて、そこには明かりがついていた。

 店員さんもいるから、夜中でも俺達だけのために営業してるらしい。


「あとで、みんなにお土産買っていこうよ」

 文香が言った。

「そうだね」

 委員会のみんなに、良い土産になる。


 ゆっくりと進みながら、レンガ造りや、下見板張りの色とりどりの建物を見てるだけで楽しかった。

 ケイと文香は、ショーウインドウから店の中を覗いてキャッキャとはしゃぐ。


 こういうところは、二人とも女子なんだと思う。


 メインストリートを奥まで行き着くと、そこにあるお城の前で写真を撮った。

 青い屋根の尖塔せんとうが幾つも立ってる城は、無数のLEDライトで飾られてまばゆいばかりだ。


 文香とケイが城の前に並んで、俺がシャッターを切る。

 文香とケイの砲塔には、さっき俺が店で買ってきた「丸い耳が付いた帽子」が乗っていた。

 ちなみに、俺もそれをかぶらされている。



 写真を撮ったあとは、そこからぐるっと園内を回った。

 パーク内には、山があったり、川があったり、蒸気機関車が走ってたり。

 広い湖のような池の中からは、潜水艦が浮かんできたりした。


 まさしく、なんでもありの「夢の国」だ。



 わいわい言いながら回ってるうちに、ビルのような建物に行き当たった。

 多分これ、フリーフォールのアトラクションだ。


「私達は乗れないから、トーマ、乗ってきなよ」

 それを見上げてケイが言った。


「俺、こういうアトラクションとか、苦手だから……」

 絶叫系のアトラクションは、絶対NGだ。


「なに言ってるの、普段からフミカっていうじゃじゃ馬に乗ってるんだからこんなの楽勝じゃない」

 ケイが言った。


 あれ?

 そういえば、そんな気もする。


「じゃじゃ馬とか、ケイちゃん酷いよ!」

 文香が言って、ケイがゴメンゴメンと笑った。


 結局、俺は乗らざるを得なくなる。


 アトラクションの中では何度も上下して内臓を揺さぶられて、俺は、ふらふらになって出てきた。

 そこをケイと文香に笑われる。

 まったく、二人とも人を乗せといて、酷い!



 そして、俺達はにも会った。


「あれ? 〇ッ〇ーじゃない?」

 最初に気付いたのはケイだ。


 このテーマパークのメインであるネズミっぽいキャラクターが立っていた。

 そして、こっちに手を振っている。


「ホントだ! 〇ッ〇ーだ! 〇ニーもいる!」

 文香が気付いた。


 ケイと文香が一目散に駆け出す。

 全速力で走って、きそうになるすれすれのところで停まった。

 二輌の戦車が全速力で迫ってきて、多分、〇ッ〇ーと○ニーの中の人、寿命が五年くらい縮んだと思う(中の人なんていないけど)。


 二人ともそんなのおくびにも出さず、笑顔でハグをしてくれた。

 小さなキャラクターが、自分の何倍もあるケイや文香を優しく抱いてくれる。

 キャーキャー弾んだ声を出す二人は、ホントに子供みたいだ。


 他の、アヒルっぽいキャラクターとか、犬っぽいキャラクターとか、リスっぽいキャラクターも出てきてくれて、みんなで写真を撮った。



 キャラクターとの対面を終えて、一息つこうとしたとき、


「さーて、ここから先は、フミカとトーマ、二人で回りなよ」

 ケイがそんなことを言い出す。

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