侵攻編6話 好事魔多し
復興が進む都、陣頭指揮を執るのは御鏡雲水だ。朝は市議会を取りまとめ、昼は復興現場を飛び回り、夜は各界の要人と会合する。わざと瑕疵のある法案を可決させて、姉さんに是正勧告を出させたり、雲水代表のやるコトにはそつが無い。
「カナタさん、いくら私に威光を持たせる為とはいえ、これでは雲水が悪者になってしまいます。」
すっかり日の落ちた総督公館の執務室、姉さんは雲水代表から送られてきた是正勧告案に目を通しながら、ため息をついた。
「市議会に傲慢、独善の気配が見えれば、帝がそれを正す。市民にそれを周知させる為には、実例を作るのが最良である。雲水代表の戦略は理に適っています。」
帝は権威の象徴として政務には口を出さないのが理想、だが現在の状況がそれを許さない。最高権力者が号令すればすぐさま挙国一致する体制でなければ、この難局は乗り切れないのだ。乱世と平時では、求められる指導体制が違う。
「ですが雲水は父の政権でも宰相を務め、その右腕と目されていました。君側の奸を討つという名目で、過激な行動に走る者が出てきたりはしませんか?」
「"こう改正すればより市民の為になる"という点が残っているだけで、我龍政権のように無理無体な法案を通している訳ではありません。きっちりバランスを考慮した上での不完全法案ですから、反発は最小限に抑えられています。これで過激な行動に出るような馬鹿は、何をどうやっても暴発します。それこそ、"御鏡雲水は我龍政権のナンバー2だった"とかいう理由だけでね。そういう輩への対策は万全ですから、ご心配なく。」
そもそも、姉さんが出す是正勧告で瑕疵は改められている。政治は結果が全ての世界、それがわからない馬鹿を相手にする必要はない。雲水代表の表にはリック隊とナツメ、裏にはロブ隊をつけている。凶行に及べるもんならやってみな。
「カナタさん、雲水を守ってくださいね。これは姉としてではなく、総督としてのお願いです。新生照京は大黒柱を失う訳にはいかないのですから。」
「無論です。姉さん、勧告案に目を通されたのなら、そろそろお休みください。」
「はい。今夜はカナタさんも公館に泊まってゆくのが良いでしょう。」
「八熾屋敷まで距離はありませんから、明日の朝また来ま…」
「姉さんは弟と遊びたいのです。ビーチャムもよね?」
「ハイであります!自分も隊長殿と遊びたいのであります!」
シュバッと敬礼するビーチャム。レオナさんの負傷が癒えるまでは引き続き、赤毛のそばかす娘が帝の24時間警護にあたる予定だ。辺境基地の雑用係だった少女が、なかなかの出世をしたと言えるだろう。
───────────────────
姉さんの私室で催されたお遊戯会。使用するのは対戦格闘ゲーム"筋肉重装甲アニキング・マッスルコロシアムⅡ"、略してマッコロⅡである。
地球に居た頃は、大学よりもゲーセンにいた時間のが長かったオレだ。多少ブランクはあるが、対戦格闘ゲームのセンスは錆びついちゃいないんだぜ。ほらな、また勝った。
「う~、また負けたぁ!……隊長殿は大人げないのであります!対戦性能では最強ランクのアネキング・アタックフォルムを使って勝っても自慢にはならないのであります!」
うるせえ、ほっとけ。別に対戦に限らず、マイキャラはアネキング・Aだと決めてんだよ。前作でも使ってただろうが。
「マッコロ無印では不遇だったアネキング・Aが、まさかここまでパワーアップされてるとはな。開発陣も前作で反省したらしい。セクシーキャラが強くないと、ゲームは売れないと。」
「……カナタさん、まさかとは思いますが、"勝利ポーズで胸が揺れるから愛用している"、そんな事はありませんよね?」
ギクリ!
「そ、そんみゃコトはありましぇんじょ……」
「図星のようですね。弟の煩悩を姉さんが祓ってあげましょう。いざ勝負です!」
よりによってアニキング・マイティスタイルを使うんですか。姉さん、ソイツはアネキング・Aには対戦相性最悪ですよ。サ〇ットVSザンギ〇フみたいなもんなんですけど……
「むむっ!なかなか近付けませんわね。これでは必殺のマイティボムが放てません……」
投げキャラを寄せさせるほど甘くはないですよ。アニキング・Mはマイティボムにだけ注意してればいいキャラなんだし。
「上下にアネスラッシュを打ち分けるだけの砲台モード……隊長殿、大人げないにも程がありませんか? 控え目に言っても勝利乞食のやり口であります。」
わかったわかった。でもな、砲台を止めてもアネキング・Aは強いんだぞ? 固め技も大幅に強化されてんだからな。動きが鈍重で、技の出も遅いアニキング・Mならラッシュで完封出来るんだ。ダッシュ小パンから小足×2に繋ぎ、中足キャンセルアネキック。固めて固めて、ほ~らね!
「……パーフェクト負け。アニキングが手も足も出ないとは、開発した方は原作を見ていらっしゃるのかしら……」
憮然とする姉さん。贔屓キャラの完敗が納得いかないようだ。
「ミコト様の仇は自分が討つのであります!」
はいはい、返り討ち返り討ち。オレは代わる代わる挑んでくる二人を撃破し続ける。
「キャラチェンジを要望するのであります!アネキング・Aは強すぎなのです!」
キャラも強いけど、オレが上手いの!しかしビーチャムはビギナーだが、姉さんは結構上手いな。投げキャラっつーか、パワーキャラに拘らなければ、かなりやれそうなんだけど。
「……致し方ありませんね。奥の手を使いましょう。」
奥の手? ちょいオコ顔の姉さんはキャラ選択画面でカーソルをあちこちに動かし始めた。ま、まさか……
「わっ!アニキング・ストロングスタイルが出てきたのであります!」
やっぱ隠しキャラかよ。隠しキャラってのは大体ヤベー性能してんだよな。
「姉さん、発売から日が立ってないゲームなのに、よく隠しキャラの存在を知ってましたね。」
発売日と同時に発行された攻略本には、隠しキャラの出し方なんて載ってなかったぞ?
「メーカーに電話をしてお聞きしました。原作における究極のスタイルが入ってないのは如何なものかと問い合わせたら、こっそり教えてくださったのです。」
権力の私的利用にあたらんだろうか……
開発元の神難ゲームズ(略称・神ゲー)も、帝から電話がかかってきたら、さぞビックリしただろうな。
「姉さん、どこまでアニキングが好きなんですか……」
「うふふ。姉さんの本当の力を見せてあげます。覚悟なさい!」
初見のキャラのなにが怖いかって、技性能がサッパリわからんコトなんだよな。様子見がてら時間を使って戦って、1本取られちまったか。でも技性能と戦い方はだいたい把握したぞ。隠しキャラのアニキング・Sは強いコトは強いけど、バランスが崩壊する程じゃない。対戦性能は間違いなく上位ってレベルに留まっている。
「技を適当に振り回してるだけで手も足も出ないって訳じゃないな。これなら勝機はある!」
「かかって来なさい!アニキングの真の力を見せてあげます!」
姉弟の熾烈な攻防、でもなんとか1本取り返したぞ。イチかバチかの当て身投げが決まったのが大きかったな。
「勝負所のカンは流石です。ですがファイナルラウンドは姉さんが取りますからね!」
「元ボッチの誇りに賭けてオレは勝つ!格闘ゲームはトモダチだい!」
地球にいた頃は、マジで外との繋がりはこれしかなかったんだからな!
寂しい青春の全てを賭けたオレのラッシュがハマり、姉さんの体力ゲージはもう僅かだ。あと一息で勝てる!
大足で転ばされたが、体力ゲージはまだまだ余裕。やっぱり苦し紛れの起き攻めが来たな!めくり大キックなんて対戦玄人には通じ……あれ!? モロに喰らってる……そんでコンボでピヨらされて、またピヨリまで持ってかれてるぅ~!
「めくり大キック、しゃがみ小パンチ×2、立ち小パンチ、ダブルマッスルプレス、立ち大キック。ダブルマッスルプレス後の立ち大キックは要目押しです。難しいようなら立ち中キックでも可、それなら目押しは要りません。スタン値が普通のキャラならそれでも再度気絶しますから。はい、さようなら。」
僅かに残った体力をコマンド投げで持ってゆく姉さん。オーバーキルにも程がある。
「……姉さんのやり込み具合がパない。でも最後のめくり大キックはガードしたつもりだったんだけどなぁ……」
「私が2Pキャラを使っていたからでしょうね。メーカーさんのお話では2Pキャラは判定が少し変で、めくっているのに正ガードになる場合があるとの事でした。今、修正パッチを作っているそうです。」
「なるほど。格闘ゲームあるあるですね。」
「ミコト様が有終の美を飾られたところで、アニキング勉強会を始めましょう!アニキングがストロングスタイルに目覚める回が見たいのであります!」
「はい、そうしましょう。ビーチャムさん、実はマッコロⅡの隠しキャラには、ラスボスの邪悪大帝メタボーンと、隠しボスの悪の大首領シボーンもいるんですよ?」
「マジでありますか!後で出し方を教えて欲しいのであります!自分はぷよぷよお腹がキュートなシボーン様の大ファンでありますから!」
ハート様みたいな濃いデブキャラって、いつの時代も一定の需要があるよなぁ。オレもシボーン様は結構好きだ。実は主人公アニキングの実父で、息子が新たな敵組織の大ボス・メタボーンに負けそうになった時に助けに来るとか、ベタだけど熱い。
ビーチャムが映像ソフトの準備を始めた時に、オレのハンディコムが鳴った。司令からか。
「もしもし、カナタです。」
「私はシャングリラのペントハウスにいる。
わりかし、か。これはアスラコマンドの符牒で、重大な何か(緊急性はない)が起こった場合に使用する。また厄介事が起きたらしいな。
「ビーチャム、勉強会はまた今度だ。第一種警戒態勢で待機しろ。決して姉さんから離れるな。」
「イエッサー!……また厄介事でありますか?」
「そうらしい。オレはシャングリラホテルに行く。」
テレパス通信でメイド部隊を呼び寄せながらハンディコムを操作し、ナツメに警戒を伝達する。
公邸駐車場のSRVに乗り込んだオレは、司令のいるシャングリラホテルに向かって車を走らせた。好事魔多しとは言うが、今度はどんな魔が出てきやがったのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます