鬼狩り神三郎

作者 油布 浩明

怪奇の時代に巣食う人喰い鬼を食む、それこそは隻腕の探偵

  • ★★★ Excellent!!!


 異界から現世に入り込んだ鬼が、人を喰らう。そんなことがあるらしい。奴らにとって人間は、ただの餌。その餌を喰らうごとに奴らは力をつけ、ますます強大になってゆく……。

 物語の舞台は昭和四十八年。日本の高度成長期。そんな時代に、鬼と、鬼に大事な人を奪われた人間、そしてその鬼を使役して鬼を狩る異形の者たち。そんな彼らの活躍を描いた物語が本作である。

 強大な化け物が人間を喰う描写。そして、その鬼以上に恐ろしく醜い人間たち。華々しい景気の陰で蠢く闇と、渦巻く人間どもの欲望。
 醜いものから目を逸らさず、かといってその狂気に振り回されることなくそれらを淡々と描写し、その中で人の強さ、美しさ描きつつ、生きる意味を問う。そんな本作は、ちょっとイマドキの若い人には受けないかもしれない。
 いや、案外一周回って受け入れられたりするのだろうか?

 ただ、昭和の時代を生きてきた、ぼくなんかからすると、本作の雰囲気、そこに描かれる器物や論理などは懐かしく、また強烈なグロテスクさやあからさまな暴力も、いかにもその時代という感じであり、極めて居心地の良い作品世界であった。

 不気味にしてグロテスク、狂気と恐怖と暴力。そんなものを淡々と描きつつ、登場人物たちの人間性というものを丁寧に描いている本作。若い方には勧めづらいが、ぼくはその雰囲気、作品世界を十分に堪能させていただいた。そして読み終えたとき、びっくりして周囲を見回し、ここが令和の時代であることに驚きを感じたほどだ。
 もしかしたら、昭和という時代は、われわれにとって新しいフロンティアなのかもれしない。そして本作の主人公・鬼狩り神三郎は、その荒野を切り開く孤高の開拓者なのかもしれない。そんなことをふと思った。

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