第12話 モーの武勇伝?

 すっかり話が弾み、つくしがお昼寝スペースを確保するための奮闘を語り始めた頃、背後から雷鳴のような声が響いた。

「おう。コジロウっていったか。どうやら腹は膨れたようだな」

 振り返ると、そこにはモーがいた。


 彼はつい今しがたまで食事をしていたらしい。

 よほどゆっくり楽しんだのか、あるいは、どこかに余っていた分をたいらげてきたのかも知れない。


「おかげさまで、ありがとうございます」

 コジロウが丁寧に謝辞を述べると、モーは満足げに喉を鳴らした。

「がはは。いいってことよ」


「あのね、モー。この子、迷子みたいなの」

 横に座っていたれんげが、モーにそう話す。

 すると、モーは口の中でもぐもぐと噛むように「そうさな。そうでもなきゃハチの奴が連れて来るわけがねぇな」と呟いた。


 その意味が気になったものの、わざわざ聞き直す度胸もない。きっと彼はまだ食べ足りないだけなのだと思うことにした。

 それに、来た時は歓迎されていない様子だったが、こうして話しかけられたということはどうやら受け入れてもらえたようだ。


「ねえねえ! クロさんには会った?」

 横から元気につくしが尋ねる。コジロウはきょとんとした。

「……クロさん?」

「クロさんっていうのは、このあたりをまとめている猫なの」


 れんげがそう説明してくれる。

 そういえば、先ほどハチとモーの会話の中にそれらしき名前が出てきたっけ、と思い出す。


「あいつは強い猫さ。なんといってもこの俺様に傷をつけたんだからな」

 モーが鼻息荒く語る。

 彼は興奮したようにしっぽを振り回し、床板をたしんと叩いた。

 彼の体格たるや、中型犬にも迫る勢いである。彼よりも格上の猫がいるなどコジロウには信じられなかった。


「ほれ、この耳の傷は奴と闘った時についたやつだ。いわば名誉の負傷だな」

 傷を誇張するため、モーはぱたぱたと耳をはためかせた。

「おっと、言っておくが力は俺様とほぼ互角だぜ。あいつの顔には大きな傷があるが、それは俺様がつけてやったんだからな」

 彼がずいっと前に乗り出したので、コジロウの視界は一面白黒の斑模様になった。


「モーったら、またその話」

「もう聞き飽きちゃったよぉ」

 れんげとつくしが呆れたように言い、二匹そろって食後の毛づくろいを始めた。


「あのなあ。男には大事な話なんだよ」

 そう言いつつも美猫姉妹には弱いようで、モーは相好を崩している。

 さもありなんと納得していると、入口の方から「コジロウ、迎えに来たでやんすよー」と呼ぶ声が聞こえた。

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