慟哭編11話 コピー狼の真骨頂
重力磁場の効果範囲の前で足を止めたオレは、天狼の息吹で気を練る。
「ほう。……武芸者とは思えぬチャクラの
外野のジェダが呟いた。武芸者が練気と呼んでいる技は、ヨーガでは鍛功と呼ぶらしい。
「何でもかんでもヨーガの物差しで測るな。練気と鍛功、どっちが古いかなんてわかったもんじゃねえだろ。」
夢幻一刀流は北斗神拳と同じで二千年の歴史があるんだぞ。派生前の夢幻流まで含めればもっと長い。
「エイジア人はその手の技巧が本当に好きだな。錬金だの炭鉱だの、とかく小細工に凝りよる。」
練気のれの字も知らない閣下だが、武芸者がそういう技を使うコトは知っている。秘術も技巧も、閣下に言わせれば"小賢しい小細工"になっちまうのだろう。災害や死神のような人外には必要なく、習得も出来ないであろう技術だけにな。
「閣下、オレは神器と
……スタジアムの熱気がちょいとばかり下がったかな?
「もう一度くだらんジョークを飛ばしおったらイベリア送りだ。……こちらから仕掛けてやりたいところだが、抜いておらんという事は、お得意の居合からの派生技を狙っておるな? 小細工を邪魔したければ黄金パターンの待つ一足の間合いに飛び込まねばならん。躊躇しておれば小細工が完了する。刃を交える前から頭脳戦とは、食えぬ男だ。」
普段は衝動で行動しやがる癖に、いざ戦闘となれば滅茶苦茶頭が回るんだよな。戦う為に生まれてきた男の面目躍如ってトコか。
「ご明察の通りだ。どうするね?」
「ワシはどんな罠でも力尽くで粉砕する。それしか知らんし、それしか出来ん。」
閣下以外の兵がンなコトをのたまったら"馬鹿が、思い上がるな!"って一喝するところだが、災害ザラゾフなら許される。絶対的な自負に見合う、絶対的な力量。非常識を常識にしてしまう人外ならばな。
石畳を並べた壁が迫ってくる。気配を探るまでもなく、石壁の後ろから闘争本能の化身が駆けて来てるな。普通だったら石壁が破壊されたらこうするって考えるだろうが、相手は閣下だ。受けに回るとは思えない。
「ぬんっ!」
自ら砕いた石畳が散弾みたいに飛んできた。そう来るだろうと思っていたぞ。袖から出した砂鉄で鉄壁を形成し、
「石には鉄で対抗する、か。そうでなくてはな!」
飛礫と共に繰り出される斧槍の穂先に意識を集中する。スタジアムでのエキシビションマッチだからな、真剣勝負でもエンタメ要素は必要だろう。……今だっ!
「よっと!」
唸りを上げる斧槍の突き、極限の見切りを発動したオレは穂先の上に右足の爪先だけで立ってみた。
「おのれ小癪な!」
閣下の長い戦歴でも、穂先の上に立たれたのは始めてなんだろう。額にぶっとい青筋が何本も走る。おーおー、猛ってる猛ってる。
「行くぜ、閣下!」
斧槍の上を走って頭部へ攻撃を仕掛けようとしたが、それを許す閣下ではない。
「甘いわ、若僧!」
右手で得物を引き戻しながら左の掌底を力強く突き出す。予備動作ありのサイコキネシスは凶悪で、オレのカウンターサイコキネシスごと体も弾き飛ばす。予測より数段早く着地する羽目になったオレは、亀裂どころか粉々になった石畳に片膝を着いてしまった。閣下は一点集中の重力磁場を弾いた先に設置していたのだ。
「こ、これが災害ザラゾフのマックスパワーかよ。……!!……ありがとう。」
並の兵士なら片膝どころか全身を地面に貼り付けられて、骨という骨がバキバキに折れちまうだろうな。多少デキる兵士でもこの見えない檻からは逃れられまい。
「礼を言うのは負けてからにせい!まだ頂点には届かなんだようだな!」
サイコキネシスで低空飛行してきた閣下の横薙ぎを、オレは速く高いバク転で躱した。
「……解せんな。なぜそんな速さで動ける。ワシの重力磁場に捕まっておっただろうに……」
「だから礼を言ったんだ。"貴重な能力をありがとう"ってね。」
「……!!……反重力磁場か!剣狼、おまえはワシの重力操作を
ラーニングの瞬間を自覚出来たのは始めてだな。今までは"いつの間にか覚えていた"だったんだが。
「そういうコトさ。とある念真能力研究家が"磁力操作能力は重力操作能力の亜種ではないか"って仮説を立てていたが、たぶん当たりだ。」
「亜種から覚えて原種に辿り着きおったか。普通は逆だぞ、この捻くれ者めが。」
オレらしいと言えばオレらしいけどね。さて、使えるようにはなったがいいが問題もある、効果範囲が極端に狭いし、強度も閣下ほどじゃないんだ。だけど、対重力操作能力者って意味では大きな意味がある。閣下の重力磁場をほぼ無効化出来るなら、他の重力操作能力者なら完全に無効化出来る。覚えたばかりの能力は、カウンタースキルとして磨きをかけるべきだな。重力操作能力者と戦う時は、反重力磁場を形成しながら戦えばいい。マルチタスクにゃ自信があるんだ。
「邪道から入るのがオレ流でね。閣下のお陰で手札が増えたよ。」
「……強者と戦って、より強くなる。おまえはそうやってここまで来たのだったな。ワシは剣狼カナタは"人を極めし者"だと思っておったが、考えが浅かった。人間にはまだ伸びしろが、可能性があるらしい。」
あんまりカッコいいコト言わないで。マリカさんとのハードえっちに釣られて参戦した自分が恥ずかしくなるじゃん……
「勝負を続けよう。閣下、面白くなってきたな。」
「うむ、実に面白い!闘争とはこうでなくてはな!」
反重力磁場を形成出来るようになったからって、閣下に勝てる訳じゃない。つーか、やっとマトモに戦えるようになったって感じだ。
打ち合うコト十数合、何発かの有効打を浴びせ合ったが、勝負の天秤は釣り合ったままだ。
「元帥、一度代わってもらおうかの。見ておるだけでは退屈じゃ。」
宙に浮いて座禅するジェダが閣下にタッチを要求すると、フワリと飛翔した偉丈夫はコーナーに戻った。
「よかろう。自慢の
「やれやれ。同盟元帥がこれでは、世界の調和は遠そうじゃのう。」
チャクラムに乗ったジェダは滑空しながらオレの周りを周回する。ケリーも似たような戦法を使ってきたなぁ。
「ヒョオ!」
伸びる手足やチャクラムで死角から攻撃しておいて、また死角に回るのか。さすがは完全適合者だ、一筋縄ではいかないな。とはいえ、やっぱり閣下ほどの怖さは感じない。
「ジェダ、死角に回っても無駄だ。オレにはおまえが見えている。」
暗夜行を修めたオレは、背中に目が付いてるようなもんだ。視界の中から攻撃するよか、マシではあるがな。
「完全適合者ともなれば、第三の目ぐらい持っておるか。当然と言えば当然じゃの。」
まーな。……武芸はド素人の叢雲トーマは気配なんざ察知出来ないだろうけど、あの男は強力無比なバイオセンサーを常時オンにしてやがるから関係なさそうだ。
死角に回り込むのをやめたジェダは象形拳とチャクラムを使った挟撃に切り替えてきたが、それも目で追い切れないコトはない。どんな奇抜な動き、巧みな連携であろうと、反射神経と体術で躱せる。……問題は、オレの剣も当たらないコトだな。技巧と軟体ばかりに目が行っていたが、この爺様は"動作の起点"を読むのが抜群に上手い。それがヨーガの力なのか、拳法の力なのかはわからんが、大したもんだ。
「ほっほっ、起点を読ませないように工夫し始めたようじゃが無駄無駄。業を捨てねば儂には勝てぬよ。」
視線を工夫してもフェイントを入れてもダメか。どうやらオレには見えないものが見えてるらしいな。
「確かにな。仙人相手に起点を読ませないってのは難しいようだ。けどな、打つ手がない訳じゃあないんだぜ?」
第六感じみた能力で狼眼の発動すら読める仙人と戦うには……これしかあるまい。創意工夫がオレの武器だが、あえてその武器を放棄する!
「最短で最速、そして最大の膂力で攻撃してきおったか。若いのう。」
どうせ読まれるってんなら、読まれる前提で戦えばいいだけだ。いい
「来るのがわかってようが、狼眼からは目を逸らさずにはいられないよなぁ。」
アンタが狼眼の気配を察知して視線を逸らせるように、オレもアンタが目を逸らすのを読めている。だから、視線を切らせた瞬間を狙う!
「うりゃあ!」
軟体に対抗するのは正中線を狙うのがいい。当たったかと思ったが、チャクラムを付けた足でガッチリガードしやがったか。とはいえ受けさせればコッチのもんだぜ!
「甘いのう。躱すばかりが能では…なんと!」
受けに構わずフルスイングした刀は、高々と軽い体を吹っ飛ばしていた。リング外に出る前にサイコキネシスで静止し、地に降り立ったはいいが片足立ちだ。おおかた、
「カナタ!一人で遊んでないでアタイに代われ!」
わかっていても躱せない攻撃ってんなら、オレよりマリカさんだな。交代しとくか。
「ジェダ、交代だ。緋眼の速さに目を慣らしておけ。」
ジェダの足の痺れに気付いてもいるし、こっちが何を狙っているかにも気付いているってか。そんだけ頭が回るんなら、普段からもっと使えばいいのに。
リング外で待機してる間に勝ち筋の再検討でもすっか。ノックアウトは難しいから、リングアウト勝ちを狙いたいけど、閣下もジェダも強力なサイコキネシスを持ってるんだよなぁ。う~む、どうしたもんか……
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