第22話 高性能装備は冒険者としての必需品
「よっし、これで最後っと」
「フィナンシェ君、お疲れ様。汗拭いてあげるね」
革のポーチから取り出した綺麗な布で、ラディナさんが俺の額に浮かんだ汗を拭いてくれた。
お母さんって言うと怒られるかもしれないけど、世間のお母さんってこんな感じなのかも。
うちは両親ともに冒険者だったから祖母が母親代わりだったしなぁ。
で、でもお母さんっていうのはラディナさんに失礼だよね。
「ありがとうございます。助かります、ラディナさん」
「いいの、いいの。あたしはフィナンシェ君のお世話ができてしあわせだからね」
ニコニコと笑って俺の額の汗を拭いてくれているラディナさんはやっぱり可愛い……。
こんな可愛くて、よく気が付いて、優しい人と出会えて良かった。
ずっと発動しなかった時は神様を恨んだけど、あの時期はラディナさんに出会うための試練だったと思えば、神様もみんなにも感謝しかない。
「すぐ二人ともイチャイチャしてる。ラディナも積極的になったわよね」
「相思相愛だからしょうがないよ」
「わたしもラビィさんと一緒にイチャイチャするー」
「もうー、みんなの風紀はわたしが守ります」
「……お腹空いた」
村の娘さんたちが、俺たちを見てそわそわしていた。
「フィナンシェたちもイチャイチャしとらんで、作業代としてもらうもん選別するでぇ」
ニヤニヤしながら再構成した品物を見ていたラビィさんが、俺たちを呼んでいた。
アレックさんの倉庫に積んであった品は四〇点ほどあったけど、同じ品は全部強化しちゃったしな。
四〇点あった武具は『名工の鉄剣』『名工の鉄槍』『名工の鎖鎧』『名工の鉄盾』『名工の鉄兜』『名工の短剣』『名工の大槌』『名工の全身鎧』『名工の胸当て』『名工の帷子』『名工の鉄弓』といった物があった。
鉄兜と短剣はラビィさんが欲しいって言ってたし、胸当てと帷子は俺と一緒に冒険者になるって言ってくれてるラディナさんの安全のため着てもらいたいしな。
あ、あと俺も剣は伝説品質のを使うとして、鎖鎧と鉄盾が欲しいな。
さ、作業代としてはもらい過ぎかも……。
『名工の短剣+5』……一七五万ガルド
『名工の鉄兜+3』……二一〇万ガルド
『名工の胸当て+4』……一八〇万ガルド
『名工の帷子+3』……二〇〇万ガルド
『名工の鎖鎧+2』……二〇〇万ガルド
『名工の鉄盾+5』……一六〇万ガルド
『名工の鉄弓+2』……一〇〇万ガルド
ざっと計算してもらう分の資産価値が一三〇〇万ガルド近い。
でも、ラビィさんについて冒険者をやるなら装備にはお金をかけたいところだし……。
あー、でも、一三〇〇万ガルド近いってのはさすがにマズい気が。
「フィナンシェ、お前作業代取り過ぎちゃうやろかーって思ってないやろな? もう一遍念押ししとくが、お前たちがおらんかったら、これは倉庫の片隅でずっとゴミとして埋もれるもんやった」
「で、でも、一三〇〇万ガルドの資産価値ですよ……。これだけあればミノーツの街の一等地にこぢんまりとした家が立つんですけど……」
「ええか、フィナンシェ達の力があれば金はいくらでも作り出せるはずや。これは、ワイらの始める冒険者パーティーへのアレックからの借入金だと思えばいい。どうせ、装備を強化するにはアレックからも品物を買い入れないといけない時期もくるんや」
そうか、俺は借金清算したらラビィさんと、ラディナさんたちと冒険者パーティーになるんだった。
そのための借入金……。
冒険者として稼いだお金で、アレックさんから強化用の装備を買い入れれば相殺ってことか。
「わ、分かりました。この装備は冒険者をするためにアレックさんからお借りするという形で、いずれお金ができたらいっぱい商品を買うということにします!」
「だったら、大事に使わないと。壊したら……」
かなりの価値のある武具のため、ラディナさんが壊すのを不安視していた。
「大丈夫です。俺とラディナさんなら壊れた武具もすぐに元通りにできますよ」
「あ! そうだったわね。フィナンシェ君の力があればすぐに直せた。これって、すごいわよ。すご過ぎ!」
「フィナンシェの力があれば武具の劣化は気にしないでええからなぁ。ほんまにトンデモないスキルやで」
普通、武具は使えば傷むもんなぁ。
でも、リサイクルスキルで再構成すれば新品同様になるって、これだけでも実はすごい力だよね。
「な、なんかすみません……」
「ええってことや。ワイはお前らとパーティーを組んでほんまに正解やったわ。さすがワイやな」
「さすがラビィさん! 素敵! 抱いて」
ラビィさんの惚れているセーナが抱きついていた。
「おぅ、ワイは大冒険者やからな。おいおい、公衆の面前でお触りは厳禁やで」
それにしてもSランク冒険者のラビィさんだけど、Sランクなら他の冒険者からお誘いはいっぱいあっただろうに。
そんな中から俺を選んでくれたとか思うと、ちょっと誇らしい気分になるなぁ。
早く自分の借金をフィガロに叩き返して、ラビィさんたちと冒険の旅に出てみたい。
そんなことを思っていたら、ラディナさんから呼びかけられた。
「フィナンシェ君、ラビィの自画自賛は放っておいて、アレックさんにお渡しする物を持って行こう」
「あ、はい。じゃあ、荷物は俺が持ちます」
「おい、フィナンシェ! ワイらも行くぞー!」
ラディナさんの手に引かれて、俺たちはアレックさんの鍛冶場へ荷物を持っていくことにした。
アレックの鍛冶場は何人もの職人が忙しそうに行き来をしていた。
この鍛冶場ではアレック以外の職人もそれぞれが武具を作り、店頭販売をしているため、金床や炉がいっぱい並んでかなりの熱気がこもっている。
そんな鍛冶場の一番奥にあった一番デカい炉の近くにアレックはいた。
「アレックさーん、倉庫の整理終わりました」
「早かったな。もう全部搬出してくれたかのか」
「おう、ワイらは早く綺麗にをモットーにやっとるからなぁ。でな、その最中に装着者指定の加護がない武具が出てきたんで、どうしようか相談しにきたんや」
俺たちの前にラビィさんが駆け出ると、眼帯を上げていて目が赤く光っていた。
「はぁ? 装着者指定の加護がない武具が混じってただと? いや、あそこには私が作った作品で受取り相手が居なくなったものしか置いてなかったはず――」
「いや、実はな。ほれ、こう触っても例のビリビリがこんのや」
ラビィが武器を手に取っても感電する気配を見せないでいた。
「いや、そんなことは――」
「あんさんも人間やし、間違えや忘れるってこともあると思うでぇ。なんなら自分で試してみぃ」
アレックさんは半信半疑ながらも、ラビィさんから受け取った剣を握る。
「本当だ……感電しないぞ。私が加護の付与を忘れたか……」
「で、この品物は誰でも装備できるならすごい価値の品物じゃないですか。だから、俺たちがもらっていくのは心苦しいんでお返ししようかと思いまして」
「鉄槍と全身鎧と大槌か……確かに誰でも装備できれば、販売はできるな。だが、一度あそこにあった物は持って行っていいと言ったし、倉庫を整理してもらった上に返してもらうわけには」
やっぱ、そういうことになるよね。
でも、ラビィさんのスキルが発動してるし、受け取ってもらえるはずだ。
「ワイらは装備者指定の加護が付いた使えない武具を引き取るって言うただけで、売り物は引き取れへんのや。この品物の売り上げは依頼して受け取れずに亡くなった冒険者の親族への供養の品の原資にしたらどうや?」
「そ、そうか……。そういうことなら受け取って販売しよう。ならば、フィナンシェ君たちには謝礼を用意せねば」
「いいって、いいって。ワイらとしては有名鍛冶師の倉庫で仕事したって実績をもらえればそれだけで十分や」
「それでは、こっちの面子が立たない……ああ、そうだ! 謝礼が無理ならテリーと同じように仕事先の世話をしてやろう。うちの取引先でもある冒険者ギルドのギルドマスターのフランに話を通しておいてやる。あいつもギルドの倉庫に不用品が溢れかえって困っていると言ってたしな。ちゃんとお前らのことを説明して話を通しておくから明日にでも訪ねてみるがいい」
俺たちへの報酬に困ったアレックさんが新たな仕事先の世話をしてくれた。
それにしても、冒険者ギルドの不用品とかって何だろうな。
そういえば、ラビィさんたちに会ってからゴタゴタしてて冒険者ギルドへのゴミ拾いの完了報告も忘れてた。
ついでにちゃんと終了報告しとかないと。
「アレックさん、いらない物を引き取らせてもらっただけでなく、次のお仕事先まで紹介していただき、ありがとうございます! 本当に感謝してます! ありがとうございます!」
一三〇〇万ガルド相当の装備品も借りているので、アレックさんには本当に感謝の気持ちしか湧いてこない。
「あ、ああ。フィナンシェたちには処分に困る品物を押し付ける形になって面倒をかけているからな。私の方こそ感謝している。ありがとう、助かったよ」
俺はアレックさんとガッチリと握手した。
「ほな、ワイらは失礼させてもらうとするか。日も暮れてきてるしな。明日の朝に冒険者ギルドにはお邪魔させてもらうから、さっきの件よろしく頼むな」
「おお、任せておけ。早速、約束は取り付けておいてやる」
アレックは仕事用の前掛けを置くと、鍛冶場から去っていった。
「おっし、明日の仕事場は確保したな。冒険者ギルドは色々と扱ってる場所やから何が出るか楽しみやな」
「そうですね! 楽しみです! よーし、明日も頑張るぞー!」
「じゃあ、晩御飯も頑張って作るわね。帰りに食材買って帰りましょう。フィナンシェ君は何が好き? お肉? お魚?」
ラディナさんがそっと俺の隣にきて腕を絡めてきた。
「な、なんでも大丈夫です。ラディナさんが作ってくれるものなら……」
「……もう、フィナンシェ君可愛すぎ」
真っ赤になって照れてた。
ラディナさんこそ、可愛すぎでしょ……。
「おーい、イチャコラは家に帰ってからやれやー。帰るでぇー」
「あ、はい! そうします! じゃ、ないや! 帰る準備します!
ラビィさんにバシンと背中を叩かれ、我に返ると急いで帰る準備を始めることにした。
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